著者
高木 正洋
出版者
日本衛生動物学会
雑誌
日本衛生動物学会全国大会要旨抄録集
巻号頁・発行日
vol.61, pp.7, 2009

日本の疾病媒介蚊研究は、多くの先人により業績が積み上げられてきた。国内や台湾などで繰り広げられたマラリア防遏事業に関わっての媒介蚊研究から数えれば、その歴史は今やほぼ一世紀である。特に第二次世界大戦後の1950年頃からの進捗はめざましく、日本衛生動物学会もこの時期に大いなる充実を果たした。中でも山田信一郎博士らに始まり戦後に跨る日本脳炎の疫学とその媒介蚊の研究の成果は、広範かつ組織的に行われた研究スタイルと共に、世界に誇るべき学術的果実のひとつといってよいであろう。<BR> それから約半世紀、日本の環境は大きく変わった。それに伴って蚊媒介性感染症と媒介蚊の発生様相も劇的に様変わりしてきた。国内のマラリアや日本脳炎は駆逐、或いは激減した。しかし一方では、温暖化の進行と軌を一にして、デング熱やチクングニャ熱を媒介するヒトスジシマカの北方への分布拡大が確認されている。また海の向こう、熱帯を中心として数々の感染症とその媒介蚊が相変わらず我々を取り囲んでおり、しかもその間を半世紀前とは比較にならない規模で人と物が行き交うという現実もある。今の日本は不気味な空白のただ中に置かれている、という表現が当たっているように感じるのである。間断無き侵入監視の強化とともに、1960年代に負けない活発な研究を、グローバルな視点で再構築することが何よりも大切な時期にさしかかっているのではないだろうか。<BR> このシンポジウムは、上記のような認識に立って企画された。我々には、日本における媒介蚊研究の隆盛期以来ずっと今日まで日本の蚊学を支え、余人及ばぬ造詣を蓄えられた先輩があり、他方、気鋭の蚊学者による国際的な評価に能うべき研究成果も次々に挙がってきている。ここでは、それらの蚊学者のうち5名の会員にお願いし、媒介蚊の研究は過去どのように進展してきたかについて学び、加えて今、そして未来に向けグローバルな視野に立った蚊研究は何をすべきなのだろうかを、二、三の疾病を例にあげて討議を試みる。<BR> この討議が今後斯学の発展に寄与するだけではなく、多くの疾病流行地での研究向上に資すること、そして疾病対策や媒介蚊駆除戦略の再検討に役立つことを期待している。

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