- 著者
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神谷 研二
- 出版者
- Journal of Radiation Research 編集委員会
- 雑誌
- 日本放射線影響学会大会講演要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2011, pp.4, 2011
平成23年3月11日に発生した東京電力福島第1原子力発電所の事故は、国際原子力事象評価尺度でレベル7に評価され、大量の放射性物質が環境中に放出された。人類が経験したことのない長期に渡る原子力事故における、住民への低線量・低線量率被ばくによる健康影響が危惧されている。しかし、きわめて低いレベルの低線量、低線量率被ばくによる発がんリスクを推定できる精度の高い疫学資料は乏しく、低いリスクの推定には不確実性が残されている。国際放射線防護委員会は、放射線防護の立場から、、低線量域での発がんリスクの推定は、高~中線量域で認められた被ばく線量と発がんリスクとの間の直線の線量・効果関係を低線量域まで外挿し、低線量域でのリスクの推定を行っている(LNTモデル)。その際に、低線量、低線量率被ばくによる発がんリスクを推定する場合は、LNTモデルを適用して推定された値を線量・線量率効果係数(DDREF)である2で除することで補正することを勧告している。最近の研究により、細胞は、日常的に起きているゲノム損傷に対し様々な細胞応答現象を誘導し、ゲノムの恒常性を維持する機構を発達させてきたことが明らかにされつつある。低線量被ばくによる人体影響では、微量なゲノム損傷に対する細胞応答現象による修飾を受けることが想定される。本シンポジウムでは、低線量放射線影響の人体影響に関し生物学的な観点から議論する