- 著者
-
神谷 研二
- 出版者
- 日本小児血液・がん学会
- 雑誌
- 日本小児血液・がん学会雑誌 (ISSN:2187011X)
- 巻号頁・発行日
- vol.57, no.5, pp.329-340, 2020 (Released:2021-02-16)
- 参考文献数
- 67
原爆被爆者には,急性障害のみならずがん等の晩発障害が発症し,現在も被爆者を苦しめている.原爆放射線の健康影響は,放射線影響研究所の長期疫学調査により明らかにされている.原爆被爆でリスクが増加したがんとしては白血病と膀胱がん,乳がん,肺がん,甲状腺がん,食道がんなどの固形がんがある.子どもは,大人より発がん感受性が高い.全白血病と全固形がんの罹患の過剰相対リスクは,30歳で被爆し70歳到達時にはそれぞれ1.74(ERR at 1 Gy)と0.47/Gyである.固形がんの発がんリスクは,被ばく線量の増加に伴い直線的に増加する.一方,低線量率被ばくではその影響が減少する線量率効果が知られている.国際放射線防護委員会は,この様なデータを基にLNTモデルを提唱し,放射線防護のための放射線リスク予測を行っている.原爆被災の経験と放射線影響や健康管理の知見は,福島原発事故後の復興支援に活かされた.福島県は,県民の被ばく線量と健康状態を把握し,将来にわたる県民の健康の維持,増進を図る目的で県民健康調査を実施している.事故後4か月間の外部被ばく線量は,99.7%の住民は5 mSv未満であった.甲状腺検査では,18歳以下の住民約37~38万人を対象とした.現在,検査4回目の最終段階にあり,甲状腺がん/がん疑いの子ども達が,各検査で116例,71例,31例,及び21例見つかった.県の検討委員会は,検査2回目までに診断された甲状腺がんについて検討し,甲状腺線量の低さ等から,放射線の影響とは考えにくいと評価した.一方,同委員会では,検査の利益と不利益や倫理的観点等も踏まえ,今後の甲状腺検査の在り方について検討を進めている.