著者
中島 裕夫
出版者
Journal of Radiation Research 編集委員会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.166, 2011

東日本大震災により発生した福島原発事故は広範囲の放射能汚染を引き起こした。この汚染状況については近々文科省・大学連携調査による詳細な汚染マップが作成されることになっているが、この汚染がどれくらい続くかの予測は非常に難しく実際には時間経を待たなければ正確にはわからないのが現状である。しかし、今後の除染作業や避難指定期間などを検討する上では重要な因子の1つと考えられることから、<SUP>137</SUP>Csの生体内動態を調べるとともに今までに報告されているデータを基に福島原発事故汚染地域に棲息する動物を中心とした当初の生態学的半減期の推測を試みた。<BR>【方法】<B>生体内動態</B>1.マウスに1kBq/g体重の<SUP>137</SUP>CsCl水を単回経口投与した群、10ならびに100Bq/mlの<SUP>137</SUP>CsCl水溶液を8ヶ月間自由摂取させた群において<SUP>137</SUP>Csの摂取条件(高濃度急性、低濃度慢性摂取)のちがいによる<SUP>137</SUP>Csの経時的体内動態の差異を調べた。2.植物葉の汚染状況の経時的変化を調べ、動物の摂取状態と摂取量の変化を予測した。<BR><B>生態学的半減期の推測</B> 今までに得られている1960年代の大気圏内核実験ならびに1986年のチェルノブイリ原発事故による日本への放射性降下物に由来する<SUP>137</SUP>Csホールボディーカウントの半減期(Uchiyama,M. et al.1996)、ノルウェー(Jonsson,B. et al. 1999)とイギリス(Smith,JT. Et al. 2000)の湖のマス体内の<SUP>137</SUP>Cs量の半減期、以前、本学会で報告した1997年から2005年におけるチェルノブイリ汚染地域動物体内の<SUP>137</SUP>Cs減少率(Nakajima,H. et al. 2006)などのデータを基にして、今後、新たに放射性物質の広範囲な放出がないという条件で福井原発汚染における当初の生態学的半減期(動物体内)の推測を試みた。<BR>【結果】生態系での初期では葉表面に付着した降下<SUP>137</SUP>Csを直接摂取する形で大量の<SUP>137</SUP>Csを体内へ取り込んだと考えられ、時間の経過と共に雨などで洗い流された<SUP>137</SUP>Csが土壌に浸透し、植物等の根からの吸引により植物体内へ移行したものを摂取していると考えられる。また、<SUP>137</SUP>Csの生態学的半減期(動物体内)は、おおよそ1.5年と推測された。
著者
高辻 俊宏
出版者
Journal of Radiation Research 編集委員会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.41, 2010

長崎の黒い雨の科学的記録は限られている。その記録によれば、黒い雨は爆発後約20分後に爆心から約3km東にある西山地区で降り出した。爆発時は風速約3m/sの南西の風であったと報告されている。しかし、<SUP>239,240</SUP>Puと、<SUP>137</SUP>Csの有意な汚染は主として爆心から真東の地域に見つかっている。西山地区の<SUP>239,240</SUP>Pu濃度と外部線量率は、広島の黒い雨地域よりはるかに高かった。降雨は爆心近くの多くの地点で報告されている。少し遠いが、爆心から北西約19 km の大村海軍病院では、爆発後約10分で天気雨が報告されている。しかし、雨は黒くなかった。<BR> 黒い灰と微軽量物が爆心から真東の地域で降り、それは、爆心から10 kmにまで届いたと報告されている。畑は微軽量物で薄白くなり、サトイモの葉には指で字が書けたと報告されている。<BR> 原爆被爆者として公式認定されなかった人々は、西山地区を含む広い範囲に爆発直後、強い放射性降下物があったはずだと主張して、日本政府に認定を求める訴訟を起こした。西山地区における爆発1時間後からの人体への最大外部積算線量は、約0 .4 Gyと見積もられた。また、ホールボディカウンタによる測定や染色体の調査では、高線量内部被ばくの兆候はなかった。しかし、外部線量の直接測定は爆発後48日目から始められ、ホールボディカウンタによる測定と染色体の調査は1969年に始まった。当時の西山地区住民の多くは地区で育った野菜を食べ、西山水源池の水を飲んでいたものと思われる。西山水源地の水を毎日飲んでいた当時の一人の住人は、爆発1年後から、のどが腫れ、痛み出したと言っている。爆発後初期の内部被ばくの評価が重要である。
著者
簗瀬 澄乃 正山 哲嗣 須田 斎 石井 直明
出版者
Journal of Radiation Research 編集委員会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.127-127, 2009

線虫<i>Caenorhabditis elegans</i> (<i>C. elegans</i>)において、高濃度酸素への短時間暴露の反復によって寿命が延長するというホルミシス効果が認められる。我々はこれまでに、<i>C. elegans</i>におけるIns/IGF-1信号伝達経路の活性化が、このホルミシスによる寿命延長効果に関与することを明らかにしてきた。このIns/IGF-1信号伝達経路の下流では、ヒトのフォークヘッド型転写因子に相同なDAF-16転写因子が作用しており、このDAF-16の標的遺伝子として抗酸化系酵素やミトコンドリアにおけるエネルギー代謝に関わる蛋白などが挙げられている。従って、<i>C. elegans</i>で認められたホルミシスによる寿命延長効果において、これらDAF-16の標的遺伝子の発現が役立っている可能性が考えられた。<br>そこで我々は、高濃度酸素暴露によるホルミシス効果が認められる<i>age-1</i>変異体において、SODやカタラーゼなどの抗酸化酵素活性が上昇していることを定量的RT-PCR法によって確認した。また、そのミトコンドリアにおけるスーパーオキサイドラジカル産生量の変化を測定し、短時間の酸素暴露に依存してその産生量が低下していること、さらに抗酸化酵素の作用を除外したサブミトコンドリア粒子(SMP)においてもその産生量が減少していることをこれまでに発表した。これらの酸素暴露に依存した抗酸化系の活性化およびスーパーオキサイドラジカル産生量の減少は、DAF-16発現を欠く<i>daf-16</i>ヌル変異体においては認められなかった。即ち、ホルミシス効果を生じるためにはDAF-16の標的遺伝子候補である抗酸化系酵素が活性化され、エネルギー代謝系が抑制されている可能性の高いことを示唆している。現在、これまでに観察された酸素暴露による<i>age-1</i>変異体のミトコンドリアおよびSMPにおけるスーパーオキサイドラジカル産生量の減少が、ミトコンドリア呼吸鎖自体の作用制御に起因しているのか、それとももっと呼吸鎖の環境的な要因が関係しているのかどうか<i>C. elegans</i>の酸素消費量を測定することによって解明を試みている。
著者
横谷 明徳
出版者
The Japanese Radiation Research Society
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.74, 2009 (Released:2010-02-12)

これまで放射線のトラック構造と生物影響に深く関係する難修復性のDNA損傷の関連について、モンテカルロシミュレーションを用いた数多くの研究が行われてきた。これらの研究は、トラックがDNA分子を通過することによる直接的なエネルギー付与(直接作用)によりDNA二本鎖切断(DSB)が高い確率で生じ、LETの増大とともにその頻度も増加することを予測している。我々はこれまで、直接作用により誘発されるDSBの収率をプラスミドDNAをモデル分子として観察してきた。試料に用いたpUC18プラスミドDNAは、通常の細胞中のDNAと同じコンフォメーション(B-form)となるよう高水和状態に維持した。この条件では、1ヌクレオチドあたりの水分子は約35分子であり試料の質量中の50%を水が占めることになるが、もしOHラジカルが生成したとしても自由に拡散できるバルク水が無いゲル状の試料である。照射に用いた放射線は、日本原子力研究開発機構高崎研究所TIARA及び放射線医学総合研究所HIMACから得られるHe, C 及びNeイオンを用いた。同一LETでもイオン種によるトラック構造の違いがあるため、異イオン種間のLETの比較は注意を要する。そこで我々は、それぞれのイオン種でLETを変えながらプラスミドのコンフォメーション変化として電気泳動法によりDSBを定量した。その結果、HeイオンによるDSB生成収率は20 keV/µmに極小値をもつが、これより高LET側では急激に収率が増大し、120 keV/µmではその約4倍の値となった。しかしさらに高LET側では、再び減少に転じた。Cイオンでも80-500 keV/µmとLETを上げていくとDSB収率は増大したが、その傾向はHeイオンに比べると小さかった。Neイオンでは、300-900 keV/µmの領域ではDSB収率にほとんど変化はなかった。以上のことは、イオントラックからの直接的エネルギー付与により生じるDSBの収率はLETの増加に伴って増大するが、その傾向はイオン種によって違いがあることがわかった。本口演では、私たちと同様なLET依存性を見せる過去の知見を交えながらDSBの生成収率と生物効果に対する考察を行っていく。
著者
杉山 裕美 三角 宗近 岸川 正大 井関 充及 米原 修治 林 徳真吉 早田 みどり 徳岡 昭治 清水 由紀子 坂田 律 グラント エリック J 馬淵 清彦 笠置 文善 陶山 昭彦 小笹 晃太郎
出版者
Journal of Radiation Research 編集委員会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.149-149, 2009

【目的】放射線影響研究所は、原爆被爆者コホート(寿命調査集団)において、病理学的検討に基づき、1987年までに罹患した皮膚癌の放射線リスクを検討し、基底細胞癌に放射線リスクがあることを報告している。本研究では観察期間を10年延長し、皮膚癌の組織型別罹患率の放射線リスクを再検討した。<br>【方法】寿命調査集団120,321人のうち、原爆投下時に広島市、長崎市とその周辺で被爆し、放射線線量推定方式DS02で被爆放射線量が推定されている80,158人を対象とした。皮膚癌は1958年から1996年までに登録された症例について病理学的な検討を行い、第一癌を解析の対象とした。ポワソン回帰により、皮膚癌における放射線の過剰相対リスク(ERR=Excess Relative Risk)を組織型別に推定した。<br>【結果】寿命調査集団において、336例の皮膚癌が観察された。組織型別には悪性黒色腫(n=10)、基底細胞癌(n=123)、扁平上皮癌(n=114)、ボウエン病(n=64)、パジェット病(n=10)、その他(n=15)であった。線量反応に線形モデルを仮定しERRを推定したところ、基底細胞癌について統計的に有意な線量反応が観察された。前回の解析(1987年までの追跡)ではERR/Gyは1.8(90%信頼区間=0.83-3.3)であったが、今回の解析ではERR/Gyは 2.1(95%信頼区間=0.37-1.2, P<0.01)であった。さらに基底細胞癌の線量反応について赤池情報量規準(AIC)に基づき検討したところ、0.6Gy(95%信頼区間=0.34-0.89)を閾値とし、傾きが2.7(95%信頼区間=1.1-5.1)とする閾値モデルがもっともよく当てはまった(ERR at 1 Gy = 1.1、95%信頼区間=0.43-2.05)。また基底細胞癌においては被爆時年齢が1歳若くなるほどリスクが有意に10%上昇した。<br>【結論】皮膚表皮の基底細胞は放射線に対する感受性が高く、特に若年被爆者において放射線リスクが高いことが確認された。また基底細胞癌における線量反応の閾値は、1Gyよりも低く、0.6Gy であることが示唆された。
著者
清田 恭平 吉居 華子 田野 恵三 大津山 彰 法村 俊之 渡邉 正己
出版者
Journal of Radiation Research 編集委員会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.36, 2007

p53遺伝子の機能は、ゲノム守護神として、DNA損傷時の細胞周期進行制御やアポトーシス誘導を制御し細胞ががん化する過程を抑制すると考えられているががん化への関与は明確でない。そこで、p53遺伝子欠失と細胞がん化の過程における様々ながん形質の発現動態を調べた。本研究では、p53遺伝子正常(p53<SUP>+/+</SUP>)及びノックアウト(p53<SUP>-/-</SUP>)のC57B系マウス胎児由来細胞を用いた。T75フラスコに10<SUP>6</SUP>細胞を植え込み5日毎に継代培養すると、p53遺伝子機能やX線照射の有無に関わらず、すべての細胞が自然に無限増殖能を獲得し不死化するが、p53<SUP>-/-</SUP>細胞だけが造腫瘍性を示すことが判った。このことは、p53機能が細胞の腫瘍化に密接に関連していることを示唆する。そこで、X線照射したp53<SUP>-/-</SUP>細胞におけるがん形質の発現動態を調べた。その結果、p53<SUP>+/+</SUP>細胞では、被ばくの有無にかかわらず継代初期から染色体の四倍体化が生じ、非照射細胞では40~41継代培養(P40~41)時に60%に達し安定して維持された。照射されたp53<SUP>+/+</SUP>細胞では四倍体化ののち三倍体化が起こり、その頻度は、P40~41に30%に達した。一方、p53<SUP>-/-</SUP>細胞では、照射の有無にかかわらず三倍体化が顕著で照射の有無に関わらず50~60%に達した。そこで、30継代時及び90継代時の細胞をヌードマウスに移植すると、p53<SUP>-/-</SUP>細胞は、すべて造腫瘍性を獲得したが、p53<SUP>+/+</SUP>細胞は、全く腫瘍を形成しなかった。生じた腫瘍由来細胞も移植前の細胞と同様に三倍体であることが分かった。これらの結果から、(1)染色体の三倍体化が細胞の腫瘍化に密接に関係し、p53機能は、(2)染色体の三倍体化を抑制することによって細胞の腫瘍化を抑制することが示唆された。
著者
中村 慎吾 田中 聡 Ignacia Braga-Tanaka III 小野 瑞恵 神谷 優太 小木曽 洋一
出版者
Journal of Radiation Research 編集委員会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.55, 2011

低線量率(20 mGy/ 22 h/ day)のγ線を連続照射したB6C3F1雌マウスでは、非照射対照マウスと比較して、有意に体重が増加することが分かった。この照射マウスに認められる体重増加の機構を明らかにするために、20 mGy/ 22 h/ dayのγ線を9週齢から44週齢まで連続照射したB6C3F1雌マウスの脂肪組織重量、肝臓及び血清中の脂質含有量、糖代謝及び脂質代謝に関連した因子(インスリンやアディポサイトカイン等)と卵巣の機能変化を調べた。組織の脂肪化を伴う有意な体重の増加は、20 mGy/ 22 h/ dayのγ線を連続照射したB6C3F1雌マウスにおいて28週齢から44週齢に至まで認められた(集積線量2.7-4.9 Gy)。卵巣及び膣垢標本の病理学的解析から、連続照射マウスでは、卵母細胞の枯渇による早期の閉経と同時に体重増加が起こることが分かった。以上の結果から20 mGy/ 22 h/ dayのγ線を連続照射したB6C3F1雌マウスでは、早期の閉経が引き金となって、体重増加が起こることが示唆される。本研究は、青森県からの受託事業により得られた成果の一部である。
著者
平井 裕子 井上 敏江 中野 美満子 大瀧 一夫 児玉 喜明 中村 典
出版者
Journal of Radiation Research 編集委員会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.147, 2009

広島の原爆被爆者より提供された大臼歯のエナメル質を用いて、電子スピン共鳴法(ESR)により、放射線被曝線量を推定している。今回、歯の提供者で末梢血リンパ球の染色体異常頻度を測定した92人(FISH法とギムザ法の両方またはいずれか一方の方法で測定)について、ESRによる測定を行い、両者を比較した。ESR信号強度はコバルトガンマ線量の検量線を用いて線量に換算した。染色体異常検査はギムザ法とFISH法を用いた。前者はギムザ染色した100個の分裂像を、後者は染色体1,2,4をFISH により蛍光染色して500個の分裂像を観察し、得られた頻度から年齢ならびに中性子の影響を差し引いてガンマ線量に換算した。調査した被爆者の中で、両方の方法で染色体異常頻度を調べた37人については得られた結果は互いによく一致していた。これらの被爆者のデーターとしてはFISH線量を用いることとし、その他のギムザ染色法によるデーターしかない35人とFISH染色法によるデーターしかない20人計92人について、ESR線量と染色体線量を比較したところ良い相関が得られた。しかし、染色体線量は高いのにESR線量が低い例が7例あった。これらは1例を除いては知歯や被爆時年齢が5歳以下であったので、測定した歯が被爆時に十分発達していなかったと解釈される。他方ESR線量が染色体線量よりもかなり高い例が9例あった。これらについては医療被曝の可能性を調査したが、現在までのところ医療被曝の情報は得られていない。以上の生物学的線量評価の結果を被爆時の爆心地からの距離と遮蔽条件を基に計算したDS02線量に対してプロットすると分布の幅が大きくなることが分かった。今回、92名という少ない対象数ではあるが、全く異なる方法(ESR法 とFISH法)を用いて推定した個人線量が良い相関を示したことは、既に4000人もの被爆者から情報を得ている染色体異常頻度から推定した個人線量を、DS02線量と比較すれば、個人線量の偏りの程度と方向を推定できる可能性がある。
著者
甘崎 佳子 平野 しのぶ 中田 章史 高畠 貴志 山内 一己 西村 まゆみ 吉田 光明 島田 義也 柿沼 志津子
出版者
Journal of Radiation Research 編集委員会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.274, 2010

【目的】CTやPETなど放射線技術の進歩は子どもの医療に大きく貢献してきた。その一方で、子どもは放射線の感受性が高く被ばく後の人生も長いなど、将来の発がんリスクが心配されている。しかし、胎児・子ども期における放射線被ばくと発がんリスクに関する詳細な情報は少ない。本研究では、子ども期被ばくによる発がんメカニズムの特徴を明らかにするため、異なる年齢でX線照射して誘発したマウス胸腺リンパ腫において、がん抑制遺伝子<i>Ikaros</i>の変異解析を中心に発がんメカニズムの相違を解析した。<br>【材料と方法】1週齢、4週齢、8週齢のB6C3F1雌マウス(各群50匹)に、X線(0.4, 0.8, 1.0, 1.2Gy)を1週間間隔で4回照射して胸腺リンパ腫を誘発した。さらに、得られた胸腺リンパ腫について染色体異常解析、がん関連遺伝子の変異解析を行った。<br>【結果】(1) 胸腺リンパ腫の発生率は1週齢照射群で高頻度に増加すると予想したが、1.2Gy4回照射で 1週齢は28%、4週齢は36%、8週齢は24%で有意差は認められなかった。(2)染色体異常は、1週齢照射群では12番染色体の介在欠失と不均衡型転座による欠失型異常(<i>Bcl11b</i>領域を含む)が、一方4週齢照射群では11番染色体の介在欠失と12番染色体の不均衡型による欠失型異常がそれぞれ認められた。また、15番染色体のトリソミーは両群に観察された。 (3) 1週齢照射群における11番染色体のLOH頻度(25%)は、4週齢(43%)・8週齢(36%)と比べて低く、逆に19番染色体では高かった(1週齢52%、4週齢17%、8週齢11%)。また、11番染色体にマップされている<i>Ikaros</i>の変異頻度は、1週齢照射群(25%)では4週齢(33%)・8週齢照射群(57%)と比較して低かった。<br>【考察】1週齢照射群では11番染色体の染色体異常やLOH、<i>Ikaros</i>変異は少なく、逆に19番染色体のLOHは高頻度に観察され、4週齢・8週齢照射群とは異なる特徴を示した。すなわち、被ばく時年齢によって胸腺リンパ腫の発がんメカニズムが異なる可能性が示唆された。
著者
Shoulkamy Mahmoud 大嶌 麻妃子 光定 雄介 中野 敏彰 井出 博
出版者
Journal of Radiation Research 編集委員会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.190, 2011

内因性および環境中のDNA損傷因子は,DNAとタンパク質が不可逆的に結合したDNA-タンパク質クロスリンク(DPC)損傷を誘発する。DPCの生物影響を明らかにするためには,ゲノムにおけるDPCの生成量およびその動態を明らかにする必要がある。これまでに,アルカリ溶出法,ニトロセルロース膜結合法, SDS-K沈殿法,およびコメット法などがDPC定量法として用いられてきた。これらの方法はいずれも,タンパク質と共有結合したDNA量に基づきDPCを間接的に検出するものであり,試料DNAの鎖長が定量性に影響するほか,DNA量からDPC量(=クロスリンクタンパク量)への変換には様々な仮定が必要であるため,半定量的なDPC検出法である。したがって,より定量的なDPC検出法の開発が望まれる。本研究では,クロスリンクタンパク質の直接検出に基づく新規なDPC定量法を開発した。典型的なDPC誘発剤である種々のアルデヒド化合物でMRC5細胞を処理し,塩化セシウム密度勾配超遠心法でゲノムDNAを精製した。クロスリンクタンパク質をFITCで標識し,蛍光測定によりDPCを定量した。その結果,生理的に意味のあるアルデヒド処理濃度(10%細胞生存率)で十分なシグナルが得られることが分かった。この方法で調べたDPCの生成量,動態,安定性,修復の影響について報告する。さらに,FITC標識を用いたDPC検出法の高感度化,放射線照射により生じるDPCの検出も行っており,その結果についても報告する予定である。
著者
田中 薫 王 冰 古橋 舞子 村上 正弘 尚 奕 藤田 和子 大山 ハルミ 早田 勇
出版者
Journal of Radiation Research 編集委員会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.243, 2007

mitigatorは、事故によって放射線にさらされた後、明らかな生物学的結果が出てしまう前に与えると有効であるものをいう。新たなmitigatorの研究は、より効果的で安全な臨床治療法を開発するためだけでなく、被爆者の予後の改善に有用である。一方、生まれる直前に子宮内高線量被ばく(6.5Gy)を受けたことによって引き起こされる新生仔死亡(骨髄死)には、cell killing effectが重要な役割を演じている。そこで、本研究では、照射後に複数のアポトーシス阻害剤を併用投与し、新生仔死亡が軽減されるかどうか検討を行った。<BR>妊娠18日目のICRマウスに、1.8Gy/minの線量率で、6.5GyのX線を全身照射した (これは、離乳前の新生児の約40パーセントが死亡する条件である)。照射5分後に妊娠マウスの腹腔内にオルトバナジン酸ナトリウム(Na<SUB>3</SUB>VO<SUB>4</SUB>, VD)15mg/kgを単独、あるいはカスペース阻害剤(Z-VAD) 1mg/マウス とともに投与した。妊娠マウスは自然出産させ、新生仔の生残と発育状況(体重)を調べ、さらに、子供の(7週齢)末梢血血液象と大腿骨の骨髄をそれぞれ、自動血球計数装置と小核試験法を使って調べた。<BR>VD単独投与により、新生仔の生残と発育状況への影響が有意に軽減され、さらにVDとZ-VADの併用によって、いくつかのendpointにおいてより大きな効果が認められた。これらのことは、アポトーシス阻害剤の併用投与が、高線量放射線被爆の治療法として将来に大きな可能性を持っていることを示している。
著者
鈴木 啓司 鈴木 正敏
出版者
Journal of Radiation Research 編集委員会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.19, 2010

放射線照射により細胞死が引き起こされることは広く知られた事実であるが、その死の分子メカニズムについては未だに不明な点が多い。我々は、特に付着系の細胞で、非アポトーシス性の細胞死が、放射線による主要な細胞死のモードであることを報告してきた。正常ヒト二倍体細胞を用いた実験から、放射線照射後に残存するDNA損傷が持続的にATM-p53経路依存的G1チェックポイントを活性化し、その結果、細胞はG1アレストの持続を経て老化様形質を発現するようになる。一方、がん細胞でも、放射線照射による老化様増殖停止の誘導が確認された。従来、がん細胞では放射線によるアポトーシスの誘導が報告されるが、その割合は細胞の致死率を説明できる程高くはなく、非アポトーシス性の細胞死モードとして老化様増殖停止が注目されるようになってきた。がん細胞では、G1アレストが十分に誘導されず、またG2アレストの持続にも異常があることから、多くの細胞はDNA二重鎖切断をもちながら細胞分裂期に入っていく。その結果、染色体断片や染色体架橋が生じ、このような細胞は分裂異常、いわゆるmitotic catastrophe(MC)を起こす。MCを起こした細胞は多くが細胞分裂を完遂できず、微小多核細胞などになって次のG1期に留まる。これ以外にも、細胞分裂を経ずに細胞周期を進行させた細胞は、巨核細胞になってG1期に留まり、いずれの場合も、この過程で老化様増殖停止を誘導することが明らかになった。以上のように、老化様増殖停止は、組織によっては放射線による細胞死の主要なモードになっており、その理解は、より効果的な放射線治療法の確立に貢献すると期待される。さらには、老化様増殖停止を誘導した細胞は、液性因子の分泌を介して周辺の細胞に影響を及ぼすことも明らかになりつつあり、放射線照射を受けた組織全体の応答を理解する上でも重要なキーになると考えられる。
著者
床次 眞司
出版者
Journal of Radiation Research 編集委員会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.10, 2007

過去30年にわたり、ラドンは自然放射線源の中で最も線量寄与の大きいものと認識されてきた。最近の研究でも、200Bq m<SUP>-3</SUP>以下の低いレベルで屋内ラドン濃度と肺がんリスクに正の相関があることが示された。世界保健機構(WHO)が2005年1月に立ち上げた国際ラドンプロジェクトでは、ラドンは地球規模の疾病負荷で、喫煙に続き2番目の肺がんの原因とされており、世界的に多くの国でこの問題に取組んでいる。一般に住居内ラドンはICRP勧告に基づいてラドン濃度200-600Bq m<SUP>-3</SUP>の対策レベルで規制される。200Bq m<SUP>-3</SUP>以下の低いレベルでの肺がんリスクに関する新しい知見を受けてWHOはラドン被ばくに関する新ガイドラインの勧告を計画しており、その対策レベルは以前よりも低いレベルに改定される予定である。新しいガイドラインが制定されれば、必ず屋内ラドン濃度調査が行われることになろう。ラドン濃度の測定データはその信頼性の観点から十分に保証されなければならない。ラドン測定には、アルファトラック検出器、活性炭キャニスター、エレクトレットなど多くの測定器が用いられる。このうちアルファトラック検出器やエレクトレットは年間平均ラドン濃度を得るための大規模で長期間の調査に適しており、疫学調査にも使用されている。測定器は一般にラドンチェンバーのような良く制御された環境下で校正される。しかしながら、Tokonamiはそれらのうちの幾つかはトロンに対して感度を有すると指摘した。この知見はラドン濃度指示値を過大評価する可能性があり、その結果肺がんリスクが過小評価されることを示唆している。本研究では、幾つかの典型的な検出器におけるラドン測定時のトロンの妨害、日本、中国、韓国、ハンガリーにおけるトロン濃度の概況、また疫学的視点からそれに関連したトピックを述べる。
著者
崔 星 大西 和彦 藤森 亮 平川 博一 山田 滋 古澤 佳也 岡安 隆一
出版者
Journal of Radiation Research 編集委員会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.177, 2010

食生活の欧米化に伴い、日本を含むアジア諸国では大腸癌が急増している。本研究は、大腸癌細胞株HCT116、 SW480を用い、放射線抵抗性や薬剤耐性と強く関与するとされる癌幹細胞を分離・同定し、これら癌幹細胞に対して、炭素線或いはX 線照射前後のコロニー形成能、spheroid形成能、DNA損傷の違いを調べ、またSCIDマウスに移植し、腫瘍形成能、移植腫瘍に対する増殖抑制や治癒率の違いについて比較検討した。HCT116、 SW480細胞においてCD133+、CD44+/ESA+細胞はCD133-、CD44-/ESA-細胞に比べ有意にコロニー形成数が多くやDNA損傷マーカーgammaH2AX fociは少ないが、 spheroid形成はCD133+、CD44+/ESA+細胞のみに認められた。CD133+、CD44+/ESA+細胞は、X 線或いは炭素線照射に対しともに抵抗性を示すが、炭素線はより強い細胞殺傷能力が認められた。またCD133+、CD44+/ESA+細胞はCD133-、CD44-/ESA-細胞に比べ有意な腫瘍形成能を示し、炭素線はX線照射に比べより強い腫瘍増殖抑制や高い治癒率が認められた。以上より、大腸癌細胞において、CD133+、CD44+、ESA+細胞は明らかに自己複製や放射線抵抗性を示しており、炭素線はX線照射に比べより強く癌幹細胞を殺傷することが示唆された。
著者
崔 星 大西 和彦 山田 滋 鎌田 正
出版者
Journal of Radiation Research 編集委員会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.156, 2011

肝細胞癌は世界で最も罹患数が多い悪性腫瘍の一つで、日本では増加傾向であり、年間死亡数は3.4万人とがん死亡では3位である。放医研では今まで300例近い重粒子線による肝癌治療を行っており、良好な治療成績が得られている。本研究は、肝癌細胞株Huh7、HepG2を用い、放射線抵抗性や薬剤耐性と強く関与するとされる癌幹細胞を分離・同定し、これら癌幹細胞に対して、炭素線或いはX線照射前後のコロニー形成能、spheroid形成能、DNA損傷の違いを調べ、またSCIDマウスに移植し、腫瘍形成能の違いについて比較検討した。Huh7、HepG2細胞においてCD133+/CD90+はそれぞれ6.4%と0.6%、CD44+/ESA+細胞は1.5%と0.2%であった。CD133+/CD90+、CD44+/ESA+細胞はCD133-/CD90-、CD44-/ESA-細胞に比べ有意にコロニー形成数が多く、spheroid形成や腫瘍形成はCD133+/CD90+、CD44+/ESA+細胞のみに認められた。CD133+/CD90+、CD44+/ESA+細胞は、X線、炭素線照射に対しともに抵抗性を示すが、炭素線はより強い細胞殺傷能力が認められた。炭素線はX線照射に比べより強い腫瘍増殖抑制や高い治癒率が認められた。以上より、肝癌細胞において、CD133+/CD90+、CD44+/ESA+細胞は明らかに自己複製や放射線抵抗性を示しており、炭素線はX線照射に比べより強く肝癌幹細胞を殺傷することが示唆された。
著者
坪井 直
出版者
Journal of Radiation Research 編集委員会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.49, 2009

1. 仰天の原爆に遭遇 ―過去―<br>当時私は20歳の学生で、爆心地から約1kmの街路上で被爆した。その瞬間10mも吹き飛ばされて気を失った。意識が蘇ったとき、周囲は真っ暗だった。ほとんど全身を火傷し、僅かに残った衣服もボロボロのまま、家屋の全壊や火の海となった街中をさまよい続けた。阿鼻叫喚、死臭漂う「この世の地獄」を見た。広島はその時死んだ。私は1週間後、仮の避難所で意識不明となり、その後約40日間の出来事は一切記憶にない。<br>今まで11回の入退院を繰り返し、危篤状態も3度あり死を待つばかりだった。病歴は、慢性再生不良貧血症(現在)、虚血性心疾患(現在)、大腸がん、ヘルペス、白内障、前立腺がん(現在)など。毎日6種類の薬剤と2週間に1度の点滴治療をしている。精神的な不安・苦しみが深く潜行している被爆者も多い。<br>2. かけがえのない命 ―現在―<br>各分野の医師の方々や、識者、先輩、知人、友人、家族の配慮と支えを受け、体調を考えながら国の内外で「核兵器廃絶」を基調にしながら平和活動を行っている。北海道を始め、各地での集会に招待され、主催者も自治体、学校、労組、協同組合、若者グループ、女性グループなどで老若男女さまざまな交流をする。<br>また、海外での活動にも微力を尽くしている。NGO、国際会議、平和市民団体集会、核実験抗議等に参加、原爆展とともに交流を広めている。<br>3. 恒久平和確立の悲願 ―未来―<br>世界の核被害者の心身にわたる諸問題解決に貢献している放影研の研究がなお一層期待される。<br>核兵器の廃棄か、核兵器拡大か。地球は繁栄か、滅亡か、まさに岐路に立っている。<br>私たちは、歴史や文化、民族などの違いを認め合い、政治、経済、教育、宗教、国境など乗り越えて真の平和を保障しなければならない。<br>わたしたちはあきらめません! Never give up!
著者
豊島 めぐみ 梶村 順子 渡辺 敦光 本田 浩章 増田 雄司 神谷 研二
出版者
Journal of Radiation Research 編集委員会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.150, 2007

Rev1はDNAポリメラーゼYファミリーに属する損傷乗り越えDNA合成酵素である。Rev1は損傷乗り越え修復において中心的な役割をしていると考えられているが、発がんへの関与は、未だ解明されていない。これまで、われわれの研究室ではRev1の生化学的解明を行ってきた。今回我々は、Rev1トランスジェニックマウスを作成し、発がんにおける役割について解析を行った。<BR>6週齢のC57BL/6の野生型、Rev1トランスジェニックマウスに、N-methyl-N-nitrosourea (MNU)50mg/ kgを二度にわたり、腹腔内投与した。その後、終生観察し、発がん頻度、生存率について、野生型と比較した。<BR>Rev1トランスジェニックマウス雌においては100日以内から胸腺リンパ腫がみられ始めた。トランスジェニックマウス雌では、野生型と比較して早期に、かつ高頻度で胸腺リンパ腫の発生がみられた。一方雄では、小腸腫瘍の頻度が有意に増加していた。<BR>これらの知見は、Rev1は発がんに関与していることを示唆するものである。現在、更なる機構解明を行っている。
著者
神谷 研二
出版者
Journal of Radiation Research 編集委員会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.4, 2011

平成23年3月11日に発生した東京電力福島第1原子力発電所の事故は、国際原子力事象評価尺度でレベル7に評価され、大量の放射性物質が環境中に放出された。人類が経験したことのない長期に渡る原子力事故における、住民への低線量・低線量率被ばくによる健康影響が危惧されている。しかし、きわめて低いレベルの低線量、低線量率被ばくによる発がんリスクを推定できる精度の高い疫学資料は乏しく、低いリスクの推定には不確実性が残されている。国際放射線防護委員会は、放射線防護の立場から、、低線量域での発がんリスクの推定は、高~中線量域で認められた被ばく線量と発がんリスクとの間の直線の線量・効果関係を低線量域まで外挿し、低線量域でのリスクの推定を行っている(LNTモデル)。その際に、低線量、低線量率被ばくによる発がんリスクを推定する場合は、LNTモデルを適用して推定された値を線量・線量率効果係数(DDREF)である2で除することで補正することを勧告している。最近の研究により、細胞は、日常的に起きているゲノム損傷に対し様々な細胞応答現象を誘導し、ゲノムの恒常性を維持する機構を発達させてきたことが明らかにされつつある。低線量被ばくによる人体影響では、微量なゲノム損傷に対する細胞応答現象による修飾を受けることが想定される。本シンポジウムでは、低線量放射線影響の人体影響に関し生物学的な観点から議論する
著者
朴 金蓮 増田 雄司 神谷 研二
出版者
Journal of Radiation Research 編集委員会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.175, 2006

損傷乗り越えDNA合成機構は、DNA修復機構とともに染色体の恒常性の維持に必要不可欠な生物機能である。酵母で同定された<I>REV1、REV3、REV7</I>遺伝子は、損傷乗り越えDNA合成反応に関与し、電離放射線からの生体の防御と突然変異の誘発に重要な役割を担っている。ヒトREV1タンパク質は、鋳型塩基に対してdCMPを取り込むデオキシシチジルトランスフェラーゼ活性を持つ。この活性は、進化的にとてもよく保存されていることから、生体の防御において生物学的に重要な活性であることが示唆されているが、その意義は不明である。<BR> 今回我々はヒトREV1タンパク質の構造解析から、dCMPの認識に重要と考えられるアミノ酸残基を同定した。それらのアミノ酸残基が実際にdCMPの認識に機能しているかどうかを実験的に証明するために、それらのアミノ酸残基をアラニンに置換した変異体REV1タンパク質を精製し、その生化学的性質を詳細に解析した。その結果、たった一つのアミノ酸置換によってREV1の基質特異性と損傷乗り越えDNA合成活性が劇的に変化することが分かった。今後は、この変異型REV1タンパク質を培養細胞で過剰発現させ、dCMP transferase活性の生物学的意義を明らかにしたいと考えている。
著者
笹谷 めぐみ 徐 衍賓 本田 浩章 濱崎 幹也 楠 洋一郎 渡邊 敦光 増田 雄司 神谷 研二
出版者
Journal of Radiation Research 編集委員会
雑誌
日本放射線影響学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.44, 2011

放射線の重大な生物影響の1つに発がんがある。広島長崎の原爆被ばく者の疫学研究から、放射線が発がんリスクを増加させることが明らかにされているが、100mSv以下の低線量域においては有意な増加は得られていない。放射線発がんの分子機構の解明は、発がんのリスク評価につながると考えられているが、放射線照射後の細胞内で誘発された損傷がどのように発がんに結びつくかは明らかではない。我々は、放射線発がんの分子機構を解明するために、実験動物モデルを用いてより単純化した系での解析を行うことを試みた。実験動物モデルとして、修復機構の1つである損傷乗り越えDNA合成に着目し、その中で中心的な役割を担うRev1を過剰発現するマウスを作成し、発がん実験を行った。また、ヒト家族性大腸ポリポーシスのモデルマウスであるAPC<SUP>Min/+</SUP>マウスを用いて掛け合わせを行った。研究の先行している化学発がん実験結果や、放射線分割照射により誘発された胸腺リンパ腫を用いた解析から、がん抑制遺伝子であるikaros領域の欠失および、それに伴うikarosスプライシングバリアントの出現が放射線分割照射における特徴的な損傷として検出された。損傷乗り越えDNA合成機構の異常は、このikarosスプライシングバリアントの出現頻度に寄与していると示唆される結果を得ている。また、損傷乗り越え合成機構の異常は、APC<SUP>Min/+</SUP>マウスモデル系における自然発生腸管腺腫を有意に増加させる結果が得られ、損傷乗り越えDNA合成機構がゲノムの安定性を維持するために機能していることが明らかになった。今回はこれらの結果について報告したい。