- 著者
-
池谷 和信
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 地理要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2008, pp.243, 2008
<BR>1.はじめに<BR> アフリカを対象にした地域研究は、1950年代後半以降現在まで約50年の伝統を持って学際的に行われてきたが、地理学もその重要な部分を構成してきた。地理学では、自然地理学における環境変遷史研究、人文地理学における土地(自然資源)利用の変遷に関する研究などに焦点がおかれ、近年では、従来の地理学の枠にとらわれずにアフリカの地域像を構築することをねらいとした2册の単行本(のべ約900頁)が刊行されている(池谷ほか 2007、2008印刷中)。<BR> その一方で、アフリカ各地の地誌・民族誌のなかで通時的資源利用プロセスの復元のためにGPSやGISが使われてきた。佐藤は、空中写真、地形図、衛星画像などの資料に加えて地域住民に対して詳細な聞き取り調査をすることで、エチオピアの焼畑民マジャンギルによる環境動態の復元を行っている(佐藤2003)。このほかにも、GISや地理資料を利用した地域研究は、アフリカの他の地域でみられる。<BR> この報告では、GISを使用したアフリカ研究が、これまでのアフリカ地域研究に対して、どのような新たな貢献をすることができるのか?ここでは、あくまでも地域研究をさらに進展するためのツールとしのGISに注目したい。具体的には、筆者がこれまで約20年間にわたって現地調査を行ってきたアフリカ南部に位置するカラハリ砂漠(とくにボツワナ)に焦点を当てる。撮影年代の異なる航空写真や地形図や人口分布図を利用する一方で、これまで筆者自らが収集してきた数多くの地名の分布特性などを他の地理情報とのかかわりから分析する。<BR><BR>2.カラハリ砂漠の景観変遷史<BR> カラハリ砂漠は、日本の約2倍の面積を有し、ボツワナを中心として南部アフリカの内陸部に広がっている。ここでは、年間の降雨量がおよそ500mmであり、その降雨量は12月から3月までの雨季に集中しており、その年変動も大きい。また、対象地域のサバンナ景観を考える場合には、灌木の広がる地域だけではなく、降雨後に水が貯蓄されるパンと呼ばれる窪地、サバンナのなかで点在するウッドランドなどの森林景観、かつてのかれ川の跡であるモラポと呼ばれる地形の分布を無視することはできない。とりわけ、パンの大部分には必ず地名が付与されている。さらに、この地域では、狩猟採集民サン(ブッシュマン)や農牧民カラハリの人びとが暮らしてきており、彼らの集落やキャンプ地や畑地(スイカやササゲなどの栽培)があちこちに点在する。これらのことから人類の踏み後のみられない場所はほとんどなく、何らかの人為の作用した景観を構成してきた。<BR><BR>3.アフリカ環境史へのGISの貢献-ミクロからマクロへの展開-<BR> 近年、アフリカ地域研究のなかで、冒頭で述べたようなGISを利用した各地の環境動態研究や資源利用研究が報告されてきた。筆者は、それらを十分に活用することで、環境変動と人間活動のかかわりに関する研究に貢献でき、新たなアフリカ地域像を構築することができると考えている。しかし、そのためには、本稿の事例のみではなく、中部アフリカにおける熱帯雨林、西アフリカにおける森林・サバンナ移行帯、東アフリカにおけるサバンナなどの地域事例を加えて、アフリカ大陸全体の環境史に関するデータベースの構築が必要であろう。それを通して、自然が豊かで歴史なき大陸であるといわれたアフリカではあるが、自然に対する人為作用に関して新たな枠組みを提示することができるであろう。なお、筆者が所属する国立民族学博物館では、約24万点の標本資料(諸民族の生業、儀礼、技術にかかわる用具類など)の情報をHP上で公開している。このうちアフリカを対象にしたものは約2万3千点となり、アフリカ大陸の文化的地域性を把握するためにこれらを使用してのデータベースの作成も、今後の課題として残されている(大林ほか1990参照)。<BR><BR>参考文献<BR>大林太良ほか(1990)『東南アジア・オセアニアにおける諸民族文化のデータベースの作成と分析』民博研究報告別冊 11号。<BR>佐藤廉也(2003)「森林への人為的作用の解読法」池谷編『地球環境問題の人類学』世界思想社 <BR>池谷和信・佐藤廉也・武内進一編(2007):『朝倉世界地理講座-大地と人間の物語-11 アフリカI』朝倉書店。<BR>池谷和信・武内進一・佐藤廉也編(2008印刷中):『朝倉世界地理講座-大地と人間の物語-12 アフリカII』朝倉書店