著者
村山 良之
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.241, 2006

地形改変地における地震災害 日本では、都市の郊外住宅地が丘陵地等に地形改変をともなって広く展開し、近年では大きな地震のたびに、これらの地域で特徴的な被害が発生する。すなわち、切土部では住宅等の被害がほとんど発生しないのに対して、盛土部や切盛境界部で、不等沈下や崩壊といった地盤破壊にともなう住宅等の激しい被害が発生する(1978宮城県沖地震、1993釧路沖地震、1995阪神淡路大震災、2004新潟県中越地震等)。またこのような地盤破壊までは至らなくとも、切土部と盛土部・切盛境界部で瓦屋根等の被害発生率に大きな差が生じる場合がある(2001芸予地震、2003三陸沖の地震、2005福岡県西方沖の地震)。 発表者はこれまで、宮城県沖地震、釧路沖地震、阪神淡路大震災、福岡県西方沖の地震について、地形改変前後のDEMを作成し、GISを用いて、地形とその改変に関わる土地条件指標群と建物被害発生との関係について統計学的検討を行ってきた。その結果、これら土地条件群は建物被害発生についてある程度有効な説明力を持つことを明らかにした。「総合的な宅地防災対策」への期待 2005年12月、国交省は、宅地の地震防災対策として、「大地震時に相当数の人家及び公共施設等に甚大は影響を及ぼすおそれのある…大規模谷埋め盛土」の「滑動崩落」対策を主とする「総合的な宅地防災宅策に関する検討報告(案)」を提示するに至った。より具体的には、「宅地安全性に係る技術基準の明確化」、「宅地ハザードマップの作成」、既存の「宅地造成等規制法の改正」等を行い、新規造成宅地だけを対象とするのではなく、既存の宅地についても、地方公共団体が「特に危険な大規模盛土造成地」を「造成宅地防災区域(仮称)」に指定する等して、減災対策実施を関係者(土地所有者等)が連携して実施するものとしている。これまで宅地盛土には(一部を除いて)技術基準すら存在しなかった状況からすると、大きく踏み込んだ内容を有する本政策は、地震防災におおいに寄与することが期待できる。発表者は、この政策の基本方針を強く支持するものであるが、さらに有効なものにするために課題について以下に記す。_丸1_ 対象範囲のスクリーニング方法 本学会災害対応MLで既に名古屋大の鈴木康弘先生指摘のとおり、スクリーニング作業方法について十分に検討すべきである。発表者の経験からも、提案されている地形改変前後のDEMに基づく盛土分布の把握にはかなり丁寧な作業必要である。この作業に加えて、新規造成宅地の場合は施工図面の提出義務化、既存造成宅地についても可能な限り収集作業を行うのが、精度と費用の点で有効と思われる。_丸2_ 本政策の対象範囲 対策実施に対して公的支援を想定しており、対象が限定されるのは、やむを得ないが、近年の地震災害では、この対象外のところでも(盛土全体の滑動がなくとも切盛境界で不等沈下発生、小規模盛土で滑動崩落等)宅地や住宅で大きな被害を受けている事例も数多くあると思われる。_丸3_ 宅地ハザードマップの公表と利用 スクリーニングから漏れた盛土部を含むできるだけ広い範囲について、宅地ハザードマップ(切土盛土分布図)公表を義務化すべきである。このことが対象外(滑動しないと予測されたものや小規模)の盛土部での個人的対策実施を促し、_丸2_の課題に応えると考えられる。さらに、不動産売買時の提示義務化や、建築確認申請時の参照義務化、地震保険の保険料算定基準への採用など、マップの利用方法についても踏み込むことが、さらに自助努力のインセンティブになると考えられる。

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