著者
川村 和司
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.69, 2005

現在,我が国の地上波民間テレビジョン放送は,日本テレビとTBS,フジテレビ,テレビ朝日,テレビ東京の5系列と三大都市圏内の独立局で構成されている.全国展開が許可されなかった民放キー局各社は,NHKに対抗するため,全国の地方局と系列関係を構築した.すなわち地方の報道を系列局が担当し,多くの番組を在京のキー局が配信するという体制である. 民間放送局は効率的に全国を網羅するため,三大都市圏に次いで,地方中枢都市を有する北海道や福岡,宮城,広島などに系列局を開局した.これはNHKの置局展開を論じた東・宇賀神(1979)の結果に類似している.また,人口や経済規模による民力を反映し,静岡や新潟などの県でも系列局の置局が行われた.一方,民力の脆弱な県で系列局の置局が盛んに行われたのは,政策的に全国の民放4局化が進められた1989年以降である.しかし4局化を達成した岩手や山形, 石川を上回る民力を有しながら,青森や山口など3局化に止まった県も存在する.そこで本研究では,3局地域の中で民力度が最も高い県のひとつである青森県を事例にモアチャンネル需要の特徴とその地域性を明らかにする. 系列局の少ない区域では隣接区域の放送を視聴することで系列の空白を補完する傾向がある.その方法としてはアンテナでの直接受信と,ケーブルテレビが他区域の局の放送を行う区域外再送信があげられる.青森県においても,空白となっているフジテレビ系列やテレビ東京系列を視聴するため,北海道や岩手,秋田の放送をアンテナ受信やケーブルテレビの区域外再送信によって視聴する習慣がある. 青森県における,全県的なフジテレビ系列やテレビ東京系列へのモアチャンネル需要を裏付けるように,隣接区域の放送が受信しやすい地域ほど,アンテナ受信での視聴世帯の割合は高くなり,受信が困難な青森市などでは有料のケーブルテレビ区域外再送信の加入世帯が非常に多くなっている.また青森県内の放送が鮮明に視聴できない地域では隣接区域の放送に頼らざるを得ない状況となっている.一方で,旧南部藩領で岩手県側にも商圏を持つ八戸市周辺や,教育や医療などの一部の面で北海道函館市の都市影響圏に属する下北半島北部のような隣接区域との地域間関係の強い地域では,青森よりも岩手や北海道の放送に親近感を受ける住民も多く,青森県内の民間放送に代わり隣接区域の放送を視聴している世帯もみられた.また過去の隣接区域の放送の視聴経験もモアチャンネル需要に影響を与え,居住地が移動した後も,もとの隣接区域の放送を視聴する傾向が強いことが把握された.以上,青森県でのモアチャンネル需要は,系列局の空白状況,受信状況,地域間関係,また過去の習慣などによって特徴づけられ,地域性を生じさせていると考えられる.

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