- 著者
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一 広志
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2005, pp.5, 2005
1.はじめに 2004年、愛媛県地方は台風の相次ぐ接近・上陸によって各地で風水害や土砂災害が多発した。これらのうち、9月29日の午後に四国南岸を東北東に進んだ台風21号(T0421)による東予地方の大雨の事例を採り挙げ、降水の成因を擾乱の構造の視点から解明することを試みる。2.考察東予地方の降水は、以下に示す3回の極大が認められる。 (1) 7時から9時頃にかけての新居浜、富郷、三島におけるピーク (2) 正午頃の成就社、丹原(石鎚山麓)におけるピーク (3) 15時頃から19時前にかけての東予地方のほぼ全域におけるピーク (1)は台風が九州に上陸する前後で、気圧場の風によって四国南岸から流入する暖湿気塊が、中国地方から瀬戸内海中部にかけての相対的に低温である気塊と衝突することによって相当温位傾度が大きくなっている領域に発生している。 (2)における台風の位置は宮崎県北部で、降水の成因は地上風の地形による強制上昇を主因とする収束の持続と考えられる。 (3)は台風が四国西南部に上陸し、南岸部を東北東に進んで紀伊水道に達するまでの時間帯であり、三者の中で最も多い降水量を記録している。この時間帯の降水の特徴として、降雨強度の極大時付近に南風成分の減少と西風成分の増加で表される地上風の急変が認められ、気温が急激に低下している(2_から_3℃/30min程度)ことが挙げられる。四国とその周辺における地上相当温位分布とその変化に着目すると、極大域は台風中心の東側にあり、中心を経てほぼ北東から南西の方向に延びる急傾度の領域が形成され、台風とともに東進している。地上風の急変はこの領域の通過後、等相当温位線にほぼ直交する方向に生じており、相当温位の低い気塊が流入したことを示している。 以上より、解析された相当温位の急変帯は寒冷前線の性質を持っており、降水の極大は低相当温位気塊の流入によって発生したことがわかる。AMeDAS観測地点毎の降水ピーク時における10分間降水量の値を比較すると、山間部や東部における値は北西部・島嶼部の2から3倍に及んでおり、四国脊梁山地の地形による増幅が認められる。3.類似事例との比較 経路および降水分布が類似している事例として、T9916とT0423が挙げられる。T9916は降水のピーク時に南風成分の減少と西風成分の増加で表される地上風の急変と気温の低下を伴なっている。この時の中心位置は四国のほぼ中央部であり、松山付近が地上相当温位の極小域となっている。地上相当温位傾度はT0421と比較すると緩やかであるが、降水の極大は低相当温位気塊の流入によって発生しており、前述の(3)と同じメカニズムによってもたらされたものと言える。T0423による降水は、ピーク時における強度(10分間降水量)はT0421の約1/2であるが、強雨の持続によって総量が多くなっている。新居浜や丹原では降水が継続している間は北東寄りの風が卓越しており、気温の急激な変化は認められない。降水のピーク時においては紀伊水道から四国を経て日向灘に至る領域で南北方向の相当温位傾度が大きくなっており、これの解消とともに強雨は終息している。