著者
梁 海山
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.80, 2008

<BR><B>【研究の視点と目的】</B><BR> 中国の急速な経済発展に伴い,これまで開発に取り残されてきた内モンゴル地域も大きな変貌を遂げつつある。それは農村地域での都市的土地利用への大量転用,農村人口の都市への流出といった,都市化の波が東部沿海地方から中部や西部の内陸部へと全国規模に広がったことによる。もともと耕地が少なく人口圧が高い中国では,食糧不足や経済の持続的な発展を支えていくために,内モンゴルなど内陸の牧畜地域に「移民実辺」,「草原開墾」,「西部大開発」政策や,沙漠化防止のため「放牧禁止」「生態移民」など,様々な制度・政策が実施されてきた。その結果,内モンゴルでは耕地面積が増加した代わりに放牧地が減少し,人口圧力や定住化による草原への負荷が増大したため,沙漠化などの環境問題も深刻化してきている。<BR> こうした内モンゴルにおける農業や環境問題に関する研究は,地理学においても徐々に蓄積されていきている(たとえば,澤田(2004),蘇徳斯琴(2005),小長谷ほか(2005))が,都市化に着目した研究はきわめて少ない。内モンゴルの主要都市での経済発展は,都市自体の構造変化に加えて,その周縁の郊外地域や農牧業地域の都市化を招き,地域の環境変化と密接に結びついて進展していると考えられる。<BR> 本研究は,内モンゴルにおける経済発展,環境問題,政府の政策などが,どのように地域の環境変化や都市化に結びついたかを明らかにすることを目的とする。<BR><B>【地域の概要と研究方法】</B><BR> 内モンゴル自治区は,中国全土の北辺に位置し,面積約118.3万km<SUP>2</SUP>,人口約2,392万人(2006年)を有する,おもにモンゴル民族と漢民族が混在する多民族地域である。地域内には,省都の呼和浩特(フフホト)のほか,包頭(パオトウ),烏海(ウーハイ),赤峰(チーフォン),通遼(トゥンリャオ)など12の市と盟が存在する。2000年以降,中国では経済発展や地域変化,中央政府の国策などより,地方行政機構の再編が進んでいる。たとえば,農業を主とした内陸部の「地区」に「市」を新設したり,周辺の「地区」を「市」に編入することで,農民や遊牧民を「市」の住民にする,「撤地設市」という行政改革が行われた。その結果,開発にともなう実質的な地域変化だけでなく,全国的な地方行政再編を反映した形式的な地域変化が進んでいる。とくに内モンゴルでは,自治区の下級行政機構として従来は「盟」が置かれてきたが,「撤盟設市」による行政改革に伴い,2003年には自治区内9の「盟」のうち6までが「市」に改編された。<BR> 本研究では,内モンゴルにおける政府の制度・政策が都市化に与えた影響を検討するために,各種の統計データを用いてGISによる地図化と統計解析を行った。<BR><B>【結果と考察】</B><BR> 内モンゴルが独立した1947年以降の政策転換は,巴図(2006)によって6つに時期区分されているが,改革開放後に限ると次の3時期に分けられる。それは,農牧結合政策により生産請負制が進んだ1982-1991年,放牧を禁止して農牧産業化制が進んだ1992-1999年,西部大開発による退耕還林還草政策が行われた2000年以降である。ここでは,環境変化が顕著になった1990以降における都市化と地域の変化を分析した。<BR> 居住地区分による都市人口は,1990年の781.1万人から2006年の1163.6万人に増え,都市人口比率も1990年の36.1%のから2006年の48.6%と,都市化が進展していることがわかる。これは,1970年代末に始まる改革開放政策により,内モンゴルの経済発展と都市化が進んだ結果である。とくに2000年以後,沙漠化の防止と内モンゴルにおける西部大開発をスムーズに進展させるため,内モンゴル全域で土地封鎖,強制移住,牧畜禁止など「生態移民」政策によって都市への集住が進行した。<BR> 内モンゴルの農村では牧畜業から農業への生業移行が著しい。一方,都市には人口,機能が集積し,中心都市内および周辺地域に工業と第3次産業が集中した。その結果,以前の盟や旗の地域が徐々に合併して,新しい都市が形成されている。内モンゴル全土で,交通,工業,商業などが集積する都市内部および周辺地域と,林地,牧用地,農地などが広がる農村地域との分化が進み,地域変化と都市化が進んでいる。<BR> これまでの農村地域の変革制度・政策は農牧民の生活向上を目的とした農業・牧畜業の改革であったが,農牧地域の経済構造を大きく変革するものではなかった。一方,この間,工業化,サービス経済化によって都市の経済は大きく成長し,結果的に都市と農村地域の間では収入,教育,生活水準などの面での格差が顕在化した。こうした開発の結果,全国的に見ると,沿海部と内モンゴルの格差は縮小傾向にあるものの,都市化に伴って内モンゴル地域内での格差が新たに生じている。

言及状況

外部データベース (DOI)

Twitter (1 users, 1 posts, 0 favorites)

こんな論文どうですか? 中国内モンゴルにおける環境変化と都市化の進展(梁 海山),2008 https://t.co/LDTX2sNeCH <BR><B>【研究の視点と目的】</B>…

収集済み URL リスト