著者
土'谷 敏治
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.152, 2003

1.はじめに 現在,日本の公共交通は大きな転換期に立っているといえる.自動車交通への依存度がさらに高まる中で,規制緩和と国による助成の削減が実施され,とりわけ大都市圏以外の地域では,各事業者の経営判断と地方自治体による政策的決断の必要性が増している. このような事態は,自らのインフラストラクチャーを維持・管理しなければならない地方鉄道事業者にとって,より深刻である.地方鉄道事業者の経営環境が,極めて深刻な状況におかれていることは周知の事実であるが,旧国鉄の地方交通線問題が一応の終結をみて以来,鉄道の存廃問題はしばらく沈静化していた.しかし,上記のような動きの中で再びその存廃問題が論議され,実際に廃止される鉄道路線がみられるようになった.このことは,従来の独立採算制の枠組みの中では,既に経営の限界に達している事業者が現れていることを示している.他方,いずれの鉄道路線にも,日常生活を営む上でその路線を必要とする利用者が存在する.今後は経営補助の視点ではなく,都市計画や地域の交通政策の中で,鉄道をはじめとする公共交通機関を位置づけていかなくてはならない段階にきているといえよう. ところで,鉄道路線の存廃を論議するにしても,また助成制度や交通政策を検討するにしても,まずその鉄道路線のおかれている現状や利用状況の把握が不可欠である.そのうち経営側の視点に立った分析は,当該事業者の経営上の資料から可能であるが,利用者側の分析は利用者や沿線居住者に対する新たな調査が必要であり,一部の鉄道路線を除いて十分な資料が入手困難な状況にある.今回,千葉県銚子市の銚子電鉄について,利用者に対する調査の機会を得た.本研究では経営側の資料とあわせて,この調査結果をもとに銚子電鉄利用者の特徴やその利用状況についての分析を行い,銚子電鉄が抱える課題や展望について検討を加える.2.銚子電鉄の旅客輸送パターン 銚子電鉄は,営業キロ6.4km,地方鉄道の中でもとりわけ小規模な鉄道である.その路線は,銚子市の中心部に位置しJR線との接続駅でもある銚子を起点に,市域の南東端に位置する外川を結んでいる. したがって,旅客輸送パターンは,銚子とその他の各駅間の輸送が中心であり,定期外の輸送ではとくに銚子・犬吠間の観光客の輸送が顕著である.このような輸送パターン以外では,沿線に立地する高等学校や小学校への通学輸送や,旧市街への買い物・用務客の輸送が注目される.時間帯別にみると,もちろん通勤・通学時間帯に輸送量が集中するが,とりわけ午前の通学時間帯における,上記の学校最寄り駅付近での集中が顕著である. しかし,このような旅客輸送の営業収入は営業経費を下回って欠損を生じている.他方,旅客輸送以外のいわゆる副業による収入は旅客収入を大きく上回り,それによって旅客収入の欠損を埋め合わせている情況にある.3.利用者特性 銚子電鉄利用者の特性を明らかにするため,乗客の性別・年齢などの属性や,利用目的・利用頻度・乗降駅・他の交通機関との乗り継ぎなどの利用状況についてのアンケート調査を実施した.その結果,調査時1日の銚子電鉄利用者総数の1/4強と考えられる回答を得た. 回答者の約3/4は銚子市在住者であったが,その半数以上が通勤・通学を利用目的として挙げている.その数は,利用頻度が週4日以上の回答者数とほぼ一致し,両者の対応関係は明らかである.しかし,定期乗車券利用者数はこれよりも少なく,通勤・通学利用者の定期乗車券購入率低下を裏付けている.通勤,通学に次いで,買い物や遊びに出かける際の利用が多いが,これら利用目的でも週単位の利用者が多く,全体として銚子電鉄利用者の利用頻度は高いといえる.このことは利用者の銚子電鉄に対する評価にも表れ,好意的な評価や存続を望む意見が多い.また,パークアンドライドに代表される自家用車や自転車との連携は不十分であるが,銚子駅におけるJR線との乗り継ぎ需要はかなり存在すると考えられ,両者の連携強化が求められる. 銚子市以外の在住者では,そのほとんどが観光目的の利用で,11月の調査時期から考えても,銚子電鉄に対する観光需要は大きいと判断される.また,観光客の多くに,銚子電鉄自体を観光対象の1つとして評価する傾向が見らる.これらの観光客は,主としてJR線を経由して訪れており,観光面でもJR線との連携が望まれる.

言及状況

外部データベース (DOI)

Twitter (1 users, 4 posts, 0 favorites)

こんな論文どうですか? 地方鉄道事業者の課題と展望:銚子電鉄を事例として(土'谷 敏治),2003 https://t.co/0qVH45TGXN 1.はじめに 現在,日本の公共交通は大きな転換期に立っているといえる.自動車交通への依存度がさらに高…
こんな論文どうですか? 地方鉄道事業者の課題と展望:銚子電鉄を事例として(土'谷 敏治),2003 https://t.co/0qVH45TGXN 1.はじめに 現在,日本の公共交通は大きな転換期に立っているといえる.自動車交通への依存度がさらに高…
こんな論文どうですか? 地方鉄道事業者の課題と展望:銚子電鉄を事例として(土'谷 敏治),2003 https://t.co/0qVH45TGXN
こんな論文どうですか? 地方鉄道事業者の課題と展望(土'谷 敏治),2003 https://t.co/0qVH45TGXN 1.はじめに 現在,日本の公共交通は大きな転換期に立っているといえる.自動車交通への依存…

収集済み URL リスト