著者
松岡 恵悟
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.174, 2005

仙台市の都心部では、1990年代末に大規模な賃貸オフィスビルが相次いで開発された。それらを含め1996年から2000年の間に竣工した賃貸オフィスビルの合計床面積は約35万m<SUP>2</SUP>のぼり、1995年までの都心部全体のストック(約151万m<SUP>2</SUP>)の4分の1に近い床面積が短期間に新たに供給された。そして、それらの新たなビル立地は、都心業務地域の核心的な地区よりもむしろ、仙台駅北部の戦後区画整理が行われず再開発の必要性が高い地区や、東部の1980年代に基盤整備が進められた地区に多く見られた(図1)。この研究では、これらの新規ビル立地がテナント・オフィスの入居を通じて都心空間の構造にどのような影響を与えたのかを明らかにすることを目的とした。<BR> 近年、仙台市の都心部においても、他の多くの主要都市と同様に賃貸オフィスビルの空室率が高く、とくに1999年以降は10%を超える水準にある。仙台市は東北地方の地方中枢都市であり「支店経済」を基盤として発展してきたが、長引く不況のなかで支店の新規立地は少なく、既設支店の縮小・統合・撤退もみられるなど、オフィス空間の需要増が見込める状況にはない。しかしながら、その一方で設備の整った新しく大規模なビルは相対的に人気が高く、おおむね95%以上の入居率を維持している。<BR> オフィスビルは一般に竣工後時間を経るにしたがって陳腐化が進み、魅力を減じてゆく。とくにここ数年はオフィスのIT対応が強く求められたため、これに設備面で対応できない古いオフィスビルは市場での競争力を弱め、新しいビルの優位性が際立つようになった。そのため、新しく大規模なビルや設備のより優れたビルは、周辺の既存支店の借り換え需要に支えられ、テナントを集めることが相対的に容易であると言える。<BR> 上述の新しい大規模ビルのうち1998年と99年に竣工した7棟について、入居オフィスの企業概要や以前の立地場所を調査したところ、各ビルとも大企業オフィスが多数含まれ70%前後が借り換えによるものであることが判った。なお、この調査は企業のホームページや会社年鑑、電話帳や住宅地図を資料として行った。また、移転前の入居ビルにおける空室の充てん状況についても調査を行った。その結果、相対的に新しいビルや規模の大きいビルでは、より古く小規模なビルなどからの借り換えにより、充てんが進みやすい傾向を見てとることができた。そして一方で古いビルのなかにはテナント転出後の充てんが進まず、空室率が60%を超えるものも見られた。<BR> 以上のようなテナント・オフィスの移動を通じて、新たに大規模ビルが立地した仙台駅北部や東部地区は業務空間としての性格を強め、一方で古いビルの比率が高い核心的な地区ではオフィス立地数や従業者数が減少し空室率が上昇するという、都心空間の再編成が起こっていることを確認できた。

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