- 著者
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上村 要司
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 地理要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2004, pp.184, 2004
1.研究の目的<br> 近年,高水準の供給が続いている分譲マンションは都市の居住形態として定着した感があるが,そのストックの増大とともに既存住宅の住み替えを通したフィルタリング効果(居住水準の向上)の重要性も高まっている.都市における居住地移動や住宅の居住選択に関する既往研究は多岐にわたるが,中古や新築といった住宅の取得形態から居住選択行動を捉えたものは多くない.そこで本研究では,分譲マンションの取得形態に着目し,新築取得層との比較から既存住宅取得層の居住地選択特性について明らかにする.<br>2.方法<br> 本研究では,東京圏(1都3県)において既存住宅流通量の把握が可能な指定流通機構データから,鉄道沿線別の地域特性に配慮しながら取引活発な10都市(川口・志木・千葉・我孫子・東京都港・八王子・西東京・横浜市青葉・川崎麻生・鎌倉の各区市)を抽出し,2002年12月に当該都市の10マンション(戸数100戸以上)に対しアンケート調査を実施した.有効回答率42.4%で501世帯から回答を得た.<br> 調査項目は,_丸1_現住地,家族構成,世帯主の職業・就業地等の世帯属性,_丸2_中古・新築での取得形態,_丸3_従前住宅の所在地・所有関係,_丸4_購入時の比較住宅・探索地域,現住地の選択理由,_丸5_購入時の重視項目等である.分析においては,各地域における中古・新築取得層の別に従前居住地や取得時の探索地域及び現住地・勤務先との関係を都市空間パターンとして捉えるとともに,居住地選択における住環境要素の重視度を中心に考察する.<br>3.結果<br> 1)居住選択行動の特性:現住地の選択理由では中古・新築取得層とも「通勤利便性」の比率が高いが,中古では「住み慣れた地域」もこれに次いで高く,「子供の学区」とともに新築との間で1%水準の有意差がみられた.従前居住地が現住地と同一区市である比率は,新築では20%にとどまるが,中古では49%を占め比較的狭いエリアで居住選択が行われている.選択時の探索地域でも,新築の56%が他の区市町村や現住地と同じ鉄道沿線を対象にしているのに対し,中古では同一区市のみが51%を占め,現住地周辺に対する志向性が強い.一方,回答者におけるサラリーマン世帯の多さを反映し,就業地が現住地と異なる区市町村の比率は新築で90%,中古も77%と高く東京都心5区は48%を占める.しかし,就業地が他の区市町村の場合でも,中古では同一区市内での探索が46%と高く,新築の16%に対し探索範囲を限定する動きが顕著にみられた.<br> 2)都市間移動を伴う選択行動の空間特性:都市間移動を伴う居住地選択が多くみられた新築取得層では,志木市や西東京市のマンションで都心に向かう鉄道沿線を中心に,概ね20km圏内のセクター方向に従前居住地の存在が認められたが,我孫子市では千葉方面から都心区を超えた世田谷区や調布市からの転居もみられた.<br> 3)居住選択における重視項目:現住地の選択に際して重視された住環境要素をみると,駅までの距離や買物の利便性の重視度が高い都市が多いが,千葉市では沿線やまちのイメージも重視されており,港区では周辺の娯楽環境などの都市機能への期待が高い.一方,鎌倉市では交通等の利便性より周辺の自然環境や住宅街としての閑静さの重視度が高く,居住環境の良好さが強く意識されている.<br>4.まとめ<br> 分譲マンションの新築取得層では,主な就業地である都心区と現住地を結ぶセクター方向での探索以外に,都心区を超えた転居行動もみられたのに対し,中古では同一都市内での比較的狭いエリアでの選択行動が卓越していることが明らかとなった.それは通勤利便性だけなく,住み慣れた地域や子供の教育環境に対する強い志向性が現れた結果といえる.このことは,設備や構造の新しさなど住宅の要素に関心が向けられやすい新築に対して,既存住宅を選択した居住者では,住宅自体より地域の住環境をよく吟味して取得しようとする意識が働いていることを示唆している.<br>