著者
千葉 昭彦
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.137, 2010

1. 「都市地理学」の見られ方<br>「地理学は地域研究において有用、有益な分野であるので、社会や行政などに対して政策提言をしていかなければならない」という趣旨の発言が地理学界でしばしば聞かれる。そこでは、現実にそのような役割を担い、実現しているのかどうかということが問われることとなる。<br>検討対象を都市地理学に限定するならば、林(2001)は「都市地理学の限界」とのタイトルのもとに、バージェスやホイトのモデルを取り上げ、都市地理学は都市構造記述するにとどまっていると評し、都市形成のメカニズムの理論的説明がみられないとしている。それゆえに、都市地理学は都市問題発生のメカニズムも把握できないのでその解決の処方箋を示すことができないとしている。<br><br>2.都市地理学の研究目的と研究対象<br>林の指摘は、地理学あるいは都市地理学の関係者の意図と異なるものとなっている。そこで、地理学あるいは都市地理学の有用性や社会的な役割に関する先達の指摘を確認しておこう。<br>ヘットナーは「われわれは応用地理学の課題に中に、計画の直接的基礎としての評価および変更の提案と言う二段階を区別することができる。・・・(中略)・・・そして、評価は必然的に変更への提案につながる」(ヘットナー,2001,PP.243―244)と述べている。プレポも「地理学はデータや生のもの、材料や生活の共存、人間活動や景観の次第に急速となる変化と、他方での永続性、空間を構築し、整備し、荒廃させる諸力の可動性を考慮するものである」(プレポ,1984,P.32)と指摘している。<br>わが国の論者でも同様の言及を確認することがでる。木内は「(1)地理学を今より広く、かつ深く、社会の諸問題に活用することは、双方にとって有益である。(2)このために応用地理学を地理学の一分野として樹てることは望ましいが、現情は必ずしも十分な状態にはない。・・・(中略)・・・(3)地理学の応用は、そのテクニクを実社会に利用するという控え目のものから、計画・政策を樹立する積極的な姿勢のものまで幾段階かがある」(木内,1968,P.76)としている。また、西川も「こうした地域と結びついた、いわば社会的病理現象の因果関係を解明して、その対策を適切に講じるために、そしてさらに合理的な土地利用と地域・地区制を確立し、よりすぐれた生活環境を育成し、産業効率の増進をはかるなどの地域開発計画に対して、人文地理学はいろいろな形で貢献できるし、またそれが強く期待されているのである」(西川,1985, P.7)と記している。<br>ところで、学問の位置付けを阿部謹也(1999)が指摘するように真理探究の基礎研究と問題解決の応用研究とに分けてとらえるとしても、都市地理学が後者の役割を担うならば、その政治的立場や価値判断にかかわりなく、次のようなプロセスが求められる。すなわち、取り上げるべき問題を認識し、その上でその問題が発生する要因やメカニズムを究明し、最後にそれらを勘案して問題解決の道筋を示す、つまり政策提言に至る。これはあたかも医師が患者の症状(病気)を認識し、その症状(病気)の発生原因を解明し、病気の原因を取り除く治療方法を処方あるいは処置するプロセスと同じであろう。<br><br>3. 都市地理学に求められる方向性<br>阿部和俊(2007)は都市的地域を研究対象とした論文を、都市を点として分析したものと面として分析したものといった区分と、都市を研究したものと都市で研究したものとに分類している。ここで都市地理学に応用研究としての役割を求めるのであるならば、「まちづくり」などの特に面として都市を研究する領域では、林の指摘とのギャップの解消が求められることになる。

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