著者
佐藤 英人
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.144, 2010

1.はじめに<BR> オフィス立地は都市内部の物的な構造を議論する都市内部構造論や都市間結合のあり方を分析する都市システム研究などで早い段階から分析されてきた。これらの既往研究では、オフィス機能の立地や分布に着目し、オフィス機能の空間的な偏在性(オフィス機能が都心部に集中し、中心業務地区を形成したり、人口規模が上位な都市ほど、より多くの支店が配置されるという支店経済の成立など)が確認された。発表者も1980年代以降の東京大都市圏の多核化や郊外核の形成という新たな動向を明らかにすべく、郊外に整備された業務核都市(旧大宮市、幕張新都心、横浜みなとみらい21地区)に注目し、当地に進出した企業の属性や従業者の通勤行動などを分析した。<BR> しかし、既往のオフィス立地研究の多くは、立地や分布の空間的な偏在性を事実として明らかにしてきたが、なぜオフィス機能が偏在するのかという、要因分析に関しては十分な研究蓄積があるとは言えない。さらに、オフィスという業種横断的で、かつ就業形態という枠組みで集計されたデータは意外と少なく、実はどの企業が、いつ、どこから、どのようにして、現在のオフィスビルに移転したのか、基本的な知見すら十分に把握できていないのである。<BR> そこで発表者は、各種資料や統計を用いて、東京特別区内にオフィスを設置している主な企業を対象とした「移転経歴データセット」の作成に取り組んでいる。このデータセットには、どの企業(資本金規模、従業員規模、業種・業態、設立年、本社・支社の別、機能等)が、いつ(入居期間)、どこから(移転元住所)、どのようにして(拡張移転、統合移転等の移転形態)移転してきたのか、整理されており、オフィス移転の発着地を同時にとらえることができる。ただし、「移転経歴データセット」は、住宅地図の表札情報やNTTタウンページ、各企業の社史、『日経不動産マーケット情報』の記事、さらには、発表者が独自に実施した現地調査など、様々なソースから膨大なデータを取得しなければならない。そのため一個人の研究者では能力の限界から遅々として作業が進まず、オフィス移転の全体像を十分に把握し難いという課題に直面している。<BR><BR>2.隣接分野との連携<BR> 以上の課題を克服するために、発表者は都市経済学や不動産学の研究者とともに、不動産仲介会社が所有する賃貸オフィスビルの入退出データの公開に向けた取り組みを進めている<SUP>1)</SUP>。不動産仲介会社には、仲介した物件の入退出に関するデータが、過去15~20年にわたって蓄積されている。特に都市経済学や不動産学の研究者は、オフィス賃料や空室率の経年データから今後の賃料やコストを推計したり、一般化を試みる研究に関心が払われる一方で、住所データを用いた立地分析には十分な関心が払われていない。一個人の研究者の尽力のみでは、公開されることのない貴重なデータを、隣接分野の研究者とともに、いかに分担して利活用していくのか、重要になろう。なお、隣接分野との共同研究として、オフィス移転と企業の成長・衰退過程との関係性を議論する「企業のライフコース」からみたオフィス移転の分析にも着手している<SUP>2)</SUP>。<BR><SUP>1)</SUP>企業・家計の多様性に着目した都市内部構造の動態変化に関する研究,平成20~22年度文部科学省科学研究費補助金(基盤研究C),研究代表者:清水千弘,研究分担者:唐渡広志,吉田二郎,佐藤英人<SUP>2)</SUP>「企業のライフコース」からみた産業クラスターの形成要因―企業間ネットワークの構築とオフィス移転を手掛かりにして―,近未来の課題解決を目指した実証的社会科学研究推進事業(平成21年~22年度),一橋大学産業・金融ネットワーク研究センター,研究代表者:清水千弘,研究分担者:唐渡広志,佐藤英人,渡辺 努

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