著者
吉水 裕也 齋藤 清嗣
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.270, 2011

地理的技能や地理的な見方・考え方を授業で扱うことの重要性が指摘されている。その一方で,地理に関わる専門的な訓練を十分に受けていない教員が地理を担当することが増えている。また,長年地理を担当してきたベテラン教員の多くが定年に近づき,世代交代が進行しつつある。このような状況から,地理教育に関わる教員研修の需要は年々増大している。 しかし,学校現場では,以下の状況等により研修等に割く時間が捻出されにくい現状となっている。(a) 教員は多忙化しているうえ,部活動等の業務があるため,かつてのように休日に自らのスキルアップのための時間を捻出しづらい。(b) 中高では,授業を自習にして勤務時間に学校を離れることは,公的な出張でもかなり困難(原則として担任が全ての授業を行う小学校ではさらに困難)。(c) 長期休業中の平日は,勤務日であるという位置付けが厳しくなり,授業が無くとも出勤するか,休暇届が求められるようになっている。(d) 所属長(校長等)や設置者(教育委員会等)から出張命令が下されるのは,基本的には勤務時間内であるため,休日の研究会などは公的なものでも出張扱いとはならず,私的な参加にされることがある。(e) 夏季休業期間は短縮される傾向にあり,7月末や8月末は学校を離れにくくなっている。特に高校の場合,部活動や補習授業等で多くの教員にとって融通がきく期間は,8月上旬からお盆休みまでである。(f) 教員側の立場からすると,多忙であるが地理的な分野に関わる研修を行いたいという需要は一定あるものと思われる。特に地歴科の免許を持った若手教員は史学専攻であっても,地理の授業を担当することがあり,駆け込み寺的な研修を求める声が聞かれる。 以上のような現状を踏まえ,小中高の教員が参加しやすい形態として,次のような条件を備えた研修会を計画すれば,一定の参加者が得られ,且つ,一定の満足度が得られるのではないかという仮説を設定し,実施することにした。(1) 実施時期は教員が参加しやすい8月上旬または下旬頃の平日に実施する。(2) 教員が出張または研修扱いで参加しやすいよう,近畿の各府県教育委員会から後援をとりつける。(3) 夏休みの動静が定まる前(6月頃)に告知を行う。(4) 現場ですぐに役立つような,地域の見方を学べるような巡検を行う。(5) 非学会員でも参加できるようにする。(6) 様々な手段を工夫して,広く広報する。 これらの条件を満たす形で,これまでに以下の研修会を実施した。第1回 地域事例の教材化(2005.8.22)京田辺市 35名第2回 地域素材の発見と活用(2006.8.18)西宮市 51名第3回 地域学習の実践と課題(2007.8.10)岸和田市 76名第4回 地理教育における基礎基本(2008.8.1)池田市 54名第5回 地理教育の刷新を考える(2009.8.21)岡山市 48名第6回 地域の歴史的環境を活かした地理教育(2010.8.10)奈良市 55名 第1回の参加者は35名であったが,その後毎年50名程度の参加がある。 第1回の参加者アンケート等による評価を見ると,炎天下での巡検はハードではあるもののおおむね好評であったこと,特に校種の異なる者同士で地理教育についての情報交換を行ったワークショップができたことに意義を感じる声が大きかった。この回の取り組みをもとに,以後の研修会では小学校の先生方とつながる組織へのPRを強化したり,炎天下での巡検のコース面での配慮などについての改善を行い,現在に至っている。 現在は,巡検,講演や実践報告,ワークショップという3つの要素を組み込んだ形に落ち着きつつある。 今後の課題は以下の点に集約される。ア 実施時期が8月のため,巡検の熱中症対策が必要であること。イ ワークショップでの情報交換が好評で,さらなる時間確保を望む声があるが,これにどう対処するのかということ。ウ 参加者数と実施内容から適正規模をどの程度に設定するのかということ。エ 教員免許更新研修や各教育委員会実施の必修研修への読み替えについて検討していくこと。

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