- 著者
-
田部 俊充
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2011, pp.280, 2011
本研究は,評価と地理教育について,教育政策の日米比較,とりわけ学力調査,州のテスト政策を中心に考察した.まず,近年の日本の教育政策の結果,国算(数)の2教科への偏重が起きているという問題提起を行った.一方アメリカ合衆国においては,NGS(全米地理学協会)による資金援助などにより,地理教育の活性化が順調に推移していたこと,2002年のNCLB(どの子も置き去りにしない)法の制定により国語,算数・数学の偏重が始まった. NAEP(全米学力調査)は,アメリカ連邦議会がその実施を決めて教育省の責任において行う全国的調査であり,1969年に始まった.実際には大手のテスト機関に委託して行われている.2000年には,主調査だけで10万6,000人,州別調査が60万人ほどの参加となっている.全米学力調査では,小・中・高校で実施される授業科目はすべて調査対象となっており,社会科テスト関連では,合衆国史,公民,地理などが調査対象となっている.毎年あるいは1年おきに1~3教科の科目を選んで調査が実施されている. マサチューセッツ州の教育政策は伝統的に地方分権主義に基づく教育行政システムだった.1990年代になり,知事と州教育行政機関が一体となった「強力な指導性」によって教育改革が推進された.1991年に知事に就任したウェルド(Weld, William F.)は,教育行政に対する強力な指導性を発揮しながら,教育改革のプラン作成に着手する.教育改革のポイントが,州のスタンダード・カリキュラムの策定と厳しいアセスメント行政といわれるテスト政策の実施であった.1993年には「マサチューセッツ州教育改革法」が制定された.同法は,州内の公立学校K-12(幼稚園から第12学年)における教育の質的改善を意図した包括的な法律である.第29節1D項は,州内の全ての公立学校における「州全体の教育目標」(statewide educational goals)を掲げ,数学,理科(科学とテクノロジー),歴史と社会科学,英語,外国語,芸術の中心科目における「学問的な基準」(academic standards)を開発することを求めた(北野2009).日本における「学力低下論争」の結果,国語と算数・数学教育のみに論議が収斂してしまう傾向に危機感を感じ,問題点を論じた.また,同様の問題はNCLB法以降のアメリカ合衆国においても顕著であることを指摘した.アメリカ合衆国においても中央集権的な学力向上政策の結果,テストに出題されない社会科の軽視がもたらされたのである.しかし,アメリカ合衆国の場合,NAEPや州レベルにおけるMCASにおける地理テストの実施,マサチューセッツ州スタンダードにおける幼稚園段階からの地理教育の導入など,多様な選択を模索している状況を確認することができた.