- 著者
-
高田 将志
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2016, 2016
<br><br>海外の地理学の現状に関しては、近年、地学雑誌において「世界の地理学(Part I)、(Part II)」と題した特集号が組まれた(地学雑誌、第121巻、4号、5号、2012年)。これは2013年に京都で開催された国際地理学会議に向けて企画された特集号であり(村山ほか、pp.579-585)、PartI(地学雑誌、第121巻、4号、2012年)では、イギリス(矢野、pp.586-600)、ドイツ(森川ほか、pp.601-616)、フランス(手塚、pp.617-625)、スイス(大村、626-634)、オーストリア(呉羽、pp.635-649)、スペイン(竹中、pp.650-663)、ポルトガル(池、pp.664-672)、スウェーデン(山下、pp.673-685)、フィンランド(湯田、pp.686-698)、ロシア(小俣、pp.669-716)、ポーランド(山本、pp.717-727)、スロヴァキア(小林ほか、pp.728-734)、ルーマニア(漆原、pp.735-742)、Part II(地学雑誌、第121巻、5号、2012年)では、オランダ(伊藤、750-770)、アメリカ(矢ケ崎、771-786)、カナダ(山下、787-798)、ブラジル(丸山、799-814)、韓国(金、815-823)、中国(小野寺、824-840)、台湾(葉、841-855)、ベトナム(春山、856-866)、インドネシア(瀬川、867-873)、インド(岡橋ほか、874-890)、オストラリア(堤、891-901)、ニュージーランド(菊池、902-912)である。これらの総説では、主に、地理学関連の学会組織や学術研究面の特徴について触れられており、地理教育の点では、主要大学の組織や教育など高等教育に関する記述が中心で、中等教育について触れられている部分は極めてわずかである。また東~東南~南アジアについてみると、韓国、中国、ベトナム、インドネシア、インドが取り上げられているものの、他の国々に関する情報は含まれていない。<br><br>一方、海外の中等教育に関しては、大分古くはなるが1970年代末~1980年代初頭にかけて、帝国書院から「全訳 世界の地理教科書シリーズ」全30巻が刊行されている。これは、主要国の中等教育で用いられている地理分野教科書を全訳したもので、アジア諸国の中では、インド(第11巻)、タイ(第12巻)、インドネシア(第13巻)、フィリピン(第14巻、中国(第23巻)、韓国(第24巻)の6カ国について、取り上げられている。したがってこの6カ国については、教科書分析を行うことで、中等教育レベルの地理教育における時代的変遷についても、ある程度分析することが可能である。<br><br>地理学における高等教育や先端研究の重要性は言うまでもないが、翻って日本の現状を顧みると、中等教育における地理教育は、高等教育や、その先の先端研究の場にも大きな影響を及ぼしていることは明らかである。このような点から、日本のみならず、各国の地理学や地理教育においても、中等教育の実情を明らかにしておくことは、当該国の地理をよりよく理解するために新たな視点を与えてくれるであろう。また、当該国における中等教育における地理教育の実態を明らかにする過程で、日本からの目線で見落としがちな地理的事項を認識できれば、当該国の地誌的記述や日本を含むアジア諸国との国際関係理解の面で、日本の地理教育に資するべきものが発見できることも考えられる。<br><br>発表者は、将来的には、アジア、特に東~東南~南アジアに対象を絞って、各国の中等教育の現場で、地理学がどのようなテーマを扱い、どのような教育システムの下で教えられているかについて、主に、使用されている教科書や資料類の分析と、授業見学、教員へのインタビューなどから明らかにし、各国間の相互比較を行いたいと考えている。そしてその結果をもとに、中等教育レベルでは、国毎にどのような地理的知識・技術・考え方を重視しているのか、とくに自国の地誌や、日本を含む主要な国との国際関係について、どのような観点を重視して教育を行っているか、などを明らかにしたいと考えている。<br><br>上記のような背景を踏まえ、今回の発表では、試みにまず、ブータンとシンガポールというアジアの国について、中等教育がどのような教育システム上の位置を占め、どのような教科書を使用して教育を行っているのかについて調べた結果について報告したい。