著者
加藤 周人
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2018, 2018

目的と方法<br> 福島第一原子力発電所の事故をきっかけに福島県沿岸での操業は自粛された.いわき地区では2013年10月より試験操業が開始され,本格操業にむけて少しずつ水揚げ量が増加しているものの,水産物の風評被害も依然残っており,流通への影響も大きい.また水産物の出荷が止まることによる影響について勝川(2011)は,被災地の水産業が元の状態に戻ったとしても,取引先が入荷先を変更してしまうために,結果として水産物の出荷先を失う可能性を指摘している.<br> 原子力災害をきっかけとした福島県の水産物流通の変化は他県とは異なる.そこで本研究では震災前後の変化を示すだけでなく,仲買人の多様な流通が原子力災害の影響によってどのような影響を受けたのか,そしてどのような対応をしてきたのかを仲買人の経済活動というミクロな視点から明らかにしていく.<br> 調査期間は2017年2月から10月にかけて断続的に調査を行い,夏季期間は2017年8月24日から9月15日まで現地滞在し,聞き取り調査を行った.また原子力災害後の水産物流通についてはいわき市漁協の期間別,魚種別出荷先別のデータも用い分析を行った.<br><br>仲買人の経済活動と出荷状況<br> 聞き取り調査から,産地仲買人は1度に多くの鮮魚を仕入れ,主に消費地市場へ出荷する大口仲買人と,数キロ程度の鮮魚を仕入れ,鮮魚店などを営む小口仲買人に分けられた.<br> 大口仲買人B-11は主に活魚を仕入れそれを消費地市場に出荷していた.災害後は取引先との関係を維持させるため,他地域の産地卸売市場まで赴き,水産物を買付し出荷を継続させていた(表1).大口仲買人の多くは長期的な利益を見据え,経済活動を行っていた.一方小口仲買人は災害後,産地卸売市場で鮮魚を購入できず,入荷先をいわき市中央卸売市場や他県の鮮魚店などに変更し,対応してきた.<br> また災害後の水揚げ量は徐々に増加傾向にあるが,常磐ものブランドであったメヒカリ(アオメエソ)の販路は依然として縮小傾向にあり,魚種によって出荷傾向が異なっていた.<br><br>参考文献<br><br>勝川俊雄2011.『日本の魚は大丈夫か―漁業は三陸から生まれ変わる―』NHK出版新書.

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