- 著者
-
武者 忠彦
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2018, 2018
<b>なぜリノベーションが都市再生につながるのか</b><br>都市の再生という現象は,これまでもジェントリフィケーションやコンパクトシティの視点から大きな関心が寄せられてきた.国内では商業振興の事例を分析するアプローチが中心であったが,1998年の中心市街地活性化法の施行以降は,行政の活性化計画や開発規制などの制度面に着目した研究も蓄積されてきた.ところが,現実の都市をみると,商業振興中心のまちづくりや行政主導の計画的なまちづくりは,今や全国各地で機能不全に陥っている.これに対して,近年大きな注目を集めているのが,民間主導で中心市街地の既存ストックを次々と利活用して都市を再生する「リノベーションまちづくり」とよばれる取り組みである.こうした必ずしも計画的ではないまちづくりが全国で同時多発的に生じているという現象は,商業振興や制度の分析を中心に展開してきた従来の中心市街地研究とは全く異なるアプローチが必要であることを示唆している.実際,個別建築物のリノベーションという点の動きが,なぜ計画することなく連鎖的に展開し,場所全体の価値が高まる面的な都市の再生につながるのか,その機序については当事者の間でも十分に理解されていない.<br><br><b>創造的人材と都市再生</b><br>これに対して,報告者は長野市で実施した予備的な調査から,リノベーション建築の入居者にデザイナーなどの創造的職業やU・I・Jターン者の比率が高くなっているという事実に着目し,「リノベーションは単なる建築的価値の再生ではなく,建築を媒介とした創造性に富む外部人材の定着であり,それが都市の再生にもつながる」という仮説的な知見を得ている.こうした創造的人材が都市の再生要因となるという議論は,1960年代に始まるジェントリフィケーション研究のほか,近年ではフロリダらによる創造都市論でも展開されているが,創造都市論は,あくまで創造階級とよばれる人材の数と都市の経済的成長を表す指標との統計的相関に関心があり,そうした人材がなぜ,どのように集積し,都市の成長につながるのかというプロセスは十分に理解されていない.<br><br><b>「創造都市化」仮説と「都市の文脈化」仮説</b><br>本研究では,リノベーションによる都市再生のプロセスについて,下の表1に整理した2つの仮説をもとに分析を進めている.「創造都市化」仮説とは,空洞化した中心市街地では都市的アメニティが充実している割に低コストで経営・居住可能な建築物が潜在的に多く立地しているため,リノベーションを通じてそれらの空間資源が可視化されることで,都市的環境を好む創造的な職種の人材が連鎖的に流入するというものである.一方,「都市の文脈化」仮説とは,特定の産業集積や歴史的地区など空間的文脈が共有された範囲において,建築のリノベーションによって空間がリデザイン(再創造)されることで空間的文脈が継承・強化され,その価値を共有する地域コミュニティが再構築されるというものである.報告では,アンケート調査で得られたデータをもとに,仮説を検証する.