著者
山崎 友資 園田 武 野別 貴博 五嶋 聖治
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.1-18, 2018

<p>サハリン~北海道,本州周辺海域から採集された標本に基づいて,モスソガイ属の分類学的再検討を行った。モスソガイ属は近縁のエゾバイ属の異名として扱われる場合もあるが,貝殻の形態の顕著な違いから,独立した属として扱った。</p><p>これまでモスソガイ属は研究者によって2種3亜種,あるいは1種に分類されていた。本研究においては,Habe & Ito(1980)により定義された5つの種および亜種タクサを操作上のタクサとして,主に貝殻,蓋と陰茎の形態,および地理的分布を比較した結果,以下の3種群に分類された。なお,歯舌形態は中歯の歯尖数に個体間変異が多く,本属において,種レベルにおける分類形質として有効ではないことが明らかとなった。</p><p>1)<i>ampullacea</i>種群:殻は小型,蓋の核は保存されていて丸く,足後縁部の前側に位置し,陰茎の生殖口は丸みを帯びる。ベーリング海,オホーツク海,日本海,北太平洋広域に分布する。含まれるタクソンは,<i>ampullacea</i>のみ。</p><p>2)<i>nipponkaiensis</i>種群:殻は小型,蓋の核は保存されていて丸く,足後縁部の前側に位置し,陰茎の生殖口は三角形。日本海,宗谷海峡に分布する。含まれるタクソンは<i>nipponkaiensis</i>と<i>limnaeformis</i>。</p><p>3)<i>perryi</i>種群:殻は大型,蓋の核は欠けていて裁断状,足後縁部のやや前側に位置し,陰茎の生殖口は鋭く尖る。オホーツク海,日本海,北太平洋広域に分布する。含まれるタクサは<i>perryi</i>と<i>ainos</i>。</p><p>同一種群に含まれる<i>nipponkaiensis</i>と<i>limnaeformis</i>,<i>pe</i>r<i>ryi</i>と<i>ainos</i>のそれぞれは,側所的に生息し,貝殻,特に殻皮の形態から不連続に区別できることから亜種として扱い,モスソガイ属は以下3種2亜種から構成されると結論づけた。</p><p><i>V. ampullacea ampullacea</i>(Middendorff, 1848)ヒメモスソガイ</p><p><i>V. nipponkaiensis nipponkaiensis</i> Habe & Ito, 1980 ナガモスソガイ</p><p><i>V. nipponkaiensis limnaeformis</i> Habe & Ito, 1980 ウスカワモスソガイ</p><p><i>V. perryi</i> <i>perryi</i>(Jay, 1856)モスソガイ</p><p><i>V. perryi</i> <i>ainos</i> Kuroda & Kinoshita, 1956 クマモスソガイ</p><p>ウスカワモスソガイ<i>V. n. limnaeformis</i> Habe & Ito, 1980のタイプ産地は,北海道南部の岩代Iwashiro沖として記載されたが,北海道には岩代という地名は存在せず,岩内Iwanai沖であることが確認できた。しかしながら,ホロタイプの再調査により本タクソンのタイプ産地は詳細地名の特定されない北海道と訂正される。</p><p>本論文で取り扱った標本は全て北海道大学総合博物館分館水産科学館及び,蘭越町貝の館に所蔵されている。</p>

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