著者
五嶋 聖治 和田 哲 大森 寛史
出版者
日本甲殻類学会
雑誌
Crustacean research (ISSN:02873478)
巻号頁・発行日
no.25, pp.86-92, 1996-12-20
被引用文献数
13

ごく最近,新種として記載されたヨモギホンヤドカリの分布と繁殖生態を,模式産地近くの函館湾葛登支の潮間帯において調べた.本種は潮間帯上部の潮線付近の転石域にパッチ状に分布し,季節的移動は見られない.4月から5月にかけて,雄が産卵直前の雌が入っている貝殻をはさみ持つ産卵前ガード行動が観察される.交尾・産卵直後にガード行動は終了する.抱卵雌は4月から2月の間に観察される.抱卵雌の出現時期とその後の卵の発達状態から,主な産卵期は5月で,雌は1年に1回産卵し,約9カ月間という長期にわたって抱卵することが明らかになった.交尾前ガード行動はホンヤドカリ属に普通に見られる行動であるが,長期にわたる抱卵期間は同地に生息する同属他種,あるいは他所に分布する同属のそれと比較しても非常に長く,きわだった繁殖特性といえる.このことは本種の属するホンヤドカリ属は,種類数の豊富さとともに,その繁殖特性にも多様な面が含まれることを示唆している.
著者
田村 亮輔 中川 宙飛 五嶋 聖治
出版者
北海道大学大学院水産科学研究科
雑誌
北海道大学水産科学研究彙報 (ISSN:13461842)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.37-44, 2014-07

アサリRuditapes philippinarumはサハリンから日本,朝鮮半島,中国に分布し,潮間帯から水深約10mまでの砂礫泥底に生息する潜砂性の二枚貝である(松隈,2004)。日本においては古くから沿岸漁業の重要種として漁獲が行われてきたが,近年その資源は減少傾向にあり(伊藤,2002; 多賀ら,2005; 松川ら,2008),資源管理技術の確立が望まれている。適切な資源管理を行う上で本種の成長や成熟に関する情報は不可欠であるが,北海道におけるそれらの知見は本州や九州に比べて乏しく,北海道内においてもアサリ漁業の中心である道東域(中川,1994)に限られているのが現状である。北海道函館湾に面する北斗市(旧上磯町)館野地区では,殻長32mm以上の個体を対象に漁獲が行われている。しかし当該地域においては本種の産卵期についてわずかに知見があるのみで(清水ら,2006),成長に関する情報は不足している。
著者
五嶋 聖治 高橋 智央 三浦 裕人
出版者
日本甲殻類学会
雑誌
CANCER (ISSN:09181989)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.1-8, 2016-08-01 (Released:2016-10-20)
参考文献数
36
被引用文献数
2
著者
山崎 友資 園田 武 野別 貴博 五嶋 聖治
出版者
日本貝類学会
雑誌
Venus (Journal of the Malacological Society of Japan) (ISSN:13482955)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.1-18, 2018

<p>サハリン~北海道,本州周辺海域から採集された標本に基づいて,モスソガイ属の分類学的再検討を行った。モスソガイ属は近縁のエゾバイ属の異名として扱われる場合もあるが,貝殻の形態の顕著な違いから,独立した属として扱った。</p><p>これまでモスソガイ属は研究者によって2種3亜種,あるいは1種に分類されていた。本研究においては,Habe & Ito(1980)により定義された5つの種および亜種タクサを操作上のタクサとして,主に貝殻,蓋と陰茎の形態,および地理的分布を比較した結果,以下の3種群に分類された。なお,歯舌形態は中歯の歯尖数に個体間変異が多く,本属において,種レベルにおける分類形質として有効ではないことが明らかとなった。</p><p>1)<i>ampullacea</i>種群:殻は小型,蓋の核は保存されていて丸く,足後縁部の前側に位置し,陰茎の生殖口は丸みを帯びる。ベーリング海,オホーツク海,日本海,北太平洋広域に分布する。含まれるタクソンは,<i>ampullacea</i>のみ。</p><p>2)<i>nipponkaiensis</i>種群:殻は小型,蓋の核は保存されていて丸く,足後縁部の前側に位置し,陰茎の生殖口は三角形。日本海,宗谷海峡に分布する。含まれるタクソンは<i>nipponkaiensis</i>と<i>limnaeformis</i>。</p><p>3)<i>perryi</i>種群:殻は大型,蓋の核は欠けていて裁断状,足後縁部のやや前側に位置し,陰茎の生殖口は鋭く尖る。オホーツク海,日本海,北太平洋広域に分布する。含まれるタクサは<i>perryi</i>と<i>ainos</i>。</p><p>同一種群に含まれる<i>nipponkaiensis</i>と<i>limnaeformis</i>,<i>pe</i>r<i>ryi</i>と<i>ainos</i>のそれぞれは,側所的に生息し,貝殻,特に殻皮の形態から不連続に区別できることから亜種として扱い,モスソガイ属は以下3種2亜種から構成されると結論づけた。</p><p><i>V. ampullacea ampullacea</i>(Middendorff, 1848)ヒメモスソガイ</p><p><i>V. nipponkaiensis nipponkaiensis</i> Habe & Ito, 1980 ナガモスソガイ</p><p><i>V. nipponkaiensis limnaeformis</i> Habe & Ito, 1980 ウスカワモスソガイ</p><p><i>V. perryi</i> <i>perryi</i>(Jay, 1856)モスソガイ</p><p><i>V. perryi</i> <i>ainos</i> Kuroda & Kinoshita, 1956 クマモスソガイ</p><p>ウスカワモスソガイ<i>V. n. limnaeformis</i> Habe & Ito, 1980のタイプ産地は,北海道南部の岩代Iwashiro沖として記載されたが,北海道には岩代という地名は存在せず,岩内Iwanai沖であることが確認できた。しかしながら,ホロタイプの再調査により本タクソンのタイプ産地は詳細地名の特定されない北海道と訂正される。</p><p>本論文で取り扱った標本は全て北海道大学総合博物館分館水産科学館及び,蘭越町貝の館に所蔵されている。</p>
著者
五嶋 聖治
出版者
日本ベントス学会
雑誌
日本ベントス学会誌 (ISSN:1345112X)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.83-89, 2017-03-31 (Released:2018-04-17)
参考文献数
41
被引用文献数
2

The occurrence of the ghost crab Ocypode stimpsoni was surveyed at 32 beaches within southern Hokkaido, and Itanki Beach at Muroran was detected as the northernmost edge of its range. The burrow distribution of the ghost crab at Omori Beach, Hakodate, near the northern edge, was investigated from January to December 2014. Burrow opening was initially observed in late June near the upper area of the beach with vegetation. The number of burrows increased in the following months, with their distribution extending down the beach. During mid-summer with high temperature, severe dryness of the sand restricted the upper limit of the burrow digging area to immediately below the high-tide water mark with moist sand. The lower limit was determined by excavation of the sand by rough waves, concentrating the burrow area to a narrow band within the beach. In autumn, the dryness decreased and the burrow area extended upward, becoming wider. Burrow activity halted by the end of October. After October, the ghost crab overwintered in deep burrows within the upper area until late next June. These results suggest that at the northernmost edge of the distributional range, seasonal activity patterns are severely restricted by environmental factors such as extreme temperatures, dryness, and rough waves, which is coincident with the general rule of geographical range pattern of organisms. A possibility that the famous poet Takuboku Ishikawa played with the ghost crab at Omori Beach was discussed based on the findings.
著者
田村 亮輔 中川 宙飛 五嶋 聖治
雑誌
北海道大学水産科学研究彙報 (ISSN:13461842)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.37-44, 2014-07-31

Shell growth of the short-necked clam Ruditapes philippinarum at Hakodate Bay, Hokkaido, Japan, was studied from February 2011 to February 2012. Monthly measurements of shell growth increment from the last ring on the shells revealed that a ring was formed annually from February to March. The Gompertz growth equation was fitted to the relationship between number of rings and shell length, and the equation, LR = 38.41exp (-exp (-0.892 (R-2.029))) was obtained, where LR is the shell length (mm) at the number of ring R. This equation shows highly depressed growth rate after 30 mm in shell length, and maximum shell length was attained about 40 mm that is smaller than those of the other localities. The estimated growth pattern was in accordance with the results of analyses of the size frequency distributions. The observed depressed growth was not explained by a shortage of food supply or seawater temperatures, but may be due to sediment character of including many cobbles and pebbles with sand which disturbs shell growth of the short-necked clam.
著者
山崎 友資 Alekseev Dmitrii Olegovich 五嶋 聖治
出版者
日本貝類学会
雑誌
ちりぼたん (ISSN:05779316)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.95-100, 2007-11-08
参考文献数
15

Buccinum (Thysanobuccinum) pilosum Golikov & Gulbin, 1977 was collected from off Senhoushi on Rishiri Island (120m deep) and off Todo Island (152m deep), both in northern Hokkaido, Japan. These are first records of the subgenus from Japanese waters. Each specimen was collected live by a gill-net set to catch walleye pollock. The species is here compared with another in the same subgenus, B. (Th.) tunicatum Golikov & Gulbin, 1977.
著者
山崎 友資 岸本 喜樹 川南 拓丸 澤野 真規 五嶋 聖治
出版者
日本貝類学会
雑誌
ちりぼたん (ISSN:05779316)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.208-214, 2007-02-28
被引用文献数
1

トリガイFulvia muticaはReeve(1844)によって記載されたザルガイ科Cardiidaeの1種である。本種は,模式産地は指定されずに記載され,分布は陸奥湾から香港にかけての水深10〜60mの砂泥底に生息するとされ(Higo et al., 1999: p.474, B837),食用貝として利用されている(波部・伊藤,1965; 波部,1977)。その分布の北限について,日本海側は陸奥湾以南(吉良,1968; 波部,1977; 奥谷,1986,1987;奥谷・他,1988;肥後・後藤,1993;松隈,2000),太平洋側は東京湾以南(波部・小菅,1967;奥谷,1983,1985,小菅,1994)とされている。本種は本州各地の市場では高値で取引され,産業種として重要であるが,北海道において分布していることは広く知られておらず,産業の対象にされていない未利用資源種である。本稿では,2005年12月,函館湾沿岸に,トリガイが生きた状態で数多く打ち上げられた。本稿では函館湾からのトリガイの産出について報告するとともに,その個体群構造を明らかにすることを目的とした。さらに,既存の文献ならびに標本を検討し,このことも踏まえて本種の北限分布が函館湾であることを明らかにした。
著者
中田 和義 中岡 利泰 五嶋 聖治
出版者
公益社団法人 日本水産学会
雑誌
日本水産学会誌 (ISSN:00215392)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.447-449, 2006 (Released:2006-06-07)
参考文献数
19
被引用文献数
3 2

移入種ブラウントラウトの捕食による在来生物に対する影響を調べるため,北海道日高支庁の豊似湖でブラウントラウト 3 尾を捕獲し,胃内容物を観察した。その結果,3 尾中 2 尾の胃内容物から,水産庁と環境省からそれぞれ危急種と絶滅危惧II類に指定されているニホンザリガニが発見された。1 尾あたりのブラウントラウトの胃内容物からは,1~4 個体のニホンザリガニが確認され,ブラウントラウトがニホンザリガニの個体群に及ぼす影響は強いと考えられた。潜在的な定着域においては,他の淡水産甲殻類に対する捕食の影響が危惧される。
著者
河合 渓 山口 志織 井手 名誉 五嶋 聖治 中尾 繁
出版者
日本貝類学会
雑誌
貝類学雑誌Venus : the Japanese journal of malacology (ISSN:00423580)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.105-112, 1994-08-31
被引用文献数
4

北海道北東部に位置するサロマ湖において1990年12月から1993年10月にかけてヒメエゾボラNeputunea arthriticaの生殖周期, 寄生虫による感染個体の割合とこれらの個体の生殖腺発達について検討を行った。組織学的観察により生殖腺と貯精嚢の発達過程を卵巣と精巣は4期, 貯精嚢は3期に区分した。その結果, 雌雄共に1年を周期とした生殖周期が示された。発達過程は卵巣で8月&acd;11月が回復期, 10月&acd;4月が成長期, 4月&acd;7月が成熟期, 5月&acd;8月が放出終了期であり, 精巣は4月&acd;5月が回復期, 4月&acd;7月が成長期, 8月&acd;12月が成熟期, 11月&acd;4月が放出終了期であった。また, 貯精嚢は7月&acd;8月が休止期, 9月&acd;12月が貯留期, 4月&acd;6月が放出終了期であった。その結果, 交尾期は4月&acd;8月, 産卵期は5月&acd;8月と推定された。また, 雌では放出終了期の個体の割合が非常に低いことが示された。寄生虫に感染した雌個体は生殖巣指数(GSI)の値が周年にわたり非常に低く, 生殖腺はほとんど発達していないと考えられる。一方, 感染雄個体のGSIは低い値を示しているが, 非感染個体のGSIの周期と同調した傾向を示しており, 寄生虫に感染しても生殖腺は発達すると考えられる。寄生虫感染個体の割合を湖内各地で調べたところ, 感染率は0%から60%と様々であったが, 全域の感染率は3.7%と低い値を示した。これらの結果から, 寄生虫の感染はヒメエゾボラの生殖腺の発達に影響を与えているが, 湖全域での産卵抑制の主要な原因にはなっていないと考えられる。
著者
大森 寛史 和田 哲 五嶋 聖治 中尾 繁
出版者
日本甲殻類学会
雑誌
Crustacean research (ISSN:02873478)
巻号頁・発行日
no.24, pp.85-92, 1995-12-15
被引用文献数
7

函館湾葛登支岬の潮間帯転石城において,ホンヤドカリの貝殻利用状況と貝殻資源量について調査を行った.コドラート採集の結果,巻貝の出現頻度に比べクロスジムシロガイとタマキビガイを利用している個体の割合が有意に高いことがわかった.ヤドカリの貝殻の種類に対する選好性実験では,クロスジムシロガイを最も好んでいることから,貝殻の種類に対する選好性が貝殻利用状況に影響を与える1つの要因となっていることが示唆された.採集された個体の貝殻サイズの適合度(SAI)はヤドカリのサイズの増加に伴って減少する傾向が認められた.貝殻の種類別にSAIと貝殻資源量との関係についてみると,貝殻資源量が最も多いと思われるサイズの個体は比較的適した大きさの貝殻(SAI=1)を持っており,それより大きい個体ではSAIは1より小さく,それよりも小さい個体ではSAIは1より大きい値となることが明らかになった.すべての個体についてみると,いずれの種類の貝殻を利用している個体も比較的通した貝殻を利用していた.ヤドカリサイズの増加に伴って利用している貝殻の種類が変化していたことから,貝殻の種類を変えることによって,全体としては比較的高いSAIを維持していることが示唆された.