著者
鄭 暁静
出版者
日本家庭科教育学会
雑誌
日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.61, 2018

【目的】<br>日本と韓国は、少子高齢化や家族形態の多様化、男女共同参画の推進等、家族をめぐる社会的な変化が激しく、その傾向が類似している。家族・家庭生活の学習を中心的に扱っているのは両国とも家庭科であり、相互の学習内容を学びあうことは、今後の両国の家族・家庭生活学習のあり方を検討する際に参考になるものと考える。そこで本研究では、日本と韓国の小学校家庭科における家族・家庭生活領域の学習内容を、教育課程及び教科書を用いて質的に比較分析し、類似点と相違点を明らかにすることを目的とした。<br>【方法】<br>日本と韓国の家庭科教育課程及び教科書の記述内容を質的に比較分析した。教育課程は、現在学校で使用されている教科書に基づき、日本は2008年告示の小学校学習指導要領、韓国は2009年告示の実科(技術・家政)教育課程を対象とした。教科書は、日本は2014年検定済みの小学校5、6年生用の家庭科の教科書2冊(開隆堂、東京書籍)、韓国は2014年検定済みの実科の教科書(5年生)4冊(Chunjae Education、Dong-a Publishing、Kyohaksa、Mirae-N)を対象とした。<br>【結果】<br>(1)教育課程において、日本の小学校学習指導要領解説家庭編では、「少子高齢化や家庭の機能が充分に果たされていない状況に対応し、家族と家庭に関する教育と子育て理解のための体験や高齢者との交流を重視する」と述べており、社会の変化に伴った家族・家庭生活領域の学習に重点を置いていることが分かる。韓国の実科(技術・家政)教育課程解説においても、「実科は多様な国家社会の要求に対応できるようにし、…(省略)…少子高齢社会、多文化社会での個人及び家庭生活に求められる自己管理及び自立的な生活の遂行管理能力を充足させる必要がある」と述べており、日本の家庭科と同様、少子高齢化等、社会の変化に対応した家族・家庭生活の学習が重点化して取り上げるようになっていることが分かった。一方、韓国では「多文化社会」というように、多文化家族(国際結婚家族)が増加している社会状況を踏まえ、家族・家庭生活領域の学習のあり方に多文化理解教育が明示されていることが日本と相違していた。<br>(2)両国の家族・家庭生活領域における内容要素を比較すると、日本の小学校家庭科の『A家庭生活と家族』は「自分の成長と家族」「家庭生活と仕事」「家族や近隣の人々とのかかわり」の3つの項目で構成されており、韓国の初等学校実科の『自分と家庭生活』は「自分の成長と家族」「家庭の仕事と家族員の役割」の2つの項目で構成されていた。両国とも自分の成長や、家庭生活における仕事に関しては同様に扱われていたが、韓国では地域社会を視野に入れた内容要素は扱われていなかった。さらに日本の「家庭生活と仕事」では、生活時間の有効な使い方について扱われているのに対し、韓国は、生活時間についての学習が家族・家庭生活領域では扱われておらず、住生活及び消費・環境領域である『快適な住居と生活資源管理』の「お小遣いと時間の管理」の項目で扱われている違いが見られた。<br>(3)教科書の記述内容をみると、両国とも扱っている「自分の成長と家族」「家庭生活と仕事」の項目についても、具体的な学習内容には違いがあることが明らかになった。例えば「自分の成長と家族」では、日本では、家族に支えられて自分が成長してきたことを理解するという学習内容であるのに対し、韓国では、自分の成長過程を乳児期・幼児期・児童期に分け、身体的・精神的・社会的成長の特徴を理解するという学習内容であった。全体的に韓国の小学校家庭科の教科書の方が、日本より内容量が多く、多文化家族等の様々な家族形態や、家族とジェンダー、家族・家庭生活と関連した職業(健康家庭士や家族相談士等)の紹介等、日本の小学校家庭科の教科書では扱われていない学習内容が多く見られた。

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