- 著者
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中野 綾子
- 出版者
- 日本文学協会
- 雑誌
- 日本文学 (ISSN:03869903)
- 巻号頁・発行日
- vol.62, no.11, pp.55-66, 2013
<p>堀辰雄ブームを学徒兵という愛読者を視座として検証する。戦後、学徒兵の読書行為は戦争に対して批判的な行為として捉えられていくが、それは自らが特別であると示す行為でもあった。文学者の堀辰雄愛読者に対する批判もこのような読書行為と同様の構造を有し、堀辰雄の真の理解者だと示すことは、戦争責任を忌避する行為でもあった。文学者たちが学徒兵との関連を捨象しながら、堀辰雄の普遍性を保証する評価を下してきたことで、同時代的な読書行為の意味や自らの戦争責任を問いがたくしてきたのである。</p>