著者
中野 綾子
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.61, no.11, pp.22-34, 2012-11-10 (Released:2018-01-12)

本論は、学徒兵として戦場に行く可能性のあった学生の読書行為を視座とし、日本出版文化協会による読者層別図書推薦運動の言説を学生メディアなど多様な資料をもとに分析することで、戦場と読書が結びついていくさまを明らかにした。そこからは、従来のロマン的で典型的な学徒兵の読書イメージではない、戦場における「望まれていた書物」と「望んでいた書物」、「読める書物」の三つが複雑に絡み合った複数の読書イメージの可能性が立ち上がってくる。
著者
中野 綾子
出版者
早稲田大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究は、学徒兵の戦場での読書行為の様相を、実証的かつ総合的に明らかにしていくことで、アジア・太平洋戦争以降、読書の枠組みがどのように組み替えられ、または固定化されてきたのかという、読書行為の認識そのものを問うことを目的としている。本年度は以下のような研究を実施した。昨年度に引き続き、戦時下学生の読書関係資料の収集、調査を継続した。その中で、文部省と日本出版文化協会による良書推薦制度についての分析を行った。その成果は、20世紀メディア研究所発行『Intelligence』に掲載予定である。また、入手困難とされていた雑誌『新若人』(旺文社)の学生向け読書関連記事についての考察を行うことで、戦時下の学生の読書に対する意識変化を明らかにした。その成果は「雑誌「新若人」について 付・「学徒は如何なるものを読む可きか」アンケート結果一覧」として、『リテラシー史研究』(8)に掲載されている。また、昨年度の高知大学に所蔵される木村久夫の蔵書調査から判明した、戦時下の木村久夫の読書状況について、『東京新聞』(夕刊)に寄稿した。当該年度は、戦場における学徒兵(知識階級層)の読書についての考察のため、『兵隊』や『陣中倶楽部』などの戦場に流通していた雑誌について分析を行った。中国大陸における代表的二誌の読者層を明らかにし、その成果については日本出版協会発行『出版研究』に掲載予定である。さらに、当該年度は戦後の「戦場における読書」に関する表現の分析にも着手した。『きけ わだつみのこえ』収録の手記に掲載されている読書状況をはじめ、大西巨人『神聖喜劇』などテクストに記された戦場での読書の分析を進めることが出来た。その成果については、学会誌に投稿予定である。
著者
中野 綾子
出版者
日本出版学会
雑誌
出版研究 (ISSN:03853659)
巻号頁・発行日
vol.45, pp.139-157, 2015-03-20 (Released:2019-03-31)

本稿では,アジア・太平洋戦争下における戦場での兵士の読書行為について,慰問雑誌(特に『陣中倶楽部』と『兵隊』)を中心に分析を行うことで,戦場の読書空間を明らかにすることを目的とした.それにより,国内出版文化における慰問雑誌の重要性を指摘し,戦場の読書空間における兵士間の読者層の問題や諸外国との競争意識,さらに軍隊教育装置としての役割を明らかにした.
著者
中野 綾子
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.62, no.11, pp.55-66, 2013

<p>堀辰雄ブームを学徒兵という愛読者を視座として検証する。戦後、学徒兵の読書行為は戦争に対して批判的な行為として捉えられていくが、それは自らが特別であると示す行為でもあった。文学者の堀辰雄愛読者に対する批判もこのような読書行為と同様の構造を有し、堀辰雄の真の理解者だと示すことは、戦争責任を忌避する行為でもあった。文学者たちが学徒兵との関連を捨象しながら、堀辰雄の普遍性を保証する評価を下してきたことで、同時代的な読書行為の意味や自らの戦争責任を問いがたくしてきたのである。</p>
著者
小谷 瑛輔 田中 祐介 中野 綾子 若島 正 木村 政樹 矢口 貢大
出版者
富山大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

近代において、将棋と文学は密接に関わりあいながら展開してきた。本研究では、その様相を具体的に解き明かし、データベースや論集にまとめた。一つ目は、小説という近代的な新しい概念が将棋の比喩によって誕生し、その後も文学の概念に影響を与えてきたこと。二つ目は、新聞・雑誌メディアの発展において将棋と文学がともに重要なコンテンツであったということ。三つ目は、文壇の人的ネットワークにおいて将棋が大きな役割を果たしてきたことである。
著者
中村 信元 尾崎 修治 安倍 正博 松本 俊夫 矢田 健一郎 神野 雅 原田 武志 藤井 志朗 三木 浩和 中野 綾子 賀川 久美子 竹内 恭子
出版者
一般社団法人 日本血液学会
雑誌
臨床血液 (ISSN:04851439)
巻号頁・発行日
vol.51, no.8, pp.690-695, 2010

67歳男性,背部痛を契機に2001年10月に多発性骨髄腫IgA-<i>&lambda;</i> stage IIIAと診断された。VAD療法5コース後の2003年3月に自家末梢血幹細胞移植併用大量化学療法を行うも再発した。以後,サリドマイド療法などを行うも再燃し,2007年6月入院した。入院後のボルテゾミブ(Bor)療法で,2度の腫瘍崩壊症候群をきたした。その後のCTで右肺上葉,膵尾部,脾臓の腫瘤が急速に出現し,ミカファンギンやボリコナゾールを投与するも,入院85日後に死亡した。剖検で,肺,脾臓に多発性の真菌塊と出血性梗塞が認められ,僧帽弁には真菌塊の疣贅を認め,組織学的に播種性接合菌症と診断した。Bor療法後の腫瘍崩壊によるアシドーシスや,コントロール不良の糖尿病,輸血による鉄過剰,抗真菌薬投与中のブレークスルー感染症などが発症の誘因と考えられた。