著者
雑賀 広海
出版者
日本映画学会
雑誌
映画研究 (ISSN:18815324)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.4-28, 2018

&emsp;本論文は、成龍が主演デビューしてから初監督作品『笑拳怪招』(1979) を手掛けるまでの1970年代香港映画に着目する。成龍に関する先行研究は、監督と主演を兼任する、いわゆる自作自演という点については十分に論じていない。本論文は、『笑拳怪招』を中心とする議論を通して、監督と俳優の関係、または作品内における父と子の関係がどのように描かれているか考察する。<br>&emsp;1980年代に黄金期を迎えるまでの香港映画産業では、監督と俳優の間には厳格な封建的関係が結ばれていた。しかし、1970年代の李小龍の登場から独立プロダクションのブームを経て、監督と俳優の父子関係は崩壊していく。それを象徴するのが羅維と成龍の関係性である。だが、『笑拳怪招』に見るのは父子関係の崩壊だけではなく、監督と俳優の間にある境界の曖昧化でもある。この曖昧化は黄金期を特徴づけるものであり、したがって、本作は1970年代末の転換を象徴する重要な作品であるという結論に至った。

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