著者
小室 譲 加藤 ゆかり 有村 友秀 白 奕佳 平内 雄真 武 越 堤 純
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2019, 2019

<b>中心市街地における飲食店の新規開業</b><br> 地方都市における中心市街地では,店主の高齢化や後継者不足および,それに伴う空き地や廃店跡の増加が喫緊の地域課題である。こうした衰退基調にある中心市街地では,これまでにまちづくり三法をはじめ,中心市街地の活性化に向けたさまざまな補助金政策や活性化の方策が官民学により検討されてきた。<br> 本発表では,シンポジウムの主旨であるUIJターンによる起業が中心市街地において進展している長野県伊那市を事例とする。発表手順は,UIJターン者により開業された主に飲食店の実態を報告したうえで,次に対象地域でいかにして,いかなる理由から新規開業が増加しているのか,地域的背景を踏まえて検討する。<br> 伊那市中心市街地では,2000年代以降に都市圏からのUIJターンによる移住者の新規開業が増加しており,2018年9月現在で,52店舗を数える。そのうち,飲食店が過半数の33店舗を占めており,そのほとんどが個人経営である。開業者は主に20〜50歳代であり,移住以前の飲食業や他業種における就業・就学期間を通じて得られた,経験や知見をもとに開業に至る。伊那市中心市街地では,ダイニングバーやスポーツバー,カフェなどである。そして,それぞれの店舗では開業者の経験や知見に裏付けられた地域のマーケットニーズのもと,地酒や地元の食材を積極的に活用し,周辺の官公庁向けにランチ営業をするなど中心市街地において新たな顧客層を獲得するに至っている。<br><br><br><b>新規開業者を支える地理的条件</b><br> まず伊那市内が地方創生関連の補助金や移住先輩者のインターネット上による情報発信のもと,Uターン者はもとより,IJターン予定者の居住地選択に入る地域であることが新規開業の前提として指摘できる。その上で移住者は官公庁や鉄道駅があり,既存の利用客による一定の集客が見込める中心市街地を開業先として選定する。その店舗開業の過程には,高齢化や後継者不足により中心市街地に残存していた低廉な飲食テナント,および開業助成金を開業資金の一部として充てることで大都市圏よりも開業時のイニシャルコストを抑えられることが新規開業を後押ししている。また既存商工会や既存商店主は,こうした中心市街地の空き店舗に対する新規開業者を市街地活性化の新たな救世主として好意的に捉える店舗が多い。事実,一部の既存店主は新規開業者に中心市街地内の空きテナント情報や開業時に申請できる補助金情報を積極的に提供している。<br> 新規開業者の移住・開業経緯の詳細は当日述べるものの,東京大都市圏出身者の中には会社員生活における昇進主義や満員電車の通勤生活に疲弊して,ワークライフバランスを考慮した生活環境を求めて移住を決意する事例がある。こうした開業者にとって個人飲食店の開業は,自己実現の機会であるとともに,移住先の就労機会として移住者やその家族が移住先で生活していけるだけの必要最低限の収入を得るためのなりわいとして成立している。一方で,中心市街地においては新規開業店の増加が単に空きテナントの量的補完にとどまらず,既存店舗の顧客増加,既存商店組織の活性化,開業者ネットワークの構築による中心市街地イベントの創出などの相乗効果として認められる。

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