著者
伊藤 千尋
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2019, 2019

1 はじめに<br> ザンビアージンバブウェ国境に位置するカリバ湖は、1950年代にダム建設にともない誕生した人造湖である。カリバ湖では、カペンタ (<i>Limnothrissa miodon</i>)と呼ばれるニシン科の淡水魚を捕る漁が行われている。アフリカの内水面漁業が概して小規模で、労働集約的であるという認識とは異なり、カリバ湖のカペンタ漁は企業的・産業的で、資本集約的に営まれてきたことに特徴がある。これには、入植型植民地支配を経験した南部アフリカの地域性が関わっている。<br> 近年、ザンビアにおけるカペンタ漁については、漁船数の大幅な増加、漁獲量の減少といった問題が指摘されている。本発表では、カペンタ漁に関わるアクターの特徴や彼らを取り巻く社会・経済環境を明らかにし、漁船数の増加を引き起こしている背景を考察する。<br><br>2 方法<br> 発表者はザンビア南部州シアボンガ、シナゾングウェを対象として、2010年から断続的に現地調査を行なってきた。シアボンガおよびシナゾングウェは、カペンタ漁の拠点となっている地方都市である。シアボンガは南部州シアボンガ県の中心であり、首都ルサカから約200キロ南に位置している。南部州シナゾングウェ県シナゾングウェは、ルサカから約330キロ南西に位置している。<br> カペンタ漁が開始された初期の動向について明らかにするため、文献調査にくわえてシアボンガおよびシナゾングウェにて1980年代から漁を行っている事業者や造船業者に対する聞き取り調査を行なった。また、現在のカペンタ漁の特徴を明らかにするために、カペンタ漁に携わる事業者、漁師、造船業者に対する聞き取り調査を行なった。<br><br>3 結果と考察<br> ザンビアにおけるカぺンタ漁は、1980年代に白人移住者によって開始された。カペンタ漁はエンジン付きの双胴船、集魚灯を用いた敷網漁により行われる。そのため、初期費用が高く、黒人住民にとっては参入が難しく、漁師や溶接工として雇われるという関わりが主であった。しかしながら、2000年以降は、黒人によるカペンタ漁への参入が増加し、特に2000年代の後半以降、爆発的に事業者・漁船数が増加していることが明らかになった。<br> この背景には、様々なレベルの社会・経済的状況が絡み合っていた。まず、都市・農村住民による副業の展開、生計多様化といった個人レベルの生計戦略が挙げられる。事業者らの多くは、その他の経済活動にも携わっており、カペンタ漁のみに従事している者は稀であった。<br> また、彼らの参入を促進しているのは、造船費用が低下したことである。白人の造船業者のもとで雇用されていた黒人たちが、近年では次々と独立している。さらには、中国との貿易が増加するなか、ザンビアには安価な中国製のエンジンや部品が流入しており、造船はこれまでより低価格で行えるようになった。また、ローンが比較的容易に組めるようになったことも関係していた。<br> 爆発的に事業者数や漁船数が増加するなか、「盗み」や「許可証の不保持」が重大な問題として表出している。このような状況は、政府による管理・モニタリングの不十分さが主要因として働いていることは明らかである。それに加えて、本発表では、アフリカ農村・都市の生存戦略として肯定的に評価されてきたブリコラージュ性や多就業性といった個々の主体の流動的な経済活動の選択、その背景にある政治・経済環境の変化が、資源の過剰な利用に結びついている点について議論したい。

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