- 著者
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申 知燕
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2019, 2019
1.はじめに<br><br> グローバル化の進展に伴い,国際移住が急速に増加しており,グローバルシティと呼ばれる先進国の大都市は,様々な属性を持つ国際移住者を吸収してきた.初期のグローバルシティが吸収していたのはグローバルエリートおよび低賃金労働者層といった,両極化された集団であった.しかし,近年は両者に限らず,より多様な移住目的や様相を持つ移住者が増加しており,中でも,多方向的な移動や,母国との強い結びつきを特徴とするトランスナショナルな移住者が多く見られるようになった.<br><br> 日本においても,少子高齢化の進行や,グローバルな人材への需要を受けて,移住者の受け入れに関する議論が拡大している.しかしながら,移住に関連する議論の多くは,永住目的の労働移民を前提とすることが多く,すでに渡日しているか,今後さらに増加すると考えられるトランスナショナルな移住者については,その実情がつかめていない.そこで,本研究では,東京における近年の韓国系移住者(以下韓人)を事例に,かれらの生活行動および居住地選択の面からトランスナショナルな移住者の特徴を明らかにし,過去の移住者との相違点や関係を把握しようとした.<br><br> 本研究にあたっては,2016年4月から2018年11月にかけて移住者を対象としたアンケートおよびインデップス・インタビュー調査を実施し,移住者個人から得た資料を収集・分析した.<br><br><br><br>2.事例地域の概要<br><br> 本研究では,東京都および神奈川県,埼玉県,千葉県を含む首都圏を事例地域とし,韓人の集住地および市内各地の韓人居住地に注目した.東京においては,20世紀初頭から戦後直後の間に渡日したオールドカマー韓人移住者とその子孫が定住している他,1970年代から1980年代にかけては就労目的で渡日・定住したニューカマー移住者も多数存在しており,当時の韓人は東京における外国人の中で最も高い割合を占めていた.1990年代以降は,高等教育機関への留学や一般企業での就労を目的に移住した韓人若年層移住者の増加が顕著に見られる.首都圏における韓人人口は約15万2,000人であり,東京都および神奈川県の一部地区には集住地も複数カ所形成されている.<br><br><br><br>3.知見<br><br> 本研究から得た結論は以下の3点である.<br><br> 1点目は,1990年代以降に東京に移住した韓人は,主に留学や留学後の就職をきっかけに滞在している移住者層(ニューニューカマー)で,オールドカマーおよびニューカマー移住者とは区別される点である.東京における韓人ニューニューカマーは,キャリアのステップアップを試みて移住を行った層であり,その多くが留学を海外生活の第一段階としているため,日本への定住よりはグローバルスケールでの移動とキャリア形成を念頭に入れている.また,かれらの人生全般における移住経験,アイデンティティ,人的ネットワークなどの面においてもトランスナショナルな側面が多く見られるという点も特徴的である.<br><br> 2点目は,東京において韓人ニューニューカマーの居住地分布は完全に分散しており,既存の移住者とは居住地選択や集住地利用の様相が完全に異なる点である.オールドカマーが三河島や枝川,上野などに不可視的な集住地を,ニューカマーが新大久保に可視的な集住地をそれぞれ形成している一方で,ニューニューカマー移住者は,東京都の23区全体に分散しており,23区外の首都圏居住者は少なかった.また,かれらは,飲食店利用や食材購入のために,オールドカマーやニューカマーが形成した集住地に時折訪れる程度であり,集住地への依存度はあまり高くない.東京において,韓人ニューニューカマー移住者の集住地形成や郊外居住が見られない理由としては,移住者個人の高学歴・専門職化した属性,東京における単身者向け住宅・社宅・寮の存在,エスニック集団別のセグリゲーションがあまり起こらない都心部の民族構成などが同時に作用したと考えられる.