著者
部谷 知佐恵
出版者
日本重症心身障害学会
雑誌
日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.142, 2017

子どもの疾患に関する治療の決断は、親に委ねられることが多い。特に、子どもに障がいがある場合は、疾患の進行や成長発達に伴う二次的な障がいにより治療や手術を受ける機会が多く、親はその決断を迫られる場面に幾度となく遭遇します。子どもは成長発達しているため、治療や手術には適切な時期が大切で、その時期を逃すと、治療や手術の意味がなくなることがあるため、親はすぐに答えを出さなければいけない状況に立たされることもあります。    今回、私は家族として、医療者として小学校3年生になった甥の航大の股関節の手術を決断する妹を支えてきました。入学直後に医師から言われた「今すぐに股関節の手術をしなければいけない。」の一言に、私たち家族は選択を迫られました。航大は脳性麻痺で、ひとりで座ることも寝返りもできません。てんかんがあり、毎日何度も発作があります。そんな航大に、股関節の手術が必要なのか。弟や妹にまだ手のかかるこの時期にどうしてもやらなければいけない手術なのか。ようやく学校生活にも慣れてきたばかりの航大、今のリズムで生活を続けていけたらと思っていました。しかし、医師からは、早急に手術を決断するよう言われています。私は、勤務先の特別支援学校の看護師や教員に相談し、妹も、航大が通っている施設のスタッフや、以前通っていた施設の医師やスタッフ等多くの方に相談しました。患者会や学習会に参加して、先輩ママさんたちにもアドバイスをもらいました。手術に関する意見は分かれました。そのため、私たちはなかなか決断することができませんでした。  もっと、専門的な意見を聞きたいと思い、私たちは恩師が紹介してくれた小児専門看護師に相談しました。小児専門看護師は、私たちが心配していた入院生活や手術について丁寧に説明してくれました。説明を聞くことで、手術や入院生活がイメージでき、漠然とした不安が少し減少しました。妹の気持ちもいくらか手術に対して前向きになったようでした。そして、私たち家族はセカンドオピニオンを受け、手術をするかを決めることにしました。セカンドオピニオンを受けるため大阪の病院を受診しました。そこでも脱臼が進行しており、手術の適応であることが告げられました。ただ、最初に診察した医師とは違い、レントゲン写真と股関節の様子だけを見て早急な手術が必要だというのではなく、航大の全身状態や表情にも目を向け、今後起こりうる可能性のある股関節の痛みのこと、なぜ今手術をしたほうが良いのかについて丁寧に説明してくれました。すぐに決断を迫るような態度とは異なる温かい対応は、私たち家族に手術をする決断をさせるきっかけになりました。  医師から告げられる手術や治療の宣告はとても重たいものです。私たち家族には、周りに相談できる環境があり、親身になってくれる専門職に出会えました。その結果、手術を決断することができました。航大は、手術を受け、現在元気に毎日を過ごしています。子どもを持つ家族の中には、手術や治療の決断を迫られても相談できず、結論が出せない家族もたくさんいると思います。医師には、データだけをみて治療や手術の必要性を家族に伝えるだけではなく、子どもの表情や様子などすべてをみていただきたいと思います。そして、現在の医療を考えるとき、医療チームとして重症児に詳しい看護師(CNS等)とともに対応してもらえると、家族は相談がしやすくなると思います。治療や手術の決断の際、不安や心配を打ちあけることができる看護師を含め受診に関わる多くの職種の方に相談できる体制があると家族は救われると思います。 家族だけでは病気や障がいについて正しい知識を持ち合わせた支援者や理解者を見つけるのが難しいです。子どもと家族が手術や治療を決断し、大変な時期を乗り越えていける力を持てるような支援の輪は医療チームから広がっていくのではないかと考えます。 略歴弘前大学教育学部特別教科(看護)教員養成課程を卒業後、滋賀医科大学大学院医学系研究科看護学専攻に入学する。家族看護学を専攻。修了後は、岐阜大学医学部附属病院に勤務、糖尿病療養指導士として、糖尿病患者の指導にあたる。  脳性麻痺の甥の誕生を機に障がい児と関わる仕事がしたいと思い、岐阜県立希望が丘特別支援学校看護講師となる。この4月からは、特定非営利活動法人らいふくらうど放課後等デイサービスゆうで看護師、児童指導員として子どもたちと楽しく過ごしている。

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