著者
部谷 知佐恵
出版者
日本重症心身障害学会
雑誌
日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.47-48, 2018 (Released:2020-06-01)

子どもの疾患に関する治療の決断は、親にゆだねられることが多く、特に、子どもに障害がある親はその決断を迫られる場面に遭遇する機会が多数ある。子どもは成長発達をしているため、治療や手術には適切な時期が必要でその時期を逃すと、治療や手術の意味がなくなることもあるため、親はすぐに答えを出さなければいけない状況に立たされるのである。 私は家族として、医療者として甥航大の股関節の手術を決断する妹を支えてきた。その体験より感じたことを以下に述べる。 5人家族の長男で、特別支援学校に通う航大は低酸素性虚血性脳症で産まれ、脳性麻痺でてんかんの発作がある。1歳ごろより誤嚥性肺炎で入院することが年に何度かあった。下のきょうだいが生まれたころより食事がうまく取れず体重減少がみられ、検査で胃食道逆流症と診断されたため、4歳のときに腹腔鏡下噴門形成術、胃瘻造設術を受けている。小学校に上がるのを機に家族は、名古屋市から両親の実家のある岐阜県の山間部に引っ越した。自宅から、40分ほどかけて学校に通う新しい生活が始まり、主治医も変わった。前医よりいただいた紹介状を持って、初めて整形外科を受診したその日、医師より今すぐに股関節の手術をしなければいけないと言われた。股関節の状態や手術についての母親が理解できるような詳しい説明はなく、術後10歳ぐらいまで外転装具が必要であることが話された。そして、早急に手術の日程を決めて予約を入れるよう言われた。初めて受診をした日に急に手術のことを告げられて、母である妹は苦悩した。今までかかっていた整形外科では亜脱臼はしているが、定期的に状態を見ていけばいいと言われていた。初めて会う医師の診察、本人も母親も緊張する。そこで告げられた手術の宣告。脳性麻痺で、ひとりで座ることも寝返りもできないのに股関節の手術が必要なのだろうか。きょうだい3人、岐阜という新しい環境での生活が始まったばかりなのに今すぐ手術を受けないといけないのだろうか。手術をすれば治るのだろうか。様々な思いを抱えながら、時間だけが過ぎていき、家族は決断を迫られた。特別支援学校で看護講師として勤務していた私は、相談を受け、すぐに職場の教員や看護講師など障害のある子どもたちをたくさん見てきている人たちに相談した。また、看護学生時代の恩師や知り合いの看護師にも相談した。妹も、以前通っていた施設のスタッフ、現在通っている施設のスタッフ、動作法や静的弛緩誘導法といった学習会や患者会で出会う先輩ママさんたちに相談した。手術に関する意見は分かれ、なかなか決断することはできなかったが、様々な立場の人々に意見が聞けたことは有益であった。股関節の手術や入院生活、術後や将来のことについては小児専門看護師が丁寧に説明してくれた。説明を聞くことで、手術や入院生活がイメージでき、漠然とした不安が減少した。 手術や入院生活がイメージできるようになった私たち家族はセカンドオピニオンを受けることにした。セカンドオピニオンを受けるために受診した病院の医師からは、今の状態や今後起こりうる可能性のある股関節の痛みのことなど、なぜ今手術をしたほうが良いのかについて丁寧でわかりやすい説明があった。看護師など病院のスタッフも診察に同席し、診察後には温かい言葉をかけてくれた。そんな、医師や看護師、施設のスタッフに出会えたことで、私たち家族は手術を決断することができた。手術は無事に終了し、術後の経過も良好である。 私たち家族は、周りに相談できる環境があった。同じ思いを経験し悩みを聞いてくれる障害児をもつ母親たちや親身になってくれる専門職に出会えた。その結果、多くの情報や知識の中で自分たちが最良と思える方法として股関節の手術を受けるという決断をすることができた。 現在、子どもをもつ家族の中には、手術や治療の決断を迫られてもその意味や必要性が理解できず、手術や治療の選択ができない、結論が出せない家族がたくさんいると思う。また、専門的知識のある相談相手を探し出すことは家族だけでは難しい現状がある。そこで、治療や手術の決断の際、不安や心配を打ちあけることができる場として、看護師を含め受診に関わる多くの職種の方に相談できる体制があると家族は救われると思う。家族だけでは病気や障害について正しい知識を持ち合わせた支援者や理解者を見つけるのが難しい。子どもと家族が手術や治療を決断し、大変な時期を乗り越えていける力を持てるような支援の輪が広がってほしいものである。
著者
泊 祐子 赤羽根 章子 岡田 摩理 部谷 知佐恵 遠渡 絹代 市川 百香里 濵田 裕子 叶谷 由佳
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.4_841-4_853, 2022-10-20 (Released:2022-10-20)
参考文献数
35

目的:小児の利用者のいる訪問看護ステーション(以下,訪問看護St.)において属性と他施設・多職種との連携困難,診療報酬が算定できないサービスの実施状況の地域差を明らかにする。方法:無作為に抽出した指定小児慢性特定疾病訪問看護St.に質問紙調査を行った。結果:回収した455部を,都市部(31.4%),中間部(31.4%),郡部(36.3%)の3群で比較した。都市部と比べて,郡部では訪問距離「片道15km以上」が61.8%と多く,小児利用者数は4.8±7.0人と少なかった。医療的ケア児数には有意差がなかった。他施設・多職種連携困難は,「退院調整会議での連携に困難を感じる」が都市部より郡部が有意に多かった。また,診療報酬が算定できないサービスの実施は「受診時の訪問看護師の同席」が都市部より郡部が有意に多かった。結論:どの地域でも訪問看護St.が機能しやすい仕組づくりの必要性が確認された。
著者
部谷 知佐恵 岡田 摩理 泊 祐子 赤羽根 章子 遠渡 絹代 市川 百香里 叶谷 由佳 濵田 裕子
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
pp.20211206162, (Released:2022-08-03)
参考文献数
33

目的:全国の小児の訪問看護を行う訪問看護ステーション(以下,訪問St.)において診療報酬を算定できないサービスの実態と算定の必要があると考えるサービスについて明らかにする。方法:全国の小児利用者のいる訪問St.に診療報酬を算定できないサービスの実施状況と必要性に関する質問紙調査を行い,455か所の訪問St.の記述統計および自由記述の内容分析を行った。結果:診療報酬を算定できないサービスは78.7%の訪問St.で実施されており,実施による小児のメリットは【状態が変化しやすい小児の体調悪化のリスク回避ができる】【状況の変化に合わせて小児の成長発達が促進できる】【医療的ケア児と家族の生活が安定する】【小児と家族の状況に応じた支援体制が構築できる】があった。結論:多くの訪問St.が,診療報酬の算定ができなくても小児にとってのメリットがあることでサービスを提供しており,算定の必要性を感じていた。
著者
泊 祐子 岡田 摩理 遠渡 絹代 市川 百香里 部谷 知佐恵 濵田 裕子 叶谷 由佳 赤羽根 章子
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
pp.20210123121, (Released:2021-07-09)
参考文献数
23

目的:医療的ケアのある重症児を看ている小児専門訪問看護ステーションの専門的役割と機能を明らかにすることである。今後,小児の訪問を新たに始める場合の準備の目安や,重症児と家族をケアする看護師の指針となると考えられる。方法:小児を専門としている訪問看護ステーション5か所の看護管理者5人にインタビューを行い,質的に分析を行った。結果:小児専門訪問看護ステーションは,【重症児の特徴をふまえた高度なケアの実施】と【家族全体の生活を支える援助】から成る『重症児と家族を支える小児専門訪問看護の役割』をもち,その土台には『小児専門としての役割を果たすための訪問看護ステーションの機能』として【小児在宅のプロの育成】と【家族のニーズに応える体制づくり】があった。結論:小児専門訪問看護の教育的機能と相談機能を推進することは,小児の訪問看護の拡大と質の向上につながると考えられる。
著者
部谷 知佐恵
出版者
日本重症心身障害学会
雑誌
日本重症心身障害学会誌 (ISSN:13431439)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.142, 2017

子どもの疾患に関する治療の決断は、親に委ねられることが多い。特に、子どもに障がいがある場合は、疾患の進行や成長発達に伴う二次的な障がいにより治療や手術を受ける機会が多く、親はその決断を迫られる場面に幾度となく遭遇します。子どもは成長発達しているため、治療や手術には適切な時期が大切で、その時期を逃すと、治療や手術の意味がなくなることがあるため、親はすぐに答えを出さなければいけない状況に立たされることもあります。    今回、私は家族として、医療者として小学校3年生になった甥の航大の股関節の手術を決断する妹を支えてきました。入学直後に医師から言われた「今すぐに股関節の手術をしなければいけない。」の一言に、私たち家族は選択を迫られました。航大は脳性麻痺で、ひとりで座ることも寝返りもできません。てんかんがあり、毎日何度も発作があります。そんな航大に、股関節の手術が必要なのか。弟や妹にまだ手のかかるこの時期にどうしてもやらなければいけない手術なのか。ようやく学校生活にも慣れてきたばかりの航大、今のリズムで生活を続けていけたらと思っていました。しかし、医師からは、早急に手術を決断するよう言われています。私は、勤務先の特別支援学校の看護師や教員に相談し、妹も、航大が通っている施設のスタッフや、以前通っていた施設の医師やスタッフ等多くの方に相談しました。患者会や学習会に参加して、先輩ママさんたちにもアドバイスをもらいました。手術に関する意見は分かれました。そのため、私たちはなかなか決断することができませんでした。  もっと、専門的な意見を聞きたいと思い、私たちは恩師が紹介してくれた小児専門看護師に相談しました。小児専門看護師は、私たちが心配していた入院生活や手術について丁寧に説明してくれました。説明を聞くことで、手術や入院生活がイメージでき、漠然とした不安が少し減少しました。妹の気持ちもいくらか手術に対して前向きになったようでした。そして、私たち家族はセカンドオピニオンを受け、手術をするかを決めることにしました。セカンドオピニオンを受けるため大阪の病院を受診しました。そこでも脱臼が進行しており、手術の適応であることが告げられました。ただ、最初に診察した医師とは違い、レントゲン写真と股関節の様子だけを見て早急な手術が必要だというのではなく、航大の全身状態や表情にも目を向け、今後起こりうる可能性のある股関節の痛みのこと、なぜ今手術をしたほうが良いのかについて丁寧に説明してくれました。すぐに決断を迫るような態度とは異なる温かい対応は、私たち家族に手術をする決断をさせるきっかけになりました。  医師から告げられる手術や治療の宣告はとても重たいものです。私たち家族には、周りに相談できる環境があり、親身になってくれる専門職に出会えました。その結果、手術を決断することができました。航大は、手術を受け、現在元気に毎日を過ごしています。子どもを持つ家族の中には、手術や治療の決断を迫られても相談できず、結論が出せない家族もたくさんいると思います。医師には、データだけをみて治療や手術の必要性を家族に伝えるだけではなく、子どもの表情や様子などすべてをみていただきたいと思います。そして、現在の医療を考えるとき、医療チームとして重症児に詳しい看護師(CNS等)とともに対応してもらえると、家族は相談がしやすくなると思います。治療や手術の決断の際、不安や心配を打ちあけることができる看護師を含め受診に関わる多くの職種の方に相談できる体制があると家族は救われると思います。 家族だけでは病気や障がいについて正しい知識を持ち合わせた支援者や理解者を見つけるのが難しいです。子どもと家族が手術や治療を決断し、大変な時期を乗り越えていける力を持てるような支援の輪は医療チームから広がっていくのではないかと考えます。 略歴弘前大学教育学部特別教科(看護)教員養成課程を卒業後、滋賀医科大学大学院医学系研究科看護学専攻に入学する。家族看護学を専攻。修了後は、岐阜大学医学部附属病院に勤務、糖尿病療養指導士として、糖尿病患者の指導にあたる。  脳性麻痺の甥の誕生を機に障がい児と関わる仕事がしたいと思い、岐阜県立希望が丘特別支援学校看護講師となる。この4月からは、特定非営利活動法人らいふくらうど放課後等デイサービスゆうで看護師、児童指導員として子どもたちと楽しく過ごしている。