著者
津久井 進
出版者
国立保健医療科学院
雑誌
保健医療科学 (ISSN:13476459)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.103-110, 2019

<p>被災者は,生命,健康,財産など人生全体に及ぶ広範な人権が毀損される.法制度が社会インフラである以上,人権擁護の担い手である法律家にとって被災者支援は本質的な使命である.</p><p>被災時の法律相談の機能として,1精神的支援機能,2情報提供機能,3紛争予防機能,4パニック防止機能,5立法事実収集機能がある.全体・長期的視野に立つと5が重要である.日本の災害法制は,既往の災害に場当たり的に立法した"つぎはぎ"の集大成でいびつだ.新たな災害で浮き彫りになった現場の課題を,法律相談を通じて収集・整理し,「立法事実」に組成して法制度の創設・改善に結びつけることが肝要である(立法のPDCAサイクル).その際,現場目線や様々な分野の専門的知見が欠かせない.法律家は,医療,保健,福祉,経済,文化,学術,市民活動等との連携を図らなければならない.「災害ケースマネジメント」はその実践例である.</p><p>特に,災害直後に適用される基本的法制である「災害救助法」には問題が多い.立法事実の収集や立法PDCAがうまく働かず,1制度運用が古すぎ,生命最優先・被災者中心になっていない点,2ノウハウやスキルが低水準で推移している点,3住まいの仕組みが不合理である点は見直しが必要である.平時から多分野で問題意識を共有する必要がある.平時において,法制度を学び,実践により不備を抽出し,異分野の専門職能と連携しながら,それを改善する営為こそ「備え」である.</p><p>事業活動継続の策定に,法律家の果たす役割は大きい.企業等の団体が存続するためには,1企業自身の身を守ることが重要とされるが,2地域社会も含めた顧客,取引先等のステークホルダーの維持,3従業員の保護・安全確保はBCPの必須事項である.BCP策定は企業の法的責任であり役員の法的義務である.とりわけ従業員をはじめとする構成員等に対する安全配慮義務は要注意.その不備は発災後の災害リスクにとどまらず,その後の訴訟リスクにも発展する.東日本大震災では多くの訴訟が提起され,賠償責任が肯定された日和山幼稚園事件等と,否定された七十七銀行事件等があるが,危機時における安全配慮義務が重視されている点で共通する.さらに大川小学校事件(高裁判決)では,災害前から適切な防災計画を策定する組織的な責任が認定され,災害対策は新たなステージに突入した.</p>

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