- 著者
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白石 涼
知花 俊吾
名護 零
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement
- 巻号頁・発行日
- vol.46, pp.H2-73_2-H2-73_2, 2019
<p>【はじめに、目的】</p><p>膝前十字靭帯再建術後において、膝蓋腱部の侵襲により膝蓋下脂肪体(以下IFP:infrapatella fat pad)の炎症や変性をきっかけに膝前面部痛(以下AKP:Anterior Knee Pain)を臨床で経験することがある。今回の研究では超音波エコーを用いて、健常成人の膝関節角度の違いによるIFPの動態を明らかにすることを目的とした。</p><p>【方法】</p><p>膝関節に整形外科的疾患の既往の無い健常成人10例20膝(男性5例、女性5例:平均年齢24.5±3.3歳)を対象とした。IFPの動態評価にはHITACHIデジタル超音波診断装置Noblusを使用した。測定は短軸像にて大腿骨顆間溝から膝蓋靭帯間のIFPの厚さを測定した。測定肢位は仰臥位にて膝屈曲30°を開始肢位とし伸展0°へ自動運動を行い、プローブ入射角は床水平面から屈曲位時45°、伸展位時60°で統一した。各肢位で3回測定しその平均値を採用した。各肢位平均値の差をIFP変化量としてShapiro-Wilk検定、対応のあるT検定を用いて検討した。有意水準は5%未満とした。統計学的解析にはR2.8.1を使用した。</p><p>【結果】</p><p>両膝関節のIFPは屈曲位が平均15.0±1.8mm、伸展位が平均13.4±1.7mmであった。IFPの変化量は1.64mm(p<0.01)となり、屈曲位と伸展位の間に有意差を認めた。また左右膝関節間の比較では屈曲位と伸展位の間に有意差を認めなかった(p>0.05)。</p><p>【結論(考察も含む)】</p><p>本研究結果から全ての健常成人で膝関節角度の違いにおけるIFPの厚さは、屈曲位と伸展位の間に有意差が認められ、先行研究と同様の結果となった。IFPは膝関節屈伸運動に伴い軟部組織の組織圧を緩衝する作用があると報告されている。健常成人のIFPは膝関節屈伸運動において大腿骨内外顆間のスペースを移動し、形態変化ができるだけの柔軟性があり、軟部組織の組織圧を緩衝する機能を有していると考えられる。今後は縦断的研究としてAKPを有する疾患群と健常群のIFPの動態評価を比較し、AKPを有する群の疼痛改善やスポーツ復帰の阻害因子を明らかにしていきたい。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>この研究はヘルシンキ宣言に沿って行い、得られたデータは匿名化し、個人情報が特定できないように配慮した。</p>