- 著者
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荒 瑞穂
横山 ゆりか
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2019, 2019
<p>Ⅰ はじめに</p><p>近年,アニメやマンガの聖地巡礼という現象が話題になっている.新聞記事やテレビ番組などでも特集されるなど,アニメやマンガに興味がない者もこれらのコンテンツに触れる機会は多い.アニメ聖地巡礼に関する先行研究は数多く存在するが,『らき☆すた』を扱った谷村(2011)や『ガールズ&パンツァー』を扱った石坂ほか(2016)など,以前から対象となる作品が多く存在し研究対象として注目されてきた,作品中に現実に存在する背景が描かれている作品の研究が主である.しかし,ファンの間ではそれらの形態以外の作品での聖地巡礼も行われている.例えば,『刀剣乱舞』や『薄桜鬼』などの作品中に背景が描かれていない作品でも聖地巡礼が行われている.</p><p>そこで本研究では,アニメ聖地巡礼を作品中の描写などとの関連から4種類に分類し,そのなかで特に,先行研究で着目されてこなかった形態の聖地に焦点を当てて分析を試みる.</p><p></p><p>Ⅱ 聖地の分類の仮説</p><p>本研究では,作品に関連しファンの間で行われている聖地巡礼を,作品の描写の中で一つの実在する町が細かに再現され舞台の探訪を可能としている「狭義聖地」と,描写の中で実在する町の再現がない「広義聖地」の2種類に大きく分類する.さらに,町を再現した描写がない「広義聖地」を「モデル地」「ゆかりの地」「依り代」の3種類に分類する.「モデル地」とは作品中の町の雰囲気が現実のいくつかの町に似ているために聖地となったもの,「ゆかりの地」とは歴史上の人物などをモデルにしたキャラクターが登場する作品で,キャラクターのモデルとなった人物などに関連する場所が聖地となったもの,「依り代」とはモノをモチーフとしたキャラクターが登場する作品で,キャラクターのモチーフとなったモノがある場所が聖地となるものと定義する.なお,ここでは「依り代」という言葉をキャラクターの魂の宿るものとして使用している.</p><p></p><p>Ⅲ 調査の目的と方法</p><p>本研究では,前述の4種類の聖地の分類方法の妥当性を確かめ,その特徴を調査するために,アニメやマンガに関連するサークルに所属する者とそれ以外とに向けてそれぞれgoogleフォームによるwebアンケートを行った.前者をサークル向けアンケート,後者を一般向けアンケートと呼ぶ.</p><p></p><p>Ⅳ 結果と考察</p><p>サークル向けアンケートは75件,一般向けアンケートは126件の回答が得られた.以下ではサークル向けアンケートの結果を述べる.回答では,「作者ゆかりの地」「制作会社所在地」や名前が共通する地などの可能性が指摘されたが,今回調査の対象とした作品中の描写やキャラクターのルーツに関連する聖地の分類については概ね意見の一致が得られた.また,各聖地についての特徴なども得られたが,ここでは特に今後の分析の対象とする「依り代」型の聖地について,従来型の聖地である「狭義聖地」と対比しつつ分析を行うこととする.</p><p>回答によると「狭義聖地」の巡礼では,巡礼中の行動として,作品に関連する写真を撮ることや作品関連施設の利用,巡礼後の行動として,SNS,または身近な人との共有があがった.これは「依り代」型でも共通で,巡礼者は同様の行動を起こしている.一方で聖地巡礼先での観光の広がりについては,「狭義聖地」では1つの町に対していくつかの場所の描写があり,それらを巡る行動がみられるのに対し,「依り代」型聖地の特徴は,依り代であるモノのみに巡礼者が集中し,広がりがみられなかった.</p><p>今後の調査では,「依り代」型の聖地巡礼を誘発したゲーム『刀剣乱舞』についてのキャラクター「山姥切国広」とコラボし刀剣「山姥切国広」の展示を行った足利市の事例を取り上げ,イベント運営側,巡礼者側両者へのヒアリング調査を行う.それにより,「依り代」型聖地での巡礼者の巡礼行動と「依り代」型聖地の活用方法についての具体的な検討を行いたい.</p><p></p><p>謝辞</p><p>調査に参加いただきましたサークル関係者の皆様,大学生の皆様,また,ご協力くださいました東京都市大学都市生活学部の諫川輝之先生に心より感謝申し上げます.</p><p></p><p>参考文献</p><p>石坂愛,卯田卓矢,益田理広,甲斐宗一郎,周宇放,関拓也,菅野緑,根本拓真,松井圭介 2016.茨城県大洗町における「ガールズ&パンツァー」がもたらす社会的・経済的変化:曲がり松商店街と大貫商店街を事例に.地域研究年報 38 : 61-89.</p><p>谷村要 2011.アニメ聖地巡礼者の研究(1)―2つの欲望ベクトルに着目して.大手前大学論集 12 : 187-199.</p>