- 著者
-
河村 裕樹
- 出版者
- 日本社会学理論学会
- 雑誌
- 現代社会学理論研究 (ISSN:18817467)
- 巻号頁・発行日
- vol.11, pp.42-54, 2017
本稿の目的は、エスノメソドロジーの創始者であるガーフィンケルのパッシングの議論を再考することで、ゲーム的な分析では捉えきれないパッシングの内実を明確化することである。すなわち、ガーフィンケルによれば、ゲーム的な分析枠組みを用いるゴフマンのパッシングの論理ではパッシングの内実について捉えられない側面があるという。その側面とは相互反映性や状況操作、継続性である。ここでゲーム的な分析が可能なパッシングとは、エピソード的性格、事前の計画、実際的な規則に対する信頼という特徴をもち、ゲーム的な分析では捉えられないパッシングとは、人びとが自明視し、背景となっているルーティンに埋め込まれた当たり前のことを達成することが課題であるような実践のことである。これらを考慮に入れることで改めて検討し直すと、ゲーム的な分析枠組みでパッシングを分析することは可能ではあるが、一方でガーフィンケルによるパッシングの論理を用いることで、自明視され背景化している「普通であること」を達成することこそが、パッシングを行う者にとっての第一の課題であるということが明らかとなる。この両者の構造上の不一致を確認したうえで、後半では一つの事例を用いて、ガーフィンケル的な分析をすることにどのような意味があるのかを例証する。そのことにより、エスノメソドロジーの立ち上げにおいて重要な役割を果たしたアグネス論文を再評価し、その意義を確認する。