- 著者
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両角 政彦
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2020, 2020
<p>2019年9月9日に関東地方を通過した台風15号は,東日本を中心に広範囲にわたって強風による風害や豪雨による水害を発生させる甚大な被害をもたらした。農林水産関係の被害額に限っても,およそ815億円の被害を発生させた(農林水産省「令和元年台風15号に係る被害情報」2019年12月5日付による)。本研究では,台風15号の強風による園芸施設(農業用ハウス)への風害に注目し,被害の大きかった千葉県を事例に,その実態を明らかにし今後検討すべき課題を考察した。研究方法として,全国,千葉県,市町村の広域的な被害状況については,農林水産省『農業災害補償制度 園芸施設共済統計表』と各行政webサイトに掲載された台風被害に関する情報をもとに把握した。内閣府webサイト「防災情報のページ」では激甚災害指定状況を確認した。被害原因となった気象の変化については,気象庁webサイト「各種データ・資料」を使用して分析した。園芸施設被害の状況確認は,2019年11月に八街市,山武市,君津市,鋸南町等へ現地訪問でおこない,被災農家にヒアリングを実施した。</p><p>台風15号の通過にともなう千葉県における農林水産業への被害は,面積で農業施設等に801ha,農作物等に5,073ha,このほかに畜産等にも被害が及んだ。被害額では農業施設等に276億円,農作物等に106億円となり,全体で約428億円に上った。この中でとくにビニルハウスやガラスハウス等の園芸施設への被害額が大きく,200億円を超えた。園芸施設が被害を受けた主な地域は,八街市,富里市,旭市,山武市などの県北部と,南房総市,君津市,袖ヶ浦市,鋸南町などの中部から南部にかけての広範囲にわたった(千葉県農林水産部農林水産政策課「台風第15号の影響による農林水産業への被害について(第8報)」2019年10月11日付による)。現地調査によると,園芸施設への被害は,ビニルの剥がれやガラス板の部分的な割れや落下などの比較的軽度の被害から,パイプハウスの倒壊やガラスハウスの鋼材の折れ曲がりによる半壊や全壊に至る大きな被害まで多様であった。園芸作物の被害は,主として花き(カーネーション,カラーなど)や,野菜(ニンジン,トマトなど)に対するものであった。</p><p>被害原因の誘因である強風について,気象庁webサイト「各種データ・資料」で,千葉県内のアメダス観測地点のうち風速・風向を観測する15地点の2019年9月9日の日最大風速・風向と日最大瞬間風速・風向を確認した。これによると,日最大風速は9地点で,また日最大瞬間風速は10地点でそれぞれ過去最大を更新した。風向は,前者で南東方向から南方向,後者で東南東方向から南南西方向であった。とくに,台風15号の中心経路に近かった「千葉」では,日最大風速35.9m/s(南東方向),日最大瞬間風速57.5m/s(南東方向)を記録した。</p><p>現地では園芸施設のビニルの切り裂きによる事前の対処行動がみられ,被害を受けた園芸施設に隣接する園芸施設が被害を免れた例も散見された。園芸施設そのものの強度に加えて,設置する位置や方向,周辺の地形などの被害原因の素因が被害状況を左右したと推察される。南北方向で設置された園芸施設の破損や倒壊が確認されたが,さらに綿密な調査が必要になる。強風による風害の特徴として,降雪による雪害の面的・集中的な被害と比べて,局地的・局所的な被害の発生の可能性が示唆された。</p><p>2019年9〜10月に発生した一連の台風被害によって,千葉県は「激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律」に基づく政令で激甚災害の指定を受けた。通常では園芸施設を自己復旧すると補償対象ではなくなるため,撤去業者や建設業者への復旧依頼が遅れて再建の見通しが立たない農家もみられた。被災による農業経営上の経済的負担に限定しても,強風による直接的な被害と復旧に掛かる費用,そして復旧までの不耕作期間の収入減や無収入という三重苦が発生している。総合的・統合的・地域的なリスクマネジメントが求められている。</p>