- 著者
-
町田 知未
- 出版者
- 公益社団法人 日本地理学会
- 雑誌
- 日本地理学会発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2020, 2020
<p>1.はじめに</p><p></p><p> 高度経済成長期における国主導の画一的な大型施設の整備やリゾート開発は地域の不均衡発展をもたらした。産業振興を優先させたことが居住環境の悪化や生活の質の低下を招いた側面もあった。結果として,多くの自治体が基幹産業の衰退,少子高齢化に伴う過疎化に見舞われた。都市部から離れた遠隔地においてその傾向は顕著であった。現在こうした地域においては,それまでの地域振興策を見直し,地域独自の自然・人文環境などの地域資源を保全し,地域の魅力を高めこれを活用することによって,地域外から人を呼び込み内外の交流を促進して,地域経済を活性化させる地域づくりが目指されている。しかしながら,自然・人文環境や産業構造といった地域特性は地域それぞれで異なるため,地域づくりのあり方にも違いが生じるはずである。それゆえに,さらなる事例研究の蓄積が必要である。</p><p></p><p> 本研究の目的は,北海道中川町を事例として,地域資源を活かした地域づくりに対する地域住民の意識と,地域外からの来訪者の行動と地域資源に対する意識を併せて分析することによって過疎地域における地域資源を活かした地域づくりの意義と課題を明らかにすることである。</p><p></p><p>2.データと方法</p><p></p><p> 地域住民の意識を把握するために,中川町の地域づくりに携わる主要組織である役場,教育委員会,商工会,観光協会において聞き取り調査を実施した。また,中川町への来訪者の意識を把握するために,2019年の6月から9月まで中川町内の主要施設(温泉施設,キャンプ場,中川町エコミュージアムセンター,道の駅,飲食店)においてアンケート調査を実施し,256のサンプルが得られた。</p><p></p><p> </p><p></p><p>3.調査結果</p><p></p><p> 中川町は明治期より化石産地として名高い地域である。1990年代後半に国内最大級のクビナガリュウ化石が2度発見され,「化石の町」として脚光を浴びた。化石の町として注目されたことが,町内に存在する地域資源を活かした地域づくりを行う契機となった。1997年に町全体を博物館とみなした地域づくりを目指した「エコミュージアム構想」が提唱されて以後,化石を中心とした地域資源を活かした地域づくりが中川町エコミュージアムセンターを中核施設として行われている。</p><p></p><p> 聞き取り調査によると,中川町では化石以外の地域資源を活かした取り組みも様々な組織によって行われていた。たとえば,役場による林業の町のイメージを活かした取り組み,商工会による地場産業のブランド化,観光協会によるエコモビリティの推進である。化石に係る取り組みは教育委員会を中心として行われているが,教育委員会以外の主要組織の化石に係る取り組みへのかかわり方はいずれも消極的であった。</p><p> 来訪者の意識をみると,化石の見学を目的とした来訪者が最も多い。来訪者の行動からは,休憩施設である道の駅を除くとエコミュージアムセンターを訪れた者の割合が最も高かった。しかしながら,来訪者の目的と町内での行動を中川町への来訪回数別に分析すると,化石を目的として訪れる者は来訪回数の少ないものには多いが,来訪回数が増えると減少する傾向があった。対照的に,温泉施設やキャンプ場を目的とした来訪者は来訪回数の少ない者には少ないが,来訪回数が増えると増加する傾向があった。これらのことから,化石という地域資源の価値を再認識し,来訪回数による来訪者の特性の違いを考慮した誘致策を練るために組織間の協力体制を見直し,住民がより主体的に継続して地域づくりを行う必要があると考えられる。</p>