- 著者
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三品 拓人
- 出版者
- 関西社会学会
- 雑誌
- フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
- 巻号頁・発行日
- vol.18, pp.74-87, 2019
<p>本稿は「なぜ児童養護施設において子ども間の暴力が多発しているとされるのか」を明らかにした。子どもの身体的暴力を男性性の一種である「男子性」との関連から検討した。</p><p>児童養護施設において発生する子ども間暴力が深刻な問題として提起されてきた。先行研究においては、施設内で子ども間暴力が多く存在していることは複数の調査や語りから実証されているが、暴力が発生する文脈や状況を詳細に明らかにした研究は少ない。そこで、児童養護施設において参与観察調査を行うことによって、小学生の男子間で起きる身体的暴力が発生する文脈を把握した。</p><p>分析では、4つのタイプの身体的暴力を提示した。制裁的な暴力、ケンカにおける暴力、遊びやふざけ合いでの暴力、やつあたりとしての暴力である。身体的暴力は子ども間で適切な態度や振舞い方などを他者に再確認させる資源、ケンカの最終的な手段、遊びの一種などとして活用されていた。</p><p>以上から、身体的な暴力行為が小学生男子にとっていかに重要な他者とのコミュニケーション手段になっているか明らかになった。身体的暴力を他者とのコミュニケーションの資源として活用できる指向性を「男子性」として捉えられる。このような「男子性」は施設のみならず、広く社会にも存在するだろう。ただ、児童養護施設において小学生男子18人が共同で生活することにより「男子性」がより凝縮された形で維持され、発揮されている。</p>