著者
妹尾 麻美 三品 拓人 安田 裕子
出版者
日本質的心理学会
雑誌
質的心理学研究 (ISSN:24357065)
巻号頁・発行日
vol.20, no.Special, pp.S140-S147, 2021 (Released:2022-04-28)

本研究では,予期せぬ妊娠を経験した女性が子どもを「産む」と決めた事例を,キャロル・ギリガンの議論から示唆を受けたケアの倫理を用いて,分析・考察する。これまでの研究は女性の「産まない」決定に焦点を当ててきたが,「産む」決定について十分には論じてこなかった。そこで,いばらきコホート調査による妊娠女性 48人への聞き取り調査のうち,「産む」決定について語られた 1 人の女性に焦点を当てる。女性は不安や苦悩を抱えながらも,身近な他者と話しあい,ときに拒絶もありつつ交渉し「産む」ことを決める。このプロセスのなかで, 女性は自分のこと,周囲の他者のことを考え,自他に配慮しながら責任を引き受けていた。それに対し,周囲の他者も女性の声に応答・配慮しており,ここにはケアの応酬が見られた。本研究では,女性とその周囲のケアの実践によって「産む」ことに対する不安を解消し,それを引き受けていくプロセスを示した。この結論から,互いへの配慮を基盤とする場の形成を促す必要が示唆される。
著者
三品 拓人
出版者
日本家族社会学会
雑誌
家族社会学研究 (ISSN:0916328X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.29-42, 2022-04-30 (Released:2022-04-30)
参考文献数
34

本論文は,中規模の児童養護施設において何が「家庭的」であるのかということ,そして「家庭」がどのように参照されるのかということを,参与観察データから明らかにするものである.施設の小規模化や個別化を実現することにより達成されるとされる「当たり前の生活」という観点に注目した.その結果,児童養護施設において「家庭」が参照される場面として,次の2つの場面が見られることを提示した.1つ目は,「施設内で使われる物の大きさと形」である.例えば,ドレッシング,炊飯器,お風呂などの大きさが「普通の家庭」の大きさや形と比較され,職員がその適切性を問題視する場面があった.2つ目は,「施設における指導の判断の基準」である.例えば,子どもの体調が悪い時の対応,ポケットに手を突っ込んでいる時に注意をするかなどであった.以上のように,児童養護施設の日常生活において「家庭」が参照される一側面が明らかになった.
著者
三品 拓人
出版者
社会学研究会
雑誌
ソシオロジ (ISSN:05841380)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.77-94, 2020-02-01 (Released:2022-04-07)
参考文献数
22

本稿では「児童養護施設で暮らす小学生男子が形成する子ども同士の関係にはどのような特徴があるのか」という問いを立て、施設生活の参与観察データを基に友情の社会学の理論――とりわけ、仲間/友人関係の違い――を援用しながら子ども同士の関係を検討した。 その結果、以下の三点が明らかになった。一点目に、児童養護施設の子どもは実に多様な原理で結びつく子ども関係の中で生きていることが分かった。それゆえに、施設にいる間は、子どもは孤立しにくく、共に過ごしている時間や相互行為の内容を考えた際には、学校で形成される関係以上の密接さを有していた。二点目に、友情に関する理論と照らし合わせると、自発性や文脈によらない関係という観点から、施設内での子ども同士の関係は〈仲間〉関係に近く、学校の知り合いが〈友人〉関係に近いと判断できた。同じような子ども同士の関係に見えても、〈仲間〉/〈友人〉関係では結びつく原理やその特徴が質的に異なっている。三点目に、施設で生活する子どもにとって学校での〈友人〉関係を積極的に形成し難い事例が見られた。具体的には、施設内の他者の介入があること、施設内のルール及び職員の配慮との抵触すること、子どもが施設周辺地域の地理を知らないこと、という構造的な問題が発見された。 以上から「児童養護施設で暮らす小学生男子が形成する子ども同士の関係にはどのような特徴があるのか」という問いに対して、「施設内での多様な〈仲間〉関係が形成される一方で、学校における〈友人〉形成が制限されるような特徴がある」と結論付けた。
著者
三品 拓人
出版者
関西社会学会
雑誌
フォーラム現代社会学 (ISSN:13474057)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.74-87, 2019

<p>本稿は「なぜ児童養護施設において子ども間の暴力が多発しているとされるのか」を明らかにした。子どもの身体的暴力を男性性の一種である「男子性」との関連から検討した。</p><p>児童養護施設において発生する子ども間暴力が深刻な問題として提起されてきた。先行研究においては、施設内で子ども間暴力が多く存在していることは複数の調査や語りから実証されているが、暴力が発生する文脈や状況を詳細に明らかにした研究は少ない。そこで、児童養護施設において参与観察調査を行うことによって、小学生の男子間で起きる身体的暴力が発生する文脈を把握した。</p><p>分析では、4つのタイプの身体的暴力を提示した。制裁的な暴力、ケンカにおける暴力、遊びやふざけ合いでの暴力、やつあたりとしての暴力である。身体的暴力は子ども間で適切な態度や振舞い方などを他者に再確認させる資源、ケンカの最終的な手段、遊びの一種などとして活用されていた。</p><p>以上から、身体的な暴力行為が小学生男子にとっていかに重要な他者とのコミュニケーション手段になっているか明らかになった。身体的暴力を他者とのコミュニケーションの資源として活用できる指向性を「男子性」として捉えられる。このような「男子性」は施設のみならず、広く社会にも存在するだろう。ただ、児童養護施設において小学生男子18人が共同で生活することにより「男子性」がより凝縮された形で維持され、発揮されている。</p>