- 著者
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鍵本 優
- 出版者
- 社会学研究会
- 雑誌
- ソシオロジ (ISSN:05841380)
- 巻号頁・発行日
- vol.60, no.2, pp.39-56, 2015
<p>本稿では、「個人的主体が自分自身を突き放すかのように対象化して、それを観念的に破壊・消去・無化・無意味化・空虚化・無価値化していこうとすること」を「脱・自分」と呼ぶ。そのさい具体的・実質的な自己同一化対象をもたないものに限定する。また、自己に関するメタレヴェルの認知が充分可能な状態のものにも限定する。 本稿の目的は、社会学的な「脱・自分」論の理論的可能性を社会学的アイデンティティ論・自己論にそくして模索しつつ、その可能性が阻まれてきた要因をそれらの批判的検討によって指摘することである。 本稿の結論は次のようになる。従来の議論が「脱・自分」を扱えなかった要因には四つある。第一に、想像的な同一化を内的実践の基本論点としたことである。第二に、トータルな自己観念への視点が弱かったことである。第三に、内的実践の機能が自己や社会的秩序の構成・維持に限定されてきたことである。第四に、アイデンティティや自己を扱うさいに社会学が準拠してきた「自己の(再)構成や安定的維持を欲する」という人間像があまりに強固なことである。 本稿の構成は以下のようになる。まず問題提起を行い(第1節)、「脱・自分」という用語の定義と具体的事例とを示す(第2節)。そして、それに着眼する本稿の社会学的意義を論じたうえで(第3節)、従来の社会学的アイデンティティ論・自己論に組み込まれた前提を批判的に検討する(第4節・第5節)。最後に、それらが「脱・自分」を問題化できなかった理論的諸要因を指摘し、その限界を乗り越えるべく「特定の社会状況下での『脱・自分』の欲望の発動」という論点とそれへの知識社会学的アプローチとを提案する(第6節)。 </p>