著者
三浦 尚子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2021, 2021

<p>研究の背景と目的</p><p> 法務省は次の入管法改正で国籍国への帰国を拒否する外国人対策に,送還忌避罪や仮放免逃亡罪という刑事罰や難民申請の回数制限を設けようとしている.日本は難民条約を批准しているにもかかわらず難民認定率が1パーセントに満たない「難民鎖国」であり,不法残留(オーバーステイ)の送還忌避者に対して収容という措置を講じている.入管法には収容期間の基準がなく,送還忌避者の長期収容が恒常化しており,国際連合の恣意的拘禁作業部会からも勧告を受けている.</p><p></p><p> 日本の入国管理体制は,1990年代では外国人の入管法違反に対して減免措置を取り続け,政府の責任及び義務を免じてきた(明石2010).しかし2001年に起きた同時多発テロを契機に,日本でもテロ対策が強化され,さらに2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会の開催に向けて不法残留者の摘発および収容が厳格化されていく.出入国在留管理庁の収容空間は,各地方の出入国在留管理局(収容場)と2カ所の入国者収容所にある.</p><p></p><p> これまでも,入管の収容処遇に関する非人道性や被収容者のメンタルヘルス不調が,報道機関や支援団体によって批判されてきた.一方仮放免制度で一時的に収容所の外に出られたとしても,仮放免者はいつ再収容されるかどうか予測できず,就労不可,医療費の全額負担,さらにコロナ禍で家族・親族の収入が激減し生活困窮にあるという.移民の権利に対する政策の不在が,問題の根底にある(髙谷2019).加えて,支援団体の活動展開は収容所のin(内)/ex(外)で分かれる傾向にあり,被収容者・仮放免者等に対するシームレスな支援体制の構築が求められる.そこで本研究では,まず東日本入国管理センター(以下牛久入管収容所と記す)の被収容者と支援団体を調査対象に選び,コロナ禍における入管収容と課題を検討したい.</p><p></p><p>2.調査方法</p><p></p><p> 2020年11月からSWNW入管収容問題を考える会,2021年1月から牛久入管収容所問題を考える会に参加し,牛久入管収容所に週1回面会ボランティアをしながら聞き取り調査を実施した.面会は各30分間で1日最大7名に行い,主に日本語で,ごくたまに英語で対話した.</p><p></p><p>3.被収容者の生活状況とメンタルヘルス</p><p></p><p> 1993年12月に開設された牛久入管収容所,通称「ウシク」は,700名定員の大規模な収容施設である.通常,退去強制令書が発布された300名程度の男性送還忌避者を収容していたが,新型コロナウィルスの影響で2020年4月から2021年1月18日までで231名が仮放免となっている(牛久入管収容所問題を考える会の代表田中氏による).2021年1月現在で100名弱が収容されており,ナイジェリア,タンザニア,コンゴ民主共和国,ネパール,ミャンマー,スリランカ,イラン,ベトナム,ペルーの日系人などが含まれる.被収容者の中には入管法違反以外に薬物,傷害,窃盗などの違反歴があり,虞犯の観点からか刑期を終えているにもかかわらず収容されている者がいる.調査対象者は1990年代から2000年代に訪日しており,概ね日本語を流暢に話す.</p><p></p><p> 収容棟には旧館と新館があり,各階に配置された2つのブロックは通り抜けできないようになっている.被収容者が自動ドアで施錠された各居室からブロック内の共有スペースに自由に行き来できるのは,1日6時間に制限されている.旧館の居室は和室6畳にトイレとテレビが配置され,7時に電気とテレビを職員がつけ22時に消しに来るという.コロナ禍で暖房が24時間完備され,寒さが緩和されている.作業やプログラムなどは一切なく,運動場の利用は1日50分である.シナガワ,ヨコハマなどの収容場での収容期間と合わせると,調査対象者は1名を除き4年間以上収容され,仮放免の不許可に精神的なダメージを受けている.収容に対して,比較的短期の被収容者は帰国するより「生き残れている」と述べる一方,最長7年間の者は「自分は動物じゃない」,「外も大変なのはわかるが自由を得たい」と主訴している.車いすを常時使用する者,100日超のハンガーストライキを行う者,思春期の子供を心配する者,保証金が支払えず無気力になった者など,被収容者の健康状態,経済状況,家庭環境,国籍国の政情,過去の教育へのアクセス等は個々別々でそれぞれにケアが必要である.被収容者は収容所内でも極端に移動が制限されており,電話,面会,差し入れ,将来の希望など,外界との僅かなつながりで何とかメンタルヘルスを保っている状況にあり,長期収容の廃止等喫緊な対応が求められる.</p><p></p><p>文献 </p><p></p><p>明石純一2010.『入国管理政策—「1990年体制」の成立と展開』ナカニシヤ出版.</p><p></p><p>髙谷 幸2019.『移民政策とは何か—日本の現実から考える』人文書院.</p>

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