- 著者
-
名越 健郎
- 出版者
- 公立大学法人 国際教養大学 アジア地域研究連携機構
- 雑誌
- 国際教養大学 アジア地域研究連携機構研究紀要 (ISSN:21895554)
- 巻号頁・発行日
- vol.12, pp.53-62, 2021
国際教養大学(AIU)を創設した中嶋嶺雄初代学長兼理事長(1936 - 2013)は、中国問題の権威として論壇で活躍し、晩年はAIUでのグローバル教育の成功で大学革命を起こした立役者として知られる。しかし、中嶋が長年の膨大な著作や評論活動で、日本外交を舌鋒鋭く批判していたことは、若い世代にはあまり知られていない。中嶋は中国に下手に出て浮薄な友好を煽る日本外交を「位負け外交」と称し、いずれ中国を高飛車にさせ、日中関係を悪化させると警告した。ロシアに対してはゴルバチョフ時代から北方領土問題解決の好機が到来したとして、日本も譲歩しながら早期に決着させるよう主張したが、日本外務省は千載一遇のチャンスを生かせなかった。今日、経済成長を遂げた中国は、日本への圧力を強め、尖閣諸島を力で奪いかねない展開となってきた。北方領土問題ではプーチン政権が強硬外交を貫き、安倍晋三首相が力を注いだ平和条約交渉もあえなく吹き飛んだ。本稿では、中嶋の外務省批判を紹介しながら、日本の対中、対露外交失敗の経緯を探った。