著者
豊田 哲也
出版者
公立大学法人 国際教養大学 アジア地域研究連携機構
雑誌
国際教養大学 アジア地域研究連携機構研究紀要 (ISSN:21895554)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.59-70, 2017 (Released:2018-09-27)

領域主権を確立するには他国の承認が必要である。承認がなされていない、あるいは黙示的にしか承認されていない場合には、深刻な紛争が生じることがある。領域国際法は本質的に過去の力関係から生まれた現在の法的状態を固定化することで法的安定性を図るものである。現在の力関係を踏まえた相互の合意によって修正を図ることも可能で あるが、実力による現実の一方的変更は違法であり、係争地の法的地位に影響を与えな い。「実効支配」の法的効果についての誤った観念は東アジア地域の領土紛争の無用の激化を招きうる。領域紛争における正義をめぐる言説は国ごとに大きく異なっており、紛争解決のためには、法と正義をめぐる対立を乗り越えていく知恵が必要である。
著者
阿部 邦子
出版者
公立大学法人 国際教養大学 アジア地域研究連携機構
雑誌
国際教養大学 アジア地域研究連携機構研究紀要 (ISSN:21895554)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.35-52, 2021

秋田蘭画は 18 世紀の洋風画で武人画であり、その厳格な作風は、当時流行した西洋の透視遠近法を取り入れ、更にレンズで覗き見る眼鏡絵とは一線を画していると見られがちだが、風景図の主題や構成に関しては、近似点がみられる。特に主題は、浮世絵版画で盛んにとりあげられた江戸や江戸近郊の景勝地に取材しており、文学的発想とも不可分である。この論稿では近年千秋美術館収蔵となった秋田蘭画の眼鏡絵作品を通して、江戸洋風画の原点となっている秋田蘭画に於ける風景図と、眼鏡絵との関係についての調査研究結果を述べる。
著者
名越 健郎
出版者
公立大学法人 国際教養大学 アジア地域研究連携機構
雑誌
国際教養大学 アジア地域研究連携機構研究紀要 (ISSN:21895554)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.11-20, 2019 (Released:2019-03-07)

筆者はアジア地域研究連携機構研究紀要の第1 号(2015 年6 月)に「秋田犬の国際化戦略」、同3 号(2016 年8 月)に「秋田犬ブランドの活用策」、同6 号(2018 年1 月)に「秋田犬の国際的人気をどう活用するか」と題して、秋田犬が世界的に人気を集めていること、海外の人気が国内にブーメラン効果をもたらしていることを紹介した。その後の2018 年5 月、平昌冬季五輪の女子フィギュアスケート金メダリスト、アリーナ・ザギトワさん(ロシア)への秋田犬保存会による秋田犬贈呈が大きな話題になり、秋田犬人気を爆発的に高めた。秋田県や大館市は秋田犬をキラーコンテンツとして観光客誘致戦略を展開しており、内外からの県への訪問者も増加、秋田犬グッズの売り上げも伸びた。秋田犬の聖地を売り物にする大館市が2019 年5 月にJR大館駅前にオープンする観光交流施設「秋田犬の里」のプロジェクトをどう成功させるかが次の課題となるが、問題点も少なくない。過去1、2 年で空前ともいえるほど拡大した内外の秋田犬人気や、県と大館市の取り組みを分析した。
著者
熊谷 嘉隆
出版者
公立大学法人 国際教養大学 アジア地域研究連携機構
雑誌
国際教養大学 アジア地域研究連携機構研究紀要 (ISSN:21895554)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.1-8, 2016

秋田県内には集落単位で数多くの民俗芸能が継承されている。各民俗芸能は集落の歴史や誇りが凝縮されており、加えて集落の絆を深める極めて重要な行事でもある。一方で、それら民俗芸能の多くは後継者・資金不足、集落内外での興味の低下等からその存続が危機に瀕しているものが少なくない。平成5 年に秋田県教育委員会が実施した「秋田県民俗芸能緊急調査」では315 件の民俗芸能が把握されたが、本調査(平成22〜24年実施)で確認できたのは275 件であった。つまり過去19 年間で38 件(毎年2件)のペースで県内から民俗芸能が消滅していることになる。また、民俗芸能によっては今後数年以内に消滅を免れないであろうものも散見され、各集落はその存続に懸念を抱いているが有効な対策が講じられないまま現在に至っている。一方でいくつかの民俗芸能保存団体では従来にない取り組みによって存続を図ろうとする動きも見られ、今後は「存続と消滅」の二極化が進むと思われる。本稿では平成22年度から3 年間、文化庁の「地域伝統文化総合活性化事業」により実施した秋田県内の民俗芸能調査を踏まえ、そこから浮かび上がってきた現状・課題、そして今後について検証する。
著者
名越 健郎
出版者
国際教養大学
雑誌
国際教養大学アジア地域研究連携機構研究紀要 (ISSN:21895554)
巻号頁・発行日
no.1, pp.37-49, 2015-06-30

現在の日本はペットブームで、ペットフード協会(東京都千代田区)の調査によれば、2014年に家庭で飼われる飼育頭数は猫が約995万匹、犬が1034万匹という。秋田犬の名称が県名と合致する本県は、秋田犬の「聖地」であることを売り込むことで、県の知名度や存在感を高め、観光誘致に利用することができる。秋田犬は将来、再び絶滅の危機を迎えかねないことから、純粋犬種の保護に向け、ブリーダー機能を強化することも求められよう。本稿では、日本の歴史に重要な足跡を残した秋田犬の歴史と、国内と海外の秋田犬普及状況を紹介しながら、ビジネスにも利用できる秋田犬活用法を提言する。
著者
名越 健郎
出版者
公立大学法人 国際教養大学 アジア地域研究連携機構
雑誌
国際教養大学 アジア地域研究連携機構研究紀要 (ISSN:21895554)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.13-23, 2020

筆者はアジア地域研究連携機構紀要の第1 号、第3 号、第6 号、第8 号で、秋田犬の世界的人気や秋田犬を観光戦略に活用する県内の取り組み、今後の課題等について論考を執筆した。秋田県と大館市は秋田犬を「県観光のキラー・コンテンツ」(佐竹敬久知事)と位置づけて重視しており、2019 年5 月、JR大館駅前に観光交流施設「秋田犬の里」がオープンし、県北の新しい観光名所となった。初年度の評価は上々だが、リピーターを確保し、秋田犬の聖地とするにはなお課題がありそうだ。秋田犬の国際的人気とは裏腹に、大館市の秋田犬保存会本部に登録する犬籍登録が海外で減少していることも気になる。本稿では、「秋田犬の里」プロジェクトを中心に、近年の秋田犬人気や経済効果、県・市の取り組みを分析する。
著者
豊田 哲也
出版者
公立大学法人 国際教養大学 アジア地域研究連携機構
雑誌
国際教養大学 アジア地域研究連携機構研究紀要 (ISSN:21895554)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.9-22, 2016-03-31 (Released:2018-04-27)

姉妹都市提携は当初は平和運動の一環であったが、戦争体験が遠のくにつれてその目的が文化・教育交流や経済連携へとシフトしてきた。秋田県の自治体の有する22の姉妹都市提携の中では秋田市とウラジオストク市(ロシア)との姉妹都市提携および秋田県と沿海地方(ロシア)との姉妹都市提携が経済連携としての意義を持ちうるが、この2つは例外的なものである。一般に、地方都市が他国の地方都市と経済連携の実を挙げられる状況は限られており、地方都市にとっての姉妹都市提携の意義は文化・教育交流としてのそれが中心になる。目的と手段を明確にしながら、長く続けられる姉妹都市事業を展開していくべきであろう。
著者
阿部 邦子
出版者
公立大学法人 国際教養大学 アジア地域研究連携機構
雑誌
国際教養大学 アジア地域研究連携機構研究紀要 (ISSN:21895554)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.43-56, 2020

この小論では、江戸後期『解体新書』の木版附図の下絵を任された秋田蘭画の絵師小田野直武による「扉絵」及び一部の図の引用元本とされるアントワープで出版された1568年版ワルエルダ『解剖書』、また当時の舶載書として唯一確認されている、秋田藩医稲見家伝来のワルエルダ『解剖書』本との関連を、同時期の関係文献を通して探り、書誌学、図像学の視点から、謎の解明にせまる。
著者
根岸 洋・長谷川 綾子
出版者
公立大学法人 国際教養大学 アジア地域研究連携機構
雑誌
国際教養大学 アジア地域研究連携機構研究紀要 (ISSN:21895554)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.65-79, 2019 (Released:2019-06-28)

1973 年に重要無形民俗文化財に登録された「男鹿のナマハゲ」は、秋田県を代表する観光資源であり、2018 年に「来訪神:仮面・仮装の神々」の一つとしてユネスコの無形文化遺産に選ばれ世界に知られることになった。反面、若者によって担われてきた本行事は少子高齢化による後継者不足に悩まされており、観光客や外国人等の外部参加者の受け入れを始めた地区もある。本稿では、男鹿半島各地の集落に伝わる伝統行事であったナマハゲが、観光資源としての「なまはげ」に変容してきた経緯を振り返る。他方、昭和・平成に実施されたアンケート調査の比較を通じて、伝統行事としての諸要素が時代の要請に応じて変容したことを論じる。外国人留学生も受け入れている椿・双六での聞き取り調査を紹介し、無形文化遺産としての真実性を何に求めるべきか考察を行う。
著者
名越 健郎
出版者
公立大学法人 国際教養大学 アジア地域研究連携機構
雑誌
国際教養大学 アジア地域研究連携機構研究紀要 (ISSN:21895554)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.13-21, 2016 (Released:2018-09-27)

筆者はアジア地域研究連携機構研究紀要の第1号に「秋田犬の国際化戦略」と題して秋田犬が世界的に人気を集めていることを紹介したが、その後秋田犬は「高貴な犬」として各国で人気がさらに高まっている。海外の人気が国内にブーメラン効果で還流する動きもあり、秋田県大館市は福原市長の下、秋田犬利用プロジェクト「ハチ公の駅」を設置し、観光の目玉にする構想を進めている。国際教養大でも4月、秋田犬ブランドの活用法をめぐり読売新聞主催のシンポジウムが行われた。秋田犬は秋田が独占可能な唯一のブランドでもあり、官民一体で秋田犬人気の相乗効果を狙うべきだ。
著者
竹村 豊
出版者
公立大学法人 国際教養大学 アジア地域研究連携機構
雑誌
国際教養大学 アジア地域研究連携機構研究紀要 (ISSN:21895554)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.97-105, 2015-06-30 (Released:2018-04-27)

第二次世界大戦終結70周年の年にウクライナ問題の先鋭化は欧州における戦後処理(ヤルタ体制)、東西冷戦、ベルリンの壁撤去、ソ連邦の崩壊、EU/NATOの拡大と続く個々の出来事に内包された諸問題に因って引き起こされたものである。ウクライナ・ポロシェンコ政権を支持する米国、EUと対立するプーチン政権は欧米のみならずオーストラリア、日本からも経済制裁を受け、日増しにロシアが世界経済から孤立しているにも関わらず、プーチン大統領の支持率は80%を超えている。元々、ソ連時代からロシアは政経一体型の経済運営であるが、クリミア・ウクライナ問題に絡む一連の高い代償を払いながら強引に自らの政策を進めようとするのは、プーチン大統領の経済政策のルーツがオリガルヒ(新興財閥)との戦いであり、この戦いを通じて今日「国家資本主義」と言われる経済運営が形成されたのである。今後のロシアの資源・エネルギーを中心とする対東アジア経済政策をみる上で経済原則に依らない政治的、戦略的な意図を見ておかなければならない。
著者
名越 健郎
出版者
公立大学法人 国際教養大学 アジア地域研究連携機構
雑誌
国際教養大学 アジア地域研究連携機構研究紀要 (ISSN:21895554)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.27-36, 2018 (Released:2018-09-27)

筆者はアジア地域研究連携機構研究紀要の第1 号(2015 年6 月)に、「秋田犬の国際化戦略」、同3 号(2016 年8 月)に「秋田犬ブランドの活用策」と題して、秋田犬が世界的に人気を集めていることを指摘。海外の人気が国内にブーメラン効果で還流する動きがあることを紹介した。秋田県と大館市はこうした動きに注目し、いよいよ「秋田犬の里」として秋田と大館を売り込む観光戦略に着手した。目玉となるのは、JR 大館駅前に2019 年春完成する「ハチ公駅」であり、秋田犬数頭が常駐し、小型テーマパークの役割を担うことになる。本稿では、秋田犬人気がこの1 ~ 2 年に世界でさらに広がっていることや、県と大館市の観光誘致や広報に向けた秋田犬戦略、秋田犬保存会の新たな取り組みを分析。その課題を探るとともに、いくつかの提言を行う。
著者
根岸 洋・上野 祐衣・熊谷 嘉隆
出版者
公立大学法人 国際教養大学 アジア地域研究連携機構
雑誌
国際教養大学 アジア地域研究連携機構研究紀要 (ISSN:21895554)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.111-120, 2020 (Released:2020-11-13)

江戸時代の「ねぶり流し行事」を原型とする「秋田の竿灯」は、1980年に国の重要無形民俗文化財に指定された文化遺産である。1931年に発足した秋田市竿灯会は妙技会を初めて開催し、その後「竿燈」の用語が広く用いられるようになった。実行委員会が主催する「竿燈まつり」となったのは1965年以降である。現在行事の後継者不足は顕在化していないものの、今後の少子高齢化が予想されることから、若年層確保のための取り組みが幾つか行われている。また本行事に外国人参加についてのガイドラインは設置されておらず、国際教養大学およびその前身であるミネソタ州立大学秋田校の竿燈会という組織単位で、外国人留学生が継続的に参加している。他方、各町内会の竿燈会のメンバーになるためには町内に一定期間住むことが求められるため、滞在期間が限られる留学生にとってはハードルが高いのが現状である。
著者
豊田 哲也
出版者
公立大学法人 国際教養大学 アジア地域研究連携機構
雑誌
国際教養大学 アジア地域研究連携機構研究紀要 (ISSN:21895554)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.87-96, 2015-06-30 (Released:2018-04-27)

アジアの多くの国々では私権の排除を原則とする営造物型の自然保護地域制度が導入された。しかし、域内での私権の行使を完全に排除することは困難であり、また、自然保護地域の拡大が必要になったときに既存の私有権を排除することも困難である。それゆえに、近年、営造物型の保護地域制度を持つ国々にも、段階的に私権の規制を認める地域制型の制度が部分的に導入され始めている。アジアにおいてはサバ州のエコリンク政策が、その先例となりうる。また中国などの社会主義の国では国土全般について土地の私的所有が否定されており、自然保護地域の内外を峻別する営造物型の自然保護地域制度にはなじまない。アジアには自然との共生を本質とする自然保護思想ないし自然共生思想がある。そうした思想は、私権の行使を認める地域と認めない地域とを峻別する二元論を超えて、より広い地域で住民の生活と共存ないし共生する地域制型の自然保護地域制度を発展させることを求めている。
著者
竹村 豊
出版者
公立大学法人 国際教養大学 アジア地域研究連携機構
雑誌
国際教養大学 アジア地域研究連携機構研究紀要 (ISSN:21895554)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.17-25, 2018

2017 年10 月時点で日ロ首脳会談は19 回を数え、ロシア極東ではロシア政府が進める一連の「極東発展国家プログラム」1 )に呼応するように日本政府は8 項目の経済協力を提案し、北方領土問題を抱える平和条約交渉を前進させようとしている。16 年12 月のプーチン大統領来日時に提案された北方領土4 島での共同経済活動は17 年9 月、両国政府が5 項目の事業を実施することで合意した。一方で両国間の貿易は依然としてエネルギー・資源産業分野に大きく依存しており、価格低下のため2014 年から16 年の3年間で貿易高は大きく減少した。今後、日ロ関係を持続的に発展させていく上で、資源エネルギー中心の大企業向け案件ばかりでなく、地方企業や中小企業の活躍できる場を提供することや起業家が参入できる仕組みを作るため、日ロ双方が努力すべきではないか。新規参入により新しいビジネスの可能性が生まれ、日ロ貿易の構造改革や将来的には日ロ関係発展にも資するのではないだろうか。
著者
名越 健郎
出版者
公立大学法人 国際教養大学 アジア地域研究連携機構
雑誌
国際教養大学 アジア地域研究連携機構研究紀要 (ISSN:21895554)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.53-62, 2021

国際教養大学(AIU)を創設した中嶋嶺雄初代学長兼理事長(1936 - 2013)は、中国問題の権威として論壇で活躍し、晩年はAIUでのグローバル教育の成功で大学革命を起こした立役者として知られる。しかし、中嶋が長年の膨大な著作や評論活動で、日本外交を舌鋒鋭く批判していたことは、若い世代にはあまり知られていない。中嶋は中国に下手に出て浮薄な友好を煽る日本外交を「位負け外交」と称し、いずれ中国を高飛車にさせ、日中関係を悪化させると警告した。ロシアに対してはゴルバチョフ時代から北方領土問題解決の好機が到来したとして、日本も譲歩しながら早期に決着させるよう主張したが、日本外務省は千載一遇のチャンスを生かせなかった。今日、経済成長を遂げた中国は、日本への圧力を強め、尖閣諸島を力で奪いかねない展開となってきた。北方領土問題ではプーチン政権が強硬外交を貫き、安倍晋三首相が力を注いだ平和条約交渉もあえなく吹き飛んだ。本稿では、中嶋の外務省批判を紹介しながら、日本の対中、対露外交失敗の経緯を探った。
著者
名越 健郎
出版者
公立大学法人 国際教養大学 アジア地域研究連携機構
雑誌
国際教養大学 アジア地域研究連携機構研究紀要 (ISSN:21895554)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.33-43, 2016-03-31 (Released:2018-04-27)

ロシア政府は2015年夏、北方領土問題で対日強硬姿勢を強め、15年で期限切れとなるクリール社会経済発展計画をさらに25年まで延長することを決めた。ロシアは西のクリミア半島と同様、北方領土の実効支配を強め、民族愛国主義高揚の手段に利用しているかにみえる。北方領土の情報収集は、短期間のビザなし渡航では難しく、国後、択捉両島で発行されている地元紙を読むのがデータ入手に有効な手段だ。四島は漁業、水産加工など開発潜在力は高いものの、自然環境、投資環境とも過酷で、開発の難易度が高い。ロシアは軍事目的もあって四島開発を重視しているが、汚職・腐敗も深刻で、住民の生活は厳しい。劣悪だった生活環境は政府の開発計画で改善されているものの、しょせんは公共投資による人工のミニバブルであり、公共投資が終了すると、島の経済は再び破たんしそうだ。地理的に近く、水産技術が高く、離島開発の経験豊富な日本にしか島の開発はできないだろう。
著者
名越 健郎
出版者
公立大学法人 国際教養大学 アジア地域研究連携機構
雑誌
国際教養大学 アジア地域研究連携機構研究紀要 (ISSN:21895554)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.11-20, 2019

筆者はアジア地域研究連携機構研究紀要の第1 号(2015 年6 月)に「秋田犬の国際化戦略」、同3 号(2016 年8 月)に「秋田犬ブランドの活用策」、同6 号(2018 年1 月)に「秋田犬の国際的人気をどう活用するか」と題して、秋田犬が世界的に人気を集めていること、海外の人気が国内にブーメラン効果をもたらしていることを紹介した。その後の2018 年5 月、平昌冬季五輪の女子フィギュアスケート金メダリスト、アリーナ・ザギトワさん(ロシア)への秋田犬保存会による秋田犬贈呈が大きな話題になり、秋田犬人気を爆発的に高めた。秋田県や大館市は秋田犬をキラーコンテンツとして観光客誘致戦略を展開しており、内外からの県への訪問者も増加、秋田犬グッズの売り上げも伸びた。秋田犬の聖地を売り物にする大館市が2019 年5 月にJR大館駅前にオープンする観光交流施設「秋田犬の里」のプロジェクトをどう成功させるかが次の課題となるが、問題点も少なくない。過去1、2 年で空前ともいえるほど拡大した内外の秋田犬人気や、県と大館市の取り組みを分析した。
著者
椙本 歩美
出版者
公立大学法人 国際教養大学 アジア地域研究連携機構
雑誌
国際教養大学 アジア地域研究連携機構研究紀要 (ISSN:21895554)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.69-81, 2016-03-31 (Released:2018-04-27)

戦後70年を過ぎ、戦争体験の継承がますます困難になっている。そこで大学と地域が連携して戦争体験を継承するためのワークショップ「雄和で学ぶ暮らしのなかの戦争」を開催し、ライフストーリーをとおして地域の戦争体験を記録するとともに、住民や学生が意見交換を行った。本稿では、ワークショップで紹介された語り手の戦争体験を記録し、参加者にとってどのような学びや気づきにつながったのかを考察する。語り手にとって戦争は、語り難い記憶でもある。個人の戦争体験を継承する取り組みでは、語られたことに焦点が当てられがちだが、聞き手は語り難さからも、言葉にできないほどの記憶や思いを抱えている語り手の存在に気付くことができる。個人の戦争体験としてワークショップで語られたことと、語られなかったことを示したうえで、聞き手が前者だけでなく後者からも戦争の悲惨さを学んだことを明らかにしたい。