著者
北脇 裕士
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.42, pp.53, 2020

<p>鉱物としてのトルマリンは、化学組成の幅が広く、スーパーグループを構成している。現在、 IMAの CNMNCにおいて 34種が承認されている。これらのうち宝石として市場で見られるもののほとんどは elbaiteで、一部が fluor-liddicotite、draviteおよび uvite等である。</p><p>パライバ・トルマリンは、1989年に宝石市場に登場し、一躍脚光を浴びた彩度が高く鮮やかな青色~緑色の銅着色のトルマリンである。鉱物学的には elbaiteであったが、当初ブラジルのパライバ州で発見されたため、宝飾業界ではパライバ・トルマリンと呼ばれるようになった。 1990年代には隣接するリオグランデ・ド・ノルテ州からも採掘されるようになり、両州から産出したものは混在したまま宝石市場で区別されることなくパライバ・トルマリンと呼ばれていた。</p><p>さらに 2000年代に入って、ブラジルから遠く離れたナイジェリアやモザンビークなどのアフリカ諸国からも同様の含銅トルマリンが産出されるようになり、国際的な議論の末、これらもパライバ・トルマリンと呼ばれるようになった。また、 2010年頃にモザンビークにおいて新たに fluor-liddicotiteの含銅トルマリンが発見され、現在は鉱物種に関係なくこれらもパライバ・トルマリンと呼ばれている。このようにパライバ・トルマリンはブラジル、ナイジェリア、モザンビークの3カ国から産出しているが、当初発見され、名前の由来にもなったブラジル産の人気が最も高い。そのため、流通の段階においてパライバ・トルマリンの原産地の特定が重要となる。</p><p>先端的な宝石鑑別ラボにおいてはLA-ICP-MSを用いた微量元素分析が原産地鑑別の主な手法として定着しているが、本稿では宝石顕微鏡による包有物の観察等の標準的な宝石学的検査と蛍光X線分析による元素分析による原産地鑑別の可能性について言及する。</p><p>ブラジルのパライバ州からはバターリャ鉱山とグロリアス鉱山から含銅トルマリンを産出しており、リオグランデ・ド・ノルテ州からはムルング鉱山とキントス鉱山から産出している。これらブラジル産のものはすべてペグマタイトの一次鉱床から産出している。いっぽう、ナイジェリアおよびモザンビークではペグマタイト由来ではあるが、二次鉱床から産出が見られる。そのため、ブラジル産の結晶原石は柱状の自形結晶に近いが、アフリカ産のものは磨耗による丸みを帯びた形をしている。トルマリンには一般にひび割れ状液体 inc.が見られるが、概してモザンビーク産やナイジェリア産のものはブラジル産に比較してその頻度が低い。また、 etch-channelと思われるチューブ状 inc.には二次鉱床由来のモザンビークとナイジェリア産にはしばしば酸化鉄による褐色の汚染が見られる。</p><p>蛍光X線分析において、CuOの実測値の平均はブラジル産では 1wt%以上のものが多いが、ナイジェリア及びモザンビーク産ではほとんどが 1wt%以下である。しかし、ブラジルのキントス鉱山産には 0.2-0.5wt%と低濃度のものがある反面アフリカ産でも1.5wt%を超えるものもある。ブラジル産でCuOの含有量の高いものには頻度はきわめて低いが自然銅 inc.が見られることがあり、産地特徴となっている。また、 CaOの濃度が高く、fluor-liddicotiteに分類されるものは、現時点においてはモザンビーク産にしか知られていない。</p>

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