著者
北脇 裕士 堀川 洋一 小豆川 勝見 野川 憲夫
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会誌 (ISSN:03855090)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.17-19, 2014

Two slightly orangy pink morganites with residual radioactivity were studied. The dose rate of the samples, measured by a scintillation survey meter, ranged from 0.15 to 0.35 μSv/h. Although this radioactivity was likely not hazardous, it was above the recommended exposure limit set forth in 1990 by the International Commission on Radiological Protection. To identify the radionuclides, gamma rays from the samples were measured using a Ge(Li) semiconductor detector. The activation products ^<134>Cs, ^<54>Mn, and ^<65>Zn were detected, proving that the samples had been artificially irradiated with neutrons.
著者
阿依 アヒマディ 北脇 裕士 岡野 誠
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨 平成16年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
巻号頁・発行日
pp.10, 2004 (Released:2005-04-06)

宝石素材に供される岩石・鉱物の真偽を判断するためにはいくつかのラボラトリーの分析が行われる。すなわち、異なる波長 (UV-Vis-IR)による分光分析、蛍光X線分析 (XRF)、走査型電子顕微鏡に付属するエネルギー分散型X線分析や電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA)などである。XRF分析は簡単便利で主元素と微量元素を同時に分析できる手法である。測定対象はバルク状、粉末状など、多様な試料を測定することができ、宝石素材の分析には非常に有効である。更にこれより高感度の超微量分析を行う場合はICP-AES、ICP-MSなどの手法があるが、通常試料を酸で溶解、もしくはアルカリで融解し溶液化する必要があり、宝石素材には使用できない。また、微小領域の分析では元素マッピング機能をもつEPMAを用いるが、前処理が必要なことやPPMオーダーの分析には感度が十分ではないなどの欠点がある。 このように宝石鉱物の高感度分析には従来の分析手法にはそれぞれの限界がある。そこで当技術研究室ではICP-MSの高感度を維持しつつ固体試料で局所分析が行えるレーザー・アブレーション(LA)―ICP-MS分析法に着目し、宝石鉱物の化学組成及び微量元素~極微量元素分析への応用を開始した。 宝石の地理的地域の産地鑑別はそれを行うそれぞれの鑑別ラボの意見であり、その宝石の品質や価値を示唆するものではない。このことはCIBJOのルールにおいても基本理念となっている。とはいっても検査するラボごとに異なる見解がでるようでは顧客は混乱することになり宝石鑑別ラボの信用を落とす結果となる。産地鑑別を行う以上はより精度の高い科学的根拠の下に行われるべきである。 本報告では(LA)―ICP-MS分析法を用いて極微量に含有される不純物元素の分析を行うことにより、サファイアやエメラルドの地理的産地鑑別の可能性について言及する。
著者
北脇 裕士
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.42, pp.53, 2020

<p>鉱物としてのトルマリンは、化学組成の幅が広く、スーパーグループを構成している。現在、 IMAの CNMNCにおいて 34種が承認されている。これらのうち宝石として市場で見られるもののほとんどは elbaiteで、一部が fluor-liddicotite、draviteおよび uvite等である。</p><p>パライバ・トルマリンは、1989年に宝石市場に登場し、一躍脚光を浴びた彩度が高く鮮やかな青色~緑色の銅着色のトルマリンである。鉱物学的には elbaiteであったが、当初ブラジルのパライバ州で発見されたため、宝飾業界ではパライバ・トルマリンと呼ばれるようになった。 1990年代には隣接するリオグランデ・ド・ノルテ州からも採掘されるようになり、両州から産出したものは混在したまま宝石市場で区別されることなくパライバ・トルマリンと呼ばれていた。</p><p>さらに 2000年代に入って、ブラジルから遠く離れたナイジェリアやモザンビークなどのアフリカ諸国からも同様の含銅トルマリンが産出されるようになり、国際的な議論の末、これらもパライバ・トルマリンと呼ばれるようになった。また、 2010年頃にモザンビークにおいて新たに fluor-liddicotiteの含銅トルマリンが発見され、現在は鉱物種に関係なくこれらもパライバ・トルマリンと呼ばれている。このようにパライバ・トルマリンはブラジル、ナイジェリア、モザンビークの3カ国から産出しているが、当初発見され、名前の由来にもなったブラジル産の人気が最も高い。そのため、流通の段階においてパライバ・トルマリンの原産地の特定が重要となる。</p><p>先端的な宝石鑑別ラボにおいてはLA-ICP-MSを用いた微量元素分析が原産地鑑別の主な手法として定着しているが、本稿では宝石顕微鏡による包有物の観察等の標準的な宝石学的検査と蛍光X線分析による元素分析による原産地鑑別の可能性について言及する。</p><p>ブラジルのパライバ州からはバターリャ鉱山とグロリアス鉱山から含銅トルマリンを産出しており、リオグランデ・ド・ノルテ州からはムルング鉱山とキントス鉱山から産出している。これらブラジル産のものはすべてペグマタイトの一次鉱床から産出している。いっぽう、ナイジェリアおよびモザンビークではペグマタイト由来ではあるが、二次鉱床から産出が見られる。そのため、ブラジル産の結晶原石は柱状の自形結晶に近いが、アフリカ産のものは磨耗による丸みを帯びた形をしている。トルマリンには一般にひび割れ状液体 inc.が見られるが、概してモザンビーク産やナイジェリア産のものはブラジル産に比較してその頻度が低い。また、 etch-channelと思われるチューブ状 inc.には二次鉱床由来のモザンビークとナイジェリア産にはしばしば酸化鉄による褐色の汚染が見られる。</p><p>蛍光X線分析において、CuOの実測値の平均はブラジル産では 1wt%以上のものが多いが、ナイジェリア及びモザンビーク産ではほとんどが 1wt%以下である。しかし、ブラジルのキントス鉱山産には 0.2-0.5wt%と低濃度のものがある反面アフリカ産でも1.5wt%を超えるものもある。ブラジル産でCuOの含有量の高いものには頻度はきわめて低いが自然銅 inc.が見られることがあり、産地特徴となっている。また、 CaOの濃度が高く、fluor-liddicotiteに分類されるものは、現時点においてはモザンビーク産にしか知られていない。</p>
著者
江森 健太郎 北脇 裕士 岡野 誠
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.34, 2012

2001年9月頃からBe拡散処理が施されたオレンジ/ピンクのサファイアが大量に日本国内に輸入され話題となった。当初は輸出国側から一切の情報開示がなく、"軽元素の拡散"という従来にはなかった新しい手法であったことから、鑑別機関としての対応が遅れる結果となった。その後の精力的な研究によってBe拡散処理の理論的究明には進展が見られたが、軽元素であるBe(ベリリウム)の検出にはSIMSやLA-ICP-MSなどのこれまでの宝石鑑別の範疇を超えた高度な分析技術が必要となり、その後の検査機関のあり方を問われる結果となった。<BR>LA-ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析装置)は、軽元素を含む多元素同時分析による高速性と、ppb~ppmレベルの分析が可能な高感度性能を持つ質量分析装置である。鉱物等の固体試料の測定にはレーザーアブレーションにより直径数10μm程度の極狭小な範囲を蒸発させる必要があるが、Be拡散処理サファイアの鑑別には欠かせない新たな分析手法として宝石学分野においても活用されるようになった。さらにLA-ICP-MSは蛍光X線分析では検出できない微量元素の検出が可能であるため、それらの検出された微量成分の種類や組み合わせがケミカル・フィンガープリントとして宝石鉱物の原産地鑑別に応用されている。既にコランダム、エメラルド、パライバ・トルマリンなどでは多くの研究例があり、一定の成果が上がっている。<BR>本研究では、これらのLA-ICP-MS分析法の宝石学分野における他の重要な応用例の1つとして、天然及び合成ルビーの鑑別法について検討した。<BR>1990年代初頭、新産地であるベトナム産ルビーの発見と同時期に大量の加熱処理されたベルヌイ法合成ルビーが宝石市場に投入された。加熱が施されることにより、鑑別特徴であるカーブラインが見え難くなり、さらに液体様のフェザーが誘発されることで、識別が困難となった。1990年代半ば以降にはフラックス法によるカシャン、チャザム、ラモラ等の合成ルビーに加熱処理されたものが出現した。特にフラックス法合成ルビーは加熱によって内部特徴が変化すると、標準的な鑑別手法では識別が極めて困難となり、他の有効な鑑別手法の確立が必要とされている。本報告では、ベルヌイ法、結晶引上げ法、フラックス法、熱水法等の合成ルビーをLA-ICP-MSで分析し、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu等の遷移元素や希土類元素等の相違について纏めた結果を紹介する。
著者
北脇 裕士 阿依 アヒマディ 岡野 誠
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.28, pp.10, 2006

一昨年9月に鑑別表記のルール改定が行われ、コランダムについては大きな変更と新たなカテゴリーが設けられた。このきっかけになったのが、2002年以降突如として出現したBe拡散処理されたパパラチャ・カラー・サファイアである。当初は輸出国側から一切の情報開示がなく、"軽元素の拡散"という従来にはなかった新しい手法であったことから、業界としての対応も後手を踏む結果となった。その後の研究によってある程度の理論的究明には進展が見られたが、Be(ベリリウム)の検出にはSIMSやLA-ICP-MSなどのこれまでの宝石鑑別の範疇を超えた高度な分析技術が必要となり、今後の鑑別技術のあり方を問われる結果となった。<BR> Be拡散による主な色変化は2価の元素であるBeがコランダム中の3価のAl(アルミニウム)を置換することによって生じるトラップド・ホール・カラ・センターによってイエローが生じることによって説明がなされている。したがって、特にイエロー系のサファイアは加熱・非加熱あるいはBe拡散処理の識別が極めて困難な現状である。<BR> さて、今年の初め頃からバンコクのマーケットではBe拡散処理されたブルー・サファイアが見られるようになり、宝石業界の新たな脅威となりつつある。Gem Research Swiss lab (GRS)では2005年の11月にBe拡散処理ブルー・サファイアを確認しており、今年の初め頃より増加の傾向にあると報告している。日本国内でも少数ながら発見されており、宝石鑑別団体協議会(AGL)では各会員機関に注意を呼びかけている。<BR> GAAJラボで確認したBe拡散処理ブルー・サファイアには特徴的な円形~らせん状のインクルージョンが見られ、これが一般鑑別における重要な手がかりとなる。しかし、類似したインクルージョンはBe処理されていないものにも見られることがあり、最終的にはLIBSあるいはLA-ICP-MSによる分析が必要となる。これらのBe拡散処理されたブルー・サファイアからは数ppm~10数ppmのBeが検出されており、色の改変を目的に意図的にドープされたものと考えられる。<BR> さらにこれとは別にLA-ICP-MSにおいて1ppm以下のBeが検出されることがあり、これらはBe拡散処理に用いたルツボの再利用あるいは電気炉の汚染による偶発的な混入と推測されるが、このようなケースでの情報開示について国際的な議論がなされている。
著者
阿依 アヒマディ 北脇 裕士
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.28, pp.11, 2006

ブラジルのパライバ州のMina da Batalha鉱区及びリオグランデ ド ノルテ州のMulunguとAlto dos Quintos鉱区から産出された銅とマンガンを含有するブルー~グリーン色調のエルバイトは、1990年の初期に宝石業界において"パライバ"トルマリンと呼ばれるようになった。2001年からナイジェリアの西部イバダン州のEdeko鉱山、そして2005年の中頃、モザンビークのAlto Lingonha地域からも銅を含有するエルバイトの新しい供給源が発見され、ブルー~グリーン、バイオレット、ピンクなどを有するトルマリンが産出されている。色や外観だけでなく化学組成もブラジル産エルバイト・トルマリンと重複しているため、標準的な宝石鑑別や半定量化学分析値 (EDXRF分析により得られる)によってブラジルの素材との識別は困難である。<BR> 本研究では、ブラジル、ナイジェリア及びモザンビークのそれぞれの産地が既知の相当量の銅を含有する198個以上のブルー~グリーンのトルマリンをレーザーアブレーション・誘導結合プラズマ分析装置(LA-ICP-MS)を用いて分析した新しい化学データを示し、さらにこれらのデータをどのように原産地決定に用いるのかを評価した。<BR> 上記の産地からのトルマリンを区別するのに化学分析値が有効であることを示すため、副成分と微量元素の2つの異なった組み合わせ;(Ga + Pb)対(Cu + Mn)、(Cu + Mn)対Pb/Beの比率のプロッティング、微量元素の組み合わせ;Mg-Zn-Pbによるプロッティングをした。<BR> LA-ICP-MS分析によって得られた定量化学分析値では(Ga + Pb)対(Cu + Mn)、(Cu + Mn)対Pb/Beの比率のプロッティングやMg-Zn-Pbによって、3カ国から産出されたトルマリンを区別することができる。また微量元素の特徴として、ナイジェリア産トルマリンはより多くのGa、Ge及びPbを含むのに対してブラジル産はMg、ZnおよびSbが多い。モザンビークからの新しい含Cuトルマリンは、Be、Sc、Ga、Pb、およびBiに富むが、Mgを欠いている。<BR> 各産地のトルマリンの宝石学的特性や蛍光?線分析による化学組成が重複しているため、標準的な分析手法においてはこれらの地理的な産地を識別するのが困難である。世界の主要鑑別ラボや各国の業者団体はこのような状況を踏まえ、産地を問わずCuやMnを含有するブルー、ブルー~グリーン、グリーン、バイオレットのエルバイト・トルマリンを"パライバ・トルマリン"と呼ぶことに同意したが、本研究では産地鑑別にはより高度な定量化学分析が必要であることを強調する。
著者
江森 健太郎 北脇 裕士
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.41, pp.14, 2019

<p>ベトナムは地理的にアジアの宝石が豊な国々に囲まれているにもかかわらず、1980 年代まで商業的な宝石採掘は行われていなかった。1983 年にハノイから北東 150 km の Yen Bai 地区 Luc Yen で地質学者がルビーとスピネルを発見し、系統的な調査が開始された。そして、1987 年にベトナムの地質調査所が同地区にルビー鉱床を発見、1990 年にハノイ南西 300 km の Qui Chaw でも上質のルビーが発見され、話題となった。</p><p>ベトナム産ルビーは品質の良いものはミャンマー産に匹敵しており、正確な原産地鑑別は鑑別機関にとって重要な課題である。また他の色のサファイアは市場性が低く、その宝石学的特性はあまり知られていない。そこで今回は、これらのベトナム Luc Yen 産のルビー、サファイアを新たに入手し、調査を行ったので、その結果を報告する。</p><p>本研究には 2016 年~2017 年にかけてベトナム Luc Yen のマーケットで入手したコランダム 64 個(0.16 ~ 1.70 ct)を用いた。入手時には Luc Yen、An Phu、Chau Binh と区別されていたが、本研究では広義に Luc Yen と一括した。これらについて一般的な宝石鑑別手法に加え、FTIR、紫外可視分光光度計による分光検査、LA-ICP-MS による微量元素測定を行った。特に筆者らが 2015 年宝石学会(日本)で行った微量元素測定と三次元プロットの手法についてアップデートを試みた。</p><p>先行研究では、ベトナム産を含むマーブル起源のルビー(ベトナム、ミャンマー、タンザニア)の識別には Mg-V-Fe の三次元プロットが有効であるとしていたが、今回分析を行ったサンプルには、ミャンマー産のルビーとオーバーラップするサンプルが多く存在した。そのため本研究においては新たに V-Cr-Fe の三次元プロットやオーバーラップする部分に対するロジスティック回帰分析を駆使することでミャンマー産ルビーとのオーバーラップを解消し、原産地鑑別の精度を向上させることができた。また、ブルー系のサファイアについても、V-Fe-Ga の三次元プロットを新たに使用することでベトナム Luc Yen 産のサファイアを他産地と明確に分離することができ、同様に産地鑑別の精度上昇に寄与できることがわかった。</p>
著者
北脇 裕士 江森 健太郎
出版者
一般社団法人日本鉱物科学会
雑誌
日本鉱物科学会年会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2014, 2014

コランダム(ルビー、サファイア)の原産地鑑別は、個々の結晶が産出した地理的地域を限定するために、その地域がどのような地質環境さらには地球テクトニクスから由来したかを判定するためのバックグランドが必要となる。そして試料の詳細な内部特徴の観察、標準的な宝石学的特性の取得が基本となり、紫外-可視分光分析、赤外分光(FTIR)分析、顕微ラマン分光分析、蛍光X線分析さらにはLA-ICP-MSによる微量元素の分析が行われる。 <br>原産地鑑別における地理的地域の結論は、それを行う宝石鑑別ラボの意見であり、その宝石の出所を証明するものではない。同様な地質環境から産出する異なった地域の宝石は原産地鑑別が困難もしくは不可能なこともある。原産地の結論は、検査時点での継続的研究の成果および文献下された情報に基づいて引き出されたもので、検査された宝石の最も可能性の高いとされる地理的地域を記述することとなる。
著者
江森 健太郎 北脇 裕士
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.39, pp.11, 2017

<p>予測手法としての多変量解析は「重回帰分析」「判別分析」「ロジスティック回帰分析」「数量化 I 類」「数量化 II 類」が一般的に知られている。中でも、「判別分析」「ロジスティック回帰分析」は「量的変数(質量濃度等の量を持った変数)」である説明変数から「質的変数(合成、天然といった量を伴わない変数)」である目的変数を予測する手法なため、宝石鑑別に有効な手段であることが期待される。</p><p>判別分析は事前に与えられているデータが異なるグループに分かれる場合、新しいデータが得られた際に、どちらのグループに入るのかを判別するための基準を得るための正規分布を前提とした分類の手法である。宝石分野ではルビー、サファイア、パライバトルマリンの産地鑑別、 HPHT 処理の看破(Blodgett et al, 2011)やネフライトの産地鑑別(Luo et al, 2015)の他、筆者らによる 2016 年宝石学会(日本)一般講演による「判別分析を用いた天然・合成アメシストの鑑別」といった研究例がある。</p><p>ロジスティック回帰分析はベルヌーイ分布に従う変数の統計的回帰モデルの一種であり、連結関数としてロジットを使用する一般化線形モデル(GLM)の一種でもある。確率の回帰であり、統計学の分類に用いられることが多い。ロジスティック回帰分析を用いると、事前に与えられたデータが A,B 異なる 2 種のグループに分かれる場合、新しいデータが得られた際に A である確率を求めることができる。</p><p>本研究では、「判別分析」「ロジスティック回帰分析」を用いて「アメシストの天然・合成の鑑別」「ルビーの天然・合成の鑑別」「パライバトルマリンの産地鑑別」について研究、検討を行った。</p><p>アメシストの天然・合成の鑑別、ルビーの天然・合成の鑑別は、 LA-ICP-MS 分析結果を使用した。両者とも、判別分析よりロジスティック回帰分析の誤判別率が低く、有効であるという結論を得た。</p><p>パライバトルマリンは、ブラジル産、ナイジェリア産、モザンビーク産の 3 つの産地について、 LA-ICP-MS 分析結果、蛍光 X 線分析結果の 2 種類を用いて判別分析を行った。 LA-ICP-MS、蛍光 X 線ともに誤判別率が 0.2 を超えるため、判別機としての精度は低いが、ブラジル産を判別する精度が高く、 ブラジル産か否かを決める判別としては有効であることが判明した。</p><p>多変量解析による予測手法は、ブラックボックスを扱うことに非常に近いため、それだけで結果を出すということは危険であるが、鑑別の補助としては非常に有効である。</p>
著者
小林 泰介 北脇 裕士 阿依 アヒマディ 岡野 誠 川野 潤
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.32, pp.11, 2010

最近、アフリカのモザンビーク産と称されるルビーを検査する機会が増えている。GAAJ-ZENHOKYOラボでも、実際の鑑別ルーティンで、2009年3月頃からこのようなモザンビークの新鉱山産であると考えられるルビーを見かけるようになった。今回はこれまで検査したモザンビーク産と思われるルビーの鑑別特徴について報告する。<BR>拡大検査では、タンザニアWinza産のルビーに見られるような顕著な双晶面や、液体-液膜インクルージョン、ネガティブ・クリスタル、透明および黒色不透明な結晶インクルージョン、および微小インクルージョンなどが見られた。表面近くに存在していた結晶インクルージョンをラマン分光分析および蛍光X線組成分析により同定した結果、最も一般的に見られる結晶は角閃石(パーガサイト)であることがわかったほか、アパタイトも確認された。<BR>赤外分光スペクトルには、3081cm-1と3309cm-1の吸収がペアになったブロードな吸収バンドが現れる。これらの吸収は、フラクチャー中に存在するベーマイトに起因する可能性があり、高温で加熱されたルビーにはこのような吸収バンドは現れない。顕著な3161cm-1の吸収ピークがタンザニア Winza産のルビーの赤外吸収スペクトルに特徴的に現れるように、このようなペアになった赤外吸収スペクトルは非加熱のモザンビーク産ルビーの識別に役立つと思われる。さらに、ベーマイトに起因すると考えられる2074cm-1と1980cm-1の弱い吸収が付随する場合もある。<BR>蛍光X線分析により化学組成を分析した結果、主元素であるAl2O3のほか、酸化物として0.3~0.8 wt%程度のCrと0.2~0.5 wt%程度のFeが検出された。このようなFeの含有量は、ミャンマー産やマダガスカル産などの非玄武岩起源のものよりも高く、タイ産のような玄武岩起源のものよりは低い。LA-ICP-MSによる微量元素の分析結果では、タンザニア Winza産のルビーの場合に比べ、Ti,V,Cr,Gaの含有量が高く、Feの含有量が低い事がわかった。<BR>モザンビーク産ルビーは、地理的地域が近接していることもあり、タンザニアのWinza産ルビーと類似した宝石学的特徴を有しているが、分光スペクトル及び微量元素分布を詳細に比べることによって両者の識別が可能であることがわかった。今回はこれに加えて、非加熱のモザンビーク産ならびにタンザニア産ルビーの原石を用いた加熱実験を試み、処理に伴う外観、内部特徴および分光スペクトルの変化などについても検証した。
著者
岡野 誠 北脇 裕士
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.31, pp.18, 2009

黒色不透明石の鑑別は、一般の透明宝石に比べて困難なことが多い。内部特徴の観察が不可能なことが主な要因であるが、単結晶鉱物や岩石あるいは模造石など黒色不透明な素材の範囲が広いことも一因である。<BR> かつてブラック・カルセドニーは、黒色不透明石の中で最もポピュラーなもののひとつであった。スピネル、オージャイト、テクタイト、オブシディアン、黒色ガラス(模造石)などの多くの黒色石はその代用品とされていた。<BR> 1990年代後半からは"ブラック・ダイヤモンド"がジュエリー素材として使用され始め、小粒石が多数個セッティングされたデザインが流行した。この "ブラック・ダイヤモンド"には_丸1_ナチュラル・カラー、_丸2_照射処理されたもの、_丸3_高温で加熱処理されたものが含まれているが、現在流行の主流は_丸3_の高温加熱処理されたものである。<BR> また、"ブラック・ダイヤモンド"のジュエリーにはブラック・キュービックジルコニア(CZ)やモアッサナイトなどの類似石が混入していることもあり、鑑別をより困難なものにしている。さらに最近になって、ブラック・スピネルにコーティング処理が施され、ブラック・ダイヤモンド様の金属光沢を呈するものや青色金属光沢を有するものを見かけるようになった。<BR> 標準的な鑑別検査<BR> 黒色不透明石の鑑別には、屈折率測定や拡大検査が有効である。しかしながら、セッティングの状況によっては屈折率測定が不可能となり、ブラック系の宝石は不透明なため内包物の観察が困難である。したがって、強いファイバー光源を使用した丹念な検査が不可欠である。"ブラック・ダイヤモンド"は金剛光沢とシャープなファセットエッジが特徴で、針状の黒色内包物や微細なグラファイトの密集等が認められる。<BR> レントゲン検査<BR> ダイヤモンドと類似石の識別にはX線透過性(レントゲン)検査が有効である。特に多数個がセッティングされているジュエリーにはまとめて検査できる上に写真撮影を行うことで、ジュエリーのどの石が類似石かを記録することが可能である。<BR> 蛍光X線分析<BR> 元素分析は素材の同定を行う上で極めて有用である。黒色ガラスにおいても組成の違いでテクタイト、オブシディアン、模造石(人工ガラス)の識別も可能である。<BR> 顕微ラマン分光分析<BR> ラマン分光分析はラマン効果を利用して物質の同定や分子構造を解析する手法で、数ミクロン程度の試料や局所分析にきわめて有効である。ジュエリーにセッティングされたものでも個々の分析を短時間で行うことができ、ダイヤモンド、モアッサナイト、CZ等を明確に同定することが可能である。
著者
江森 健太郎 北脇 裕士 岡野 誠
出版者
一般社団法人日本鉱物科学会
雑誌
日本鉱物科学会年会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2012, 2012

LA-ICP-MS分析法は宝石学の分野では、Be拡散加熱処理サファイアの鑑別や、コランダム、エメラルド、パライバトルマリンの産地鑑別等に応用されてきた。今回の報告では、近年鑑別が非常に難しくなってきている合成ルビーと天然ルビーの鑑別について、LA-ICP-MSを用いた微量元素の分析という観点から研究を行った。結果、合成ルビーと天然ルビーを分別することが可能であり、合成ルビーに関しては製造者を特定することも可能であることが判明した。
著者
江森 健太郎 北脇 裕士
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.38, 2016

判別分析は事前に与えられているデータが異 なるグループに分かれる場合、新しいデータ が得られた際に、どちらのグループに入るの かを判別するための基準を得るための正規分 布を前提とした分類の手法である。応用範囲は幅広く、病気の診断、スパムメールフィルター等にも応用されている。宝石分野では、ルビー、サファイア、パライバトルマリンの産地鑑別、HPHT 処理の看破(Blodgett et al, 2011)や ネフライトの産地鑑別(Luo et al, 2015)といった 研究例がある。 <br>本研究では、LA-ICP-MS によるアメシストの 微量元素分析データを用いた判別分析を行い、天然・合成の鑑別の可能性について検討 を行った。 <br>アメシストの天然・合成を鑑別する手法としては、内包物およびカラー・ゾーニングの観察、 双晶の有無、赤外分光分析等が伝統的に利用されてきたが、今なお判別の困難な合成石 の流通が多く、より精度の高い鑑別法の確立 が求められている。 <br>宝石鉱物は天然の場合、母岩や産出状況と いった地質的な環境情報を保持するのに対し、合成宝石はその製造方法に関する微量元素 に特徴を持っている。そのため、高精度の微 量元素の分析とデータ解析は宝石の天然・合 成の鑑別にきわめて有効である。<br>分析に用いた試料は、天然アメシストとして、ザンビア、ブラジル、ニュージーランド、日本産を含む計 50 個と、合成アメシストとして 49 個である。 LA-ICP-MS 装置はレーザーアブ レーション装置として NEW WAVE UP-213、 ICP-MS装置としてAgilent 7500aを使用した。 分析の結果、<sup>7</sup>Li, <sup>9</sup>Be, <sup>11</sup>B, <sup>23</sup>Na, <sup>27</sup>Al, <sup>39</sup>K, <sup>45</sup>Sc, <sup>47</sup>Ti, <sup>66</sup>Zn, <sup>69</sup>Ga, <sup>72</sup>Ge, <sup>90</sup>Zr and <sup>208</sup>Pb を用いた判別分析は天然、合成アメシストの鑑別によい指標となることがわかった。 <br>また、天然・合成の鑑別とは異なるが、ザン ビア産とブラジル産のエメラルドに対し、同じ 元素の組み合わせで判別分析を用いたところ、両者を明確に区別することができた。 <br>宝石鉱物は産地や製法を反映した複数の 微量元素を含む。判別分析はそれら複数の 微量元素濃度を一度に取り扱うことができる手法であり、今後も宝石分野でも様々な応用が 期待できる。
著者
志田 淳子 北脇 裕士 アブドレイム アヒマディジャン
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会誌 (ISSN:03855090)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.13-23, 2004
参考文献数
8
被引用文献数
1

In the latter half of 2001, sapphire showing intense orange-pink hue came out in the jewellery market. It was expected that the colour was induced by the so-called "surface diffusion" at first because of its curious colour distribution. In order to make the origin of the colour, we have investigated morphology of sapphire using laser tomography and SEM, analysis of elements by EDRXF, SIMS, LA-ICP, XPS and so on, and confirmed that the sapphires contains Be diffused from external source such as chrysoberyl with heat treatment.