著者
沖本 弘
出版者
公益財団法人 竹中大工道具館
雑誌
竹中大工道具館研究紀要 (ISSN:09153685)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.62-76, 1991

良い道具の条件の一つは刃先が鋭くでき、鋭い刃先が長く保持できることである。このため、刃先には硬くかつ粘りのある性質が必要とされている。材料には高炭素鋼や合金鋼が使われる。これらの鋼では、硬くて脆い炭化物が不規則で分布すると刃こぼれの原因になるため、炭化物の微細化、球状化の熱処理技術を必要としている。日本の鉋刃は薄い鋼を極軟鋼や練鉄に鍛接しなければならないため、刃物鍛冶は良い刃先の組織にする熱処理に工夫を重ねている。道具刃物の刃先の理想的な組織にいたる各工程での組織変化に関してはあまり知られていない。良い道具の判断材料を得るために、研究熱心な鉋鍛冶の協力を得て、青紙1号という鋼を用いて熱処理工程ごとの組織変化を観察した。一般に、高炭素鋼の炭化物の球状化は焼なましによって達成できるが、取り上げた、鉋刃の製造工程においては焼なまし以前の工程である熱間での成形・鍛錬といった工程で球状化がかなり促進されていることがわかり、刃物鍛冶仲間でいわれる「火造り」の重要性が理解できた。

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