9 0 0 0 OA 墨縄と墨壷

著者
沖本 弘
出版者
公益財団法人 竹中大工道具館
雑誌
竹中大工道具館研究紀要 (ISSN:09153685)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.59-77, 2002 (Released:2022-01-31)
参考文献数
25

線引き道具として使われる墨壺は、線引きための糸を巻取る部分と糸にインクを付着させる壺の部分を一体化した道具である。現代でも中国、朝鮮半島、日本など東アジアに特徴的にみられる道具である。主として中国、日本の墨壺について歴史的な資料として文字、絵画を調べ、近現代の実物の形をもとに比較考察を行った。 中国では、文字資料から線引き道具の出現は紀元前5~3世紀である。この文字から墨壺の形をしていたか明らかでない。墨壺の文字があらわれるのは唐代に入ってからである。日本でもロープだけと推定される墨縄という文字が最初に出現し平安時代に墨壺の文字が出現する。 日本では8世紀のものとされる墨壺が出土している。形はでここに糸車を保持するようになっている。「尻割れ形」は江戸時代中頃まで踏襲されたようである。江戸中期以降には形が多様化している。中国では元代以前の墨壺は発見されてないが、明、清代には形は多様化していたようである。尻割れ形は中国の内陸部大理で使われていた。
著者
沖本 弘
出版者
公益財団法人 竹中大工道具館
雑誌
竹中大工道具館研究紀要 (ISSN:09153685)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.62-76, 1991

良い道具の条件の一つは刃先が鋭くでき、鋭い刃先が長く保持できることである。このため、刃先には硬くかつ粘りのある性質が必要とされている。材料には高炭素鋼や合金鋼が使われる。これらの鋼では、硬くて脆い炭化物が不規則で分布すると刃こぼれの原因になるため、炭化物の微細化、球状化の熱処理技術を必要としている。日本の鉋刃は薄い鋼を極軟鋼や練鉄に鍛接しなければならないため、刃物鍛冶は良い刃先の組織にする熱処理に工夫を重ねている。道具刃物の刃先の理想的な組織にいたる各工程での組織変化に関してはあまり知られていない。良い道具の判断材料を得るために、研究熱心な鉋鍛冶の協力を得て、青紙1号という鋼を用いて熱処理工程ごとの組織変化を観察した。一般に、高炭素鋼の炭化物の球状化は焼なましによって達成できるが、取り上げた、鉋刃の製造工程においては焼なまし以前の工程である熱間での成形・鍛錬といった工程で球状化がかなり促進されていることがわかり、刃物鍛冶仲間でいわれる「火造り」の重要性が理解できた。