著者
森 文彦
出版者
日本箱庭療法学会
雑誌
箱庭療法学研究 (ISSN:09163662)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.41-52, 2021

<p>浜松中納言物語は主人公中納言の内的世界での出来事を描いている。唐后は無意識の深い層に隠れている太母(Great Mother)のイメージである。唐后は方便(計らい)によって,中納言の亡父を唐国に転生させた。それは,中納言をして自分の存在に気づかせ,「母なるもの」「女性なるもの」を内的に確立させようとする唐后の計画であった。物語は,中納言のライバル,式部卿の宮や,恋人吉野の姫君との絡みを交えて進行する。当初中納言は,衝動的で心がいつも動揺していた青年であった。しかし,唐国からの帰国後は自分の責任を引き受ける成長した男性の姿を見せ始める。最終的に中納言は,物語の重要人物すべてを世話する中心的人物になる。物語は,唐后が中納言の成長をさらに促進するために,自分自身が日本に転生すると宣言するところで終わる。物語の目的は,内的な「父なるもの」と「母なるもの」の形成と相互に関係しつつ,主体性ある人格が成長・成熟していくプロセスを描くことにあったと考えられる。</p>

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