- 著者
-
足立 恭一郎
- 出版者
- 農林水産省農林水産政策研究所
- 雑誌
- 農林水産政策研究 (ISSN:1346700X)
- 巻号頁・発行日
- no.2, pp.27-46, 2002-03
1993年2月を画期とする軍人政権から文民政権への移行に伴い、韓国農政はそれまでの単線的な規模拡大・生産コスト削減路線から親環境農業路線へと徐々に方向を転換しはじめた。親環境とは、環境への優しさを強調する韓国独自の表現であり、日本でいう有機栽培と特別栽培の双方が含まれる。 この農政パラダイムの転換を唱導したのは許信行氏、崔洋夫氏、金成勲氏という韓国を代表する3人の農業経済学者であった。許信行氏は金泳三大統領の下で韓国農政史上初の学者長官(在任期間:1993.2.26.~93.12.21.)に就任し、崔洋夫氏は学者秘書官として大統領府の初代農水産主席(1993.12.23.~98.2.24.)を金泳三政権の全期間に亘って務めた。そして、金成勲氏は金大中大統領の下で韓国農政史上2人目の学者長官(1998.3.3.~2000.8.7.)に就任し、持続農業(許氏)・環境農業(崔氏)・親環境農業(金氏)をそれぞれ「韓国農業の4つの進路」(許氏及び崔氏)或いは「韓国農業の生き残る道」(金氏)に位置づけて積極的に推進した。 1993年2月から2000年8月まで7年半、3人の農業経済学者が理論的裏付けを有するそれぞれの農政理念に基づいて主導した農政改革は奏功し、韓国の農政は今、その軸足を親環境農業路線に置くようになった。環境農業育成法の制定、親環境農業直接支払制度および水田農業直接支払制度の導入、親環境農産物認証制度の導入と同流通システムの整備などはその端的な事例である。大統領制をとる韓国では政権交代により農政自体も大きく変わるため、金泳三、金大中政権と続いた農政変革路線がいつまで続くか予断を許さないが、韓国農政の今後の展開に注目したい。