著者
川崎 賢太郎
出版者
農林水産省 農林水産政策研究所
雑誌
農林水産政策研究 = Journal of Agricultural Policy Research (ISSN:1346700X)
巻号頁・発行日
no.36, pp.13-29, 2022-02-22

政策効果に関して信頼性の高いエビデンスを得るためには,因果関係を評価できる適切な手法を利用することが重要である。本稿では,回帰不連続デザイン及び差分の差分法をレビューした川崎(2020;2021)に続き,操作変数法に焦点を当て,その基本的な概念や農業経済学分野における応用例を紹介する。There are several econometric methods for evaluating the causal impact of agricultural policies. In previous studies, the regression discontinuity design and the difference-in-differences method were reviewed (Kawasaki 2020, 2021). In this study, we review the basic concept of instrumental variable method and its applications in the field of agricultural economics.
著者
川崎 賢太郎
出版者
農林水産省 農林水産政策研究所
雑誌
農林水産政策研究 = Journal of Agricultural Policy Research (ISSN:1346700X)
巻号頁・発行日
no.早期公開, pp.1-12, 2021-09-22

近年,農業政策分野においてEBPM(Evidence-based policy making,エビデンスに基づく政策立案)という考え方が浸透しつつあるが,そこでの最も重要な概念は,政策が各種アウトカムに与える「因果関係」である。本稿では因果関係を推計する手法の一つである,「差分の差分法(Difference-in-differences)」に焦点を当て,その基本的な概念や農業経済学分野における応用例について紹介する。Causality is pivotal in evidence-based policy making and can be quantified with several econometric methods.This study reviews applications of difference-in-differences method in the field of agricultural economics.
著者
上林 篤幸
出版者
農林水産省 農林水産政策研究所
雑誌
農林水産政策研究 = Journal of Agricultural Policy Research (ISSN:1346700X)
巻号頁・発行日
no.37, pp.1-40, 2022-11-22

1979年の「改革・解放」政策への転換から中国の経済は急速に成長し,現在中国は世界第二位の経済大国であり,豚肉は国民の食生活の中で重要な部分を占めている。中国の豚飼養頭数は世界最大であり,その主要な飼料の主要な原料である大豆はほぼ全てをブラジル,米国などの少数の輸出国からの輸入に依存している。ASF(アフリカ豚熱)は強力な伝染力を持ち一旦感染すると豚はほぼ死に至ることから,殺処分以外の対策はまだ存在しない深刻な豚の伝染病である。2018年に中国で初のASF発生が確認され,その後中国全土に拡散したことから,2019年から大規模な殺処分により豚の飼養頭数が激減した。これにより中国国内で豚肉の供給が著しく減少し国内価格の高騰が発生していることに加え,今後配合飼料の原料である大豆の輸入量の減少が見込まれる。本研究ではこれらのASFショックの影響を評価することを目的とした部分均衡モデルを新たに開発し,中国の養豚業の今後の回復速度に関する2種類の前提シナリオを設定してシミュレーションを行い,今後発生する豚肉や大豆の中国及び国際マーケットへの影響を定量的に考察した。Chinaʼs 1979 policy change toward a market economy led to rapid economic growth, making the country the worldʼs second largest economy. Pigmeat makes up an essential part of Chinaʼs dietary habits and the pig raising business depends almost completely on international imports for its important feed component, soybeans. However, due to the outbreak of African Swine Fever (ASF), China has been carrying out a large-scale nationwide cull, with serious consequences for not only the Chinese pigmeat market but also for the world soybean market. This research consists of a quantitative study on the impacts of the ASF outbreak on the pigmeat and soybean markets by developing a partial equilibrium model with several scenarios for future recovery.
著者
川崎 賢太郎
出版者
農林水産省 農林水産政策研究所
雑誌
農林水産政策研究 = Journal of Agricultural Policy Research (ISSN:1346700X)
巻号頁・発行日
no.33, pp.63-75, 2020-12-28

近年,農業政策分野においてEBPM(Evidence-Based Policy Making,エビデンスに基づく政策立案)という考え方が浸透しつつあるが,そこでの最も重要な概念は,対象とする政策が各種アウトカムに与える「因果関係」である。本稿では因果関係を推計する手法の一つである,「回帰不連続デザイン(Regression Discontinuity Design)」に焦点を当て,その基本的な概念や農業経済学分野における応用例,我が国の農業分野に適用するための課題について論じる。Causality plays a key role in evidence-based policy making, and there are several econometric methods that quantify it. This article reviews applications of regression discontinuity design in the field of agricultural economics and discusses several issues that should be considered when applying this method to agricultural policies.
著者
岡江 恭史
出版者
農林水産省農林水産政策研究所
雑誌
農林水産政策研究 (ISSN:1346700X)
巻号頁・発行日
no.6, pp.23-49, 2004-03
被引用文献数
3

1960年代以降、アジア各国で設立・再編された農業金融制度は、低い資金回収率・高い取引費用等の問題を残した。これに対してベトナムにおいては、ドイモイ政策の一環として設立された農業銀行や貧民銀行といった金融機関の農民への貸付に際して、農民会等の大衆組織が仲介し、またこれらの組織のもとで共同債務グループが結成され、高い資金回収率と取引費用の削減をもたらした。しかし、これらの組織やグループの実態はこれまで明らかにされていない。本稿では、これらの組織やグループの実態を村落構造との関係に着目して明らかにし、良好なパフォーマンスを可能にした背景として集落の重要性を指摘する。筆者がベトナム紅河デルタ農村にて調査を行った結果、以下のことが判明した。銀行貸付を仲介する農民会は予算・人員の面で不充分でその活動も活発とはいえず、グループの共同債務も事実上機能していない。にもかかわらず銀行貸付が債務不履行も出さず良好なパフォーマンスを示しているのは、実質的に集落が貸付仲介を行っているからである。集落は村落内のあらゆる社会組織の基本単位であって、村民にとって最も身近な共同体である。それゆえ、財政的基盤がなくてもモニタリングを行うことは容易である。調査村においては、村落共同体の助けを借りつつ近代的な金融制度が農村部に着実に浸透しているといえる。
著者
小泉 達治
出版者
農林水産省農林水産政策研究所
巻号頁・発行日
no.28, pp.25-62, 2018 (Released:2018-10-18)

自動車用燃料として使用できるバイオ燃料は,化石由来燃料からの代替エネルギー利用によるエネルギー安全保障問題への対応,温室効果ガスの削減,農業・農村経済の活性化等の目的により,世界中で導入が進められている。本研究では米国,ブラジル,EU,インドネシア,マレーシアのバイオ燃料政策・市場構造を定性的に分析し,バイオ燃料が世界の食料需給及びフードセキュリティに与える影響についての考察を行った。世界のバイオ燃料生産量の増加率は鈍化しているものの,いまだ増加傾向は続いている。バイオ燃料の主原料は依然として農産物が大部分を占めているため,現段階でもバイオ燃料は世界の食料需給に影響を与えている状況にある。バイオ燃料による食料価格下支え効果は,2000年代半ば以降の世界の食料需給構造を大きく変えた要因の一つであると考えられる。今後も,世界のバイオ燃料需要量はほぼ横ばいで推移するものの,食料由来のバイオ燃料需要量が世界の食料需給に影響を与え続けていく見込みである。これは,今後も食料価格が下落しにくい構造が継続していくことを意味する。一方,農産物は農民にとって重要な所得源であるため,バイオ燃料生産を通じて,食料価格を「下支え」し,価格の暴落を防ぐことは,農民の所得安定・増加にもつながると考える。このため,バイオ燃料が世界のフードセキュリティにとってプラスとなるような取組を国際社会で進めていくことが今後,重要となる。
著者
足立 恭一郎
出版者
農林水産省 農林水産政策研究所
雑誌
農林水産政策研究 = Journal of Agricultural Policy Research (ISSN:1346700X)
巻号頁・発行日
no.2, pp.27-46, 2002-03-29

1993年2月を画期とする軍人政権から文民政権への移行に伴い,韓国農政はそれまでの単線的な規模拡大・生産コスト削減路線から親環境農業路線へと徐々に方向を転換しはじめた。親環境とは,環境への優しさを強調する韓国独自の表現であり,日本でいう有機栽培と特別栽培の双方が含まれる。この農政パラダイムの転換を唱導したのは許信行氏,崔洋夫氏,金成勲氏という韓国を代表する3人の農業経済学者であった。許信行氏は金泳三大統領の下で韓国農政史上初の学者長官(在任期間:1993. 2.26.~93.12.21.)に就任し,崔洋夫氏は学者秘書官として大統領府の初代農水産主席(1993. 12.23.~98. 2. 24.)を金泳三政権の全期間に亘って務めた。そして,金成勲氏は金大中大統領の下で韓国農政史上2人目の学者長官(1998. 3.3.~2000.8.7.)に就任し,持続農業(許氏)・環境農業(崔氏)・親環境農業(金氏)をそれぞれ「韓国農業の4つの進路」(許氏及び崔氏)或いは「韓国農業の生き残る道」(金氏)に位置づけて積極的に推進した。1993年2月から2000年8月まで7年半,3人の農業経済学者が理論的裏付けを有するそれぞれの農政理念に基づいて主導した農政改革は奏功し,韓国の農政は今,その軸足を親環境農業路線に置くようになった。環境農業育成法の制定,親環境農業直接支払制度および水田農業直接支払制度の導入,親環境農産物認証制度の導入と同流通システムの整備などはその端的な事例である。大統領制をとる韓国では政権交代により農政自体も大きく変わるため,金泳三,金大中政権と続いた農政変革路線がいつまで続くか予断を許さないが,韓国農政の今後の展開に注目したい。Owing to the shift from a military administration to a civilian administration of February in 1993, Korean agricultural policies began to change direction from a "Scale and Cost Oriented Policy" to an "Environmentally Friendly Policy".The individuals who led this paradigm shift in Korean agricultural policy were Huh Shin-Haeng, Choe Yang-Boo, and Kim Sung-Hoon, all famous Korean agricultural economists. During President Kim Yeong-Sam's Administration, Huh Shin-Haeng took office (Feb. 26, 1993-Dec. 21, 1993) as the first "scholar" Minister of Agriculture, Choe Yang-Boo took office (Dec. 23, 1993-Feb. 24, 1998) as the first "scholar" Chief of Staff of Agriculture in the Executive Mansion, the so-called Blue House, and at President Kim Dae-Jung's Administration, Kim Sung-Hoon took office (Mar. 3, 1998-Aug. 7, 2000) as the second "scholar" Minister of Agriculture in the history of the Ministry of Agriculture in Korea.They believed that a Sustainable Agriculture (Huh), an Environmental Agriculture (Choe) and an Environmentally Friendly Agriculture (Kim) could ensure the survival Korean agriculture and they actively promoted these forms of agriculture.Under their strong leadership from Feb. 1993 to Aug. 2000, Korean Agricultural Policy Reform succeeded, with Korean Agricultural Policies now oriented towards the Environmentally Friendly Agriculture with, for example, the Sustainable Agriculture Promotion Act, the Direct Payment System for the Environmentally Friendly Agriculture, the Direct Payment System for the Paddy Farming, the stern Certification System for the Environmentally Friendly Agricultural Products.Due to the nature of the Presidential system, Korean Agricultural Policies often change dramatically. It is therefore difficult to look into the future of Korean Agricultural Policies, but this trend needs to be watched more carefully.
著者
足立 恭一郎
出版者
農林水産省農林水産政策研究所
雑誌
農林水産政策研究 (ISSN:1346700X)
巻号頁・発行日
no.2, pp.27-46, 2002-03

1993年2月を画期とする軍人政権から文民政権への移行に伴い、韓国農政はそれまでの単線的な規模拡大・生産コスト削減路線から親環境農業路線へと徐々に方向を転換しはじめた。親環境とは、環境への優しさを強調する韓国独自の表現であり、日本でいう有機栽培と特別栽培の双方が含まれる。 この農政パラダイムの転換を唱導したのは許信行氏、崔洋夫氏、金成勲氏という韓国を代表する3人の農業経済学者であった。許信行氏は金泳三大統領の下で韓国農政史上初の学者長官(在任期間:1993.2.26.~93.12.21.)に就任し、崔洋夫氏は学者秘書官として大統領府の初代農水産主席(1993.12.23.~98.2.24.)を金泳三政権の全期間に亘って務めた。そして、金成勲氏は金大中大統領の下で韓国農政史上2人目の学者長官(1998.3.3.~2000.8.7.)に就任し、持続農業(許氏)・環境農業(崔氏)・親環境農業(金氏)をそれぞれ「韓国農業の4つの進路」(許氏及び崔氏)或いは「韓国農業の生き残る道」(金氏)に位置づけて積極的に推進した。 1993年2月から2000年8月まで7年半、3人の農業経済学者が理論的裏付けを有するそれぞれの農政理念に基づいて主導した農政改革は奏功し、韓国の農政は今、その軸足を親環境農業路線に置くようになった。環境農業育成法の制定、親環境農業直接支払制度および水田農業直接支払制度の導入、親環境農産物認証制度の導入と同流通システムの整備などはその端的な事例である。大統領制をとる韓国では政権交代により農政自体も大きく変わるため、金泳三、金大中政権と続いた農政変革路線がいつまで続くか予断を許さないが、韓国農政の今後の展開に注目したい。
著者
井上 荘太朗
出版者
農林水産省農林水産政策研究所
巻号頁・発行日
no.12, pp.65-84, 2006 (Released:2011-03-05)

さとうきび作は、沖縄県の経済振興のために必須の作目と政策的に位置づけられてきた。この背景には、沖縄県、特に離島部の経済がさとうきび作と製糖業に対して大きく依存しており、かつ代替的な作目が見出しがたいとする認識がある。しかし農家の高齢化に伴い、沖縄県のさとうきび作は縮小してきている。また、島ごとにみると、他の経済部門が小さい上に輸送条件が不利な遠隔離島地域にある平坦部の広い島(南北大東島や宮古島等)では、依存度は確かに高いが、こうした島を除くと、依存度はあまり高くない場合もあることが指摘される。このように各島での事情は異なるが、製糖工場の操業度が低下していることもあり、いずれの島でも、さとうきび生産の拡大を強く支援するために多様な施策がとられており、高い成果をあげている場合もある。しかし、国内の砂糖市場が縮小し、国内糖業の支持のための財政負担の効率性も厳しく問われている状況下においては、こうしたモノカルチャー的なさとうきび作の拡大に偏った政策を再検討することも必要かもしれない。さらには、今後、離島社会の振興をより持続的な基盤の上で進めるためには、各島の事情に応じて、農業と他の経済部門との連携を含んだ柔軟な施策を採用していくことが求められると考察される。
著者
井上 荘太朗
出版者
農林水産省農林水産政策研究所
雑誌
農林水産政策研究 (ISSN:1346700X)
巻号頁・発行日
no.12, pp.65-84, 2006-09

さとうきび作は、沖縄県の経済振興のために必須の作目と政策的に位置づけられてきた。この背景には、沖縄県、特に離島部の経済がさとうきび作と製糖業に対して大きく依存しており、かつ代替的な作目が見出しがたいとする認識がある。しかし農家の高齢化に伴い、沖縄県のさとうきび作は縮小してきている。また、島ごとにみると、他の経済部門が小さい上に輸送条件が不利な遠隔離島地域にある平坦部の広い島(南北大東島や宮古島等)では、依存度は確かに高いが、こうした島を除くと、依存度はあまり高くない場合もあることが指摘される。このように各島での事情は異なるが、製糖工場の操業度が低下していることもあり、いずれの島でも、さとうきび生産の拡大を強く支援するために多様な施策がとられており、高い成果をあげている場合もある。しかし、国内の砂糖市場が縮小し、国内糖業の支持のための財政負担の効率性も厳しく問われている状況下においては、こうしたモノカルチャー的なさとうきび作の拡大に偏った政策を再検討することも必要かもしれない。さらには、今後、離島社会の振興をより持続的な基盤の上で進めるためには、各島の事情に応じて、農業と他の経済部門との連携を含んだ柔軟な施策を採用していくことが求められると考察される。
著者
吉田 真悟
出版者
農林水産省 農林水産政策研究所
雑誌
農林水産政策研究 = Journal of Agricultural Policy Research (ISSN:1346700X)
巻号頁・発行日
no.32, pp.17-41, 2020-06-30

外部環境の変化の激しい現代において,農業経営の多角化には追加所得確保,リスク分散,範囲の経済による資源活用など多様な役割が期待される。特に,消費地との近接性を活かした事業多角化が盛んな都市近郊農業において,多角化を通じた経営発展のメカニズムの解明が求められる。本稿では,農業経営の長期的な多角化プロセスの類型を理論化した上で,各類型における多角化と経営発展の相互関係について関東都市近郊の18 件の農業経営の事例分析より明らかにする。その際,多角化との関連性の大きな経営内部環境(アントレプレナーシップ及び経営資源)をあわせて把握した。分析の結果,農業経営の事業多角化は高度多角化型,事業補完型及び基幹事業探索型に類型化され,各類型の中でも経営内部環境の整った経営のみが経営発展(量的拡大及び質的変化)を達成していた。さらに,高度多角化型及び基幹事業探索型では多角化と経営内部環境が相互に影響しながら経営発展している一方で,事業補完型では多角化が経営発展に与える影響は限定的だった。本稿の結果は,多角化した農業経営の支援を考える際に,各経営における多角化の位置づけ及び経営発展のボトルネックを明確にすることの重要性を示唆している。In a drastically changing external environment, farm diversification serves several purposes, including additional income generation, risk reduction, and efficient resource utilization. In peri-urban agriculture, where structural diversification is widespread, the mechanism of farm development through diversification deserves attention. This study aims to demonstrate the interaction between farm development and each type of theoretically defined diversification using data from 18 farms located in urban areas in the Kanto region, Japan. The internal farm environment factors like entrepreneurship and management resources affect farm diversification. Consequently, farm structural diversification can be classified into four categories: highly diversified type, complementary enterprise type, search and selection type, and non-diversified type. The study identifies that farms of each category whose management exhibit factors like entrepreneurship, management skills, and active social networks, achieve farm development. Furthermore, in farms that were of the highly diversified type, and the search & selection type had an interaction between diversification and internal farm environment, the diversification of farms of the complementary enterprise type had little impact on its management. These findings have significant implications on policies supporting diversified farms. Research is required to identify the types of farm diversification and associated challenges for further growth.
著者
小泉 達治
出版者
農林水産省農林水産政策研究所
巻号頁・発行日
no.11, pp.53-72, 2006 (Released:2011-03-05)

米国では1970年代後半から、エネルギー、環境問題そして余剰農産物問題への対応からとうもろこしを主原料とした燃料用エタノール生産およびガソリンヘの混合が実施されており、特に1990年の改正大気浄化法施行以降、燃料用エタノールの需要量および生産量は拡大した。最近では含酸素燃料として使用されていたMTBE(メチル・ターシャリー・ブチル・エーテル)は環境汚染の可能性がカリフォルニア州等から指摘されたことにより、MTBEから同様の効果を有する燃料用エタノールヘの代替が促進されている。今後の燃料用エタノール需給動向に影響を及ぼす要因としては、国際原油価格動向、燃料用エタノールに関する補助措置の動向、原料作物であるとうもろこしの需給動向等があげられるが、最も影響を与える要因としてはMTBEの規制動向および2005年以降の新たな動きである各州における最低消費量基準であるESF(Ethanol State Floor)の導入が今後のエタノール需給動向を決定する上で極めて重要な要因である。今後、MTBEからの代替およびESFの導入州の増加に伴いエタノール用需要量が増加することが見込まれるが、生産量が停滞する場合は、米国は国内とうもろこし需要量増加に対応していくため、輸出量の削減を行う可能性がある。この世界最大のとうもろこし輸出国における輸出量の削減は国際とうもろこし需給にも影響を与える可能性もある。その場合はとうもろこし輸入量の95%を米国に依存しているわが国にも影響を与えることが考えられる。
著者
井上 荘太朗
出版者
農林水産省農林水産政策研究所
雑誌
農林水産政策研究 (ISSN:1346700X)
巻号頁・発行日
no.12, pp.65-84, 2006-09

さとうきび作は、沖縄県の経済振興のために必須の作目と政策的に位置づけられてきた。この背景には、沖縄県、特に離島部の経済がさとうきび作と製糖業に対して大きく依存しており、かつ代替的な作目が見出しがたいとする認識がある。しかし農家の高齢化に伴い、沖縄県のさとうきび作は縮小してきている。また、島ごとにみると、他の経済部門が小さい上に輸送条件が不利な遠隔離島地域にある平坦部の広い島(南北大東島や宮古島等)では、依存度は確かに高いが、こうした島を除くと、依存度はあまり高くない場合もあることが指摘される。このように各島での事情は異なるが、製糖工場の操業度が低下していることもあり、いずれの島でも、さとうきび生産の拡大を強く支援するために多様な施策がとられており、高い成果をあげている場合もある。しかし、国内の砂糖市場が縮小し、国内糖業の支持のための財政負担の効率性も厳しく問われている状況下においては、こうしたモノカルチャー的なさとうきび作の拡大に偏った政策を再検討することも必要かもしれない。さらには、今後、離島社会の振興をより持続的な基盤の上で進めるためには、各島の事情に応じて、農業と他の経済部門との連携を含んだ柔軟な施策を採用していくことが求められると考察される。
著者
足立 恭一郎
出版者
農林水産省農林水産政策研究所
雑誌
農林水産政策研究 (ISSN:1346700X)
巻号頁・発行日
no.2, pp.27-46, 2002-03
被引用文献数
2

1993年2月を画期とする軍人政権から文民政権への移行に伴い、韓国農政はそれまでの単線的な規模拡大・生産コスト削減路線から親環境農業路線へと徐々に方向を転換しはじめた。親環境とは、環境への優しさを強調する韓国独自の表現であり、日本でいう有機栽培と特別栽培の双方が含まれる。 この農政パラダイムの転換を唱導したのは許信行氏、崔洋夫氏、金成勲氏という韓国を代表する3人の農業経済学者であった。許信行氏は金泳三大統領の下で韓国農政史上初の学者長官(在任期間:1993.2.26.~93.12.21.)に就任し、崔洋夫氏は学者秘書官として大統領府の初代農水産主席(1993.12.23.~98.2.24.)を金泳三政権の全期間に亘って務めた。そして、金成勲氏は金大中大統領の下で韓国農政史上2人目の学者長官(1998.3.3.~2000.8.7.)に就任し、持続農業(許氏)・環境農業(崔氏)・親環境農業(金氏)をそれぞれ「韓国農業の4つの進路」(許氏及び崔氏)或いは「韓国農業の生き残る道」(金氏)に位置づけて積極的に推進した。 1993年2月から2000年8月まで7年半、3人の農業経済学者が理論的裏付けを有するそれぞれの農政理念に基づいて主導した農政改革は奏功し、韓国の農政は今、その軸足を親環境農業路線に置くようになった。環境農業育成法の制定、親環境農業直接支払制度および水田農業直接支払制度の導入、親環境農産物認証制度の導入と同流通システムの整備などはその端的な事例である。大統領制をとる韓国では政権交代により農政自体も大きく変わるため、金泳三、金大中政権と続いた農政変革路線がいつまで続くか予断を許さないが、韓国農政の今後の展開に注目したい。
著者
草野 拓司
出版者
農林水産省農林水産政策研究所
雑誌
農林水産政策研究 (ISSN:1346700X)
巻号頁・発行日
no.21, pp.71-90, 2014-02

本稿は,インド農村金融の中心的存在である単位信用農協が,政府の債務帳消し政策により金融規律の欠如した借り手を相手にして低返済率を強いられている現状を踏まえ,多大な費用を要さずに高返済率を達成するための方法を明らかにしようとしたものである。このために,近隣の製糖協同組合との協同組合間連携により,多大な費用をかけずに高返済率を達成している一単位信用農協を事例とし,実証的に分析を行った。その結果,連携先である製糖協同組合が事例単位信用農協に対して,組合員の甘蔗出荷額から天引きして返済することに加え,組合員の情報を提供し情報の非対称性を緩和させることが,高返済率達成の主要因であることが明らかになった。ただし,そのような天引きが強制される融資契約に組合員が参加するためのインセンティブが必要であり,連携のメカニズムの中にそれをもたらす機能が内在されていることが重要であることもわかった。また,協同組合間連携を行う場合,特に,追加的な事務コストが発生するなど,製糖協同組合にデメリットが生じるため,なぜそのようなシステムが長年にわたって維持されてきたのかという疑問が生じる。そこで,製糖協同組合がこのシステムに参加するインセンティブについての分析を試みた。その結果,製糖協同組合の場合,組合員が農業資金を獲得して安定した甘蔗生産を行うことが製糖協同組合の経営を安定させるために不可欠であるため,組合員の農業資金獲得が製糖協同組合にとってのメリットとなり,デメリットを上回ることが,参加のインセンティブになっていることが明らかになった。
著者
鈴村 源太郎
出版者
農林水産省農林水産政策研究所
雑誌
農林水産政策研究 (ISSN:1346700X)
巻号頁・発行日
no.15, pp.41-59, 2009-06
被引用文献数
2

わが国の農村の中には、修学旅行などを通じた小中学生等の受け入れにより、地域活性化に役立てている地域がある。関連して、国では、小学生の農林漁業宿泊体験を進める「子ども農山漁村交流プロジェクト」事業が進められている。近年の修学旅行では「体験学習」の位置づけが高まっており、中でも関心の高い民泊を伴う「農林漁業体験」は、教育的配慮から「ホンモノ」を求める動きが強い。長野県飯田市と福島県喜多方市における事例分析によれば、受入農家や地域への波及効果として、様々な効果が確認されている。経済効果は、宿泊を含む体験料金収入が最大で年約50万円程度になっているほか、作業効率が向上した例もある。非経済効果としては、子供との共感から生まれる感動や手紙のやりとりから元気を得た農家が多く、地域の連帯感や活気などの副次的効果も確認されている。とはいえ、体験教育旅行は、時期的な集中や家族の協力、コストの見直しなど課題も多い。受入は小規模複合経営が中心であるが、現状では農業生産をしっかり行った上で、労働力の空き時間の範囲での実施を前提に取り組むのが望ましいと考えられる。「ホンモノ」の体験を提供するためにも、受入農家の農業生産を継統的に支える仕組みづくりが同時に必要とされる。本稿は、小中学生を対象とした体験教育旅行が、農業経営あるいは地域コーディネート組織に与える影響側面を実態的に明らかにするとともに、農村地域への経済的・社会的波及効果や今後の展望等について検討することを目的としている。
著者
勝又 健太郎
出版者
農林水産省農林水産政策研究所
雑誌
農林水産政策研究 (ISSN:1346700X)
巻号頁・発行日
no.6, pp.51-81, 2004-03

WTO体制下における諸外国のセーフガード(SG)の発動事例について、農産物に関する事例に重点をおいて、発動状況、発動条件の運用実態及びWTOの紛争処理の過程でパネル及び上級委員会により示された発動条件の運用に関する国際規律を整理・分析した。SG協定発効前後で発動件数は、減少から増加に転じた。全体的に農産物の事例の方が鉱工業製品の事例に比べて、発動手段についてはより数量管理的(輸入数量制限、関税割当)、発動期間についてはより長期の措置となっている。農産物に関する事例についての発動条件(輸入増加及び損害指標の定量的評価等)の運用実態については、輸入が減少している事例があり、また、全ての損害指標の評価結果が低下している訳ではなく、評価を定性的・間接的・代替的に行った事例がある。農産物に関する事例の中では、韓国の脱脂粉乳調整品、米国の小麦グルテン及びラム肉、チリの小麦・小麦粉及び食用植物油の輸入に関する措置が紛争案件となり、パネル及び上級委員会で検討されたが、全てSG協定違反とされた。SG協定の規定に対して厳密な解釈が行われ、各国の事例の実態をパネル及び上級委員会が示した国際規律に照らして判断すると、発動条件を完全に満たすことは困難である。発動の前提として、産品の同種性・直接的競合性の解釈や損害指標の評価手法と因果関係の分析手法の確立が不可欠である。
著者
勝又 健太郎
出版者
農林水産省農林水産政策研究所
雑誌
農林水産政策研究 (ISSN:1346700X)
巻号頁・発行日
no.6, pp.51-81, 2004-03

WTO体制下における諸外国のセーフガード(SG)の発動事例について、農産物に関する事例に重点をおいて、発動状況、発動条件の運用実態及びWTOの紛争処理の過程でパネル及び上級委員会により示された発動条件の運用に関する国際規律を整理・分析した。SG協定発効前後で発動件数は、減少から増加に転じた。全体的に農産物の事例の方が鉱工業製品の事例に比べて、発動手段についてはより数量管理的(輸入数量制限、関税割当)、発動期間についてはより長期の措置となっている。農産物に関する事例についての発動条件(輸入増加及び損害指標の定量的評価等)の運用実態については、輸入が減少している事例があり、また、全ての損害指標の評価結果が低下している訳ではなく、評価を定性的・間接的・代替的に行った事例がある。農産物に関する事例の中では、韓国の脱脂粉乳調整品、米国の小麦グルテン及びラム肉、チリの小麦・小麦粉及び食用植物油の輸入に関する措置が紛争案件となり、パネル及び上級委員会で検討されたが、全てSG協定違反とされた。SG協定の規定に対して厳密な解釈が行われ、各国の事例の実態をパネル及び上級委員会が示した国際規律に照らして判断すると、発動条件を完全に満たすことは困難である。発動の前提として、産品の同種性・直接的競合性の解釈や損害指標の評価手法と因果関係の分析手法の確立が不可欠である。
著者
相川 良彦
出版者
農林水産省農林水産政策研究所
雑誌
農林水産政策研究 (ISSN:1346700X)
巻号頁・発行日
no.4, pp.27-51, 2003-10

山形県長瀞村の戦後の農村演劇運動は宮澤賢治の芸術思想を起源とする。それは資本主義により独占され偏向された近代芸術を、地域庶民の手に取り戻し、生活に根ざした生命力を吹き込むことによって蘇らせようと主張していた。この芸術思想は、戦前において、その教え子・松田甚二郎による演劇活動を核とした村づくり運動として山形・最上で実践された。戦後において演劇は、生活記録運動のリーダー・国分一太郎の教え子と松田の演劇活動に触発された青年たちが出会って、サークル活動として蘇った。青年サークルや青年団がその活動基盤であった。それら諸組織にとって演劇は、成員の連帯強化には役立つが、資金と労働の負担が障害だった。そのため演劇の担い手は組織の連帯強化と資金難との衝突によりしばしば入れ替わった。演劇内容としては、農村演劇はテーマの追究と娯楽性との二兎を追って展開してきた。だが、青年諸組織の解散と共に、それらを活動基盤とした農村演劇も消滅した。本論は、民衆芸術としての演劇思想は誰により唱えられ、どのような内容のものであったか、その思想は如何なる社会条件と結合し演劇へと具体化されたか、演劇活動に栄枯盛衰をもたらした社会経済的条件とは何であったか、を主として演劇運動の担い手たちの証言により明らかにするものである。