- 著者
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浦山 佳恵
- 出版者
- 長野県自然保護研究所
- 雑誌
- 長野県自然保護研究所紀要 (ISSN:13440780)
- 巻号頁・発行日
- vol.4, pp.263-270, 2001
戸隠村のツキノワグマの分布変動とその要因、分布変動に伴う住民への被害・被害防除・狩猟と活用を検討することで、北信の地域構造の一端を明らかにした。戸隠村における1967年以降のツキノワグマの里への分布拡大と農業・人身・観光業への被害発生は、村の2つの流れと関連していることが分かった。一つは、1200m以上の山林が近世戸隠神社の神領で利用が制限されていたが、明治期以降国有林になり戦後営林署が大規模伐採、高度経済成長期は営林署・村がスキー場開発をする流れ、もう一つは戦後炭焼きと麻の栽培による住民の生業形態が戦後崩れ、新たな商品作物を模索するなか高度経済成長期以降観光業に活路を見出すという流れである。被害に対し、農家・観光業者は駆除や自己防除を行ってきたが、農業従事者の高齢化・観光業への影響を押さえる意図・戦後クマが生息するようになった地域で一般的に指摘される住民のクマへの過剰反応から、駆除に依存する傾向があった。一方クマ猟は狩猟技術の未熟さから狩期の捕獲数は少なく、商品化は未発達であった。こうした住民の対応は、観光業という要素を除けば、戦後新たにクマが出没する全地域にある程度共通するものと考えられた。